――農業、農村、JAが置かれている状況についてどう考えておられますか。
木村 農業といえども国内だけを考えればいいという前提がなくなり、完全に国際社会のなかに放り込まれました。過去、ここまで厳しい状況になったことはないです。しかも農産物輸入問題だけではなく、金融など国際化の問題はたくさんある。
また、国内ではいろいろな業態が細分化し農協の分野にも、相当入ってきている。地域においても全国段階でもそうです。経営体としての農協の足下が相当脅かされていると考えなければなりません。たとえば、建設業界が福祉事業を手がけるなど、これまでに考えられないことが起きている。
しかし、私たちには協同組合としての使命があるから、組織としてのしっかりとした方向性を持って今後に再対応していかなければなりません。
――組合員の意識も多様化していると言われます。
木村 やはり意識の共有が大事でしょう。金銭感覚だけで選択肢のひとつとして農協を選ぶ、という意識が組合員にありはしないかという心配があります。
その前に農業協同組合とはなんぞや、それに対して組合員の存在意義とは何だ、ということにしっかりと単協を中心として取り組む必要がある。それがないと組合員の農協離れにつながる。
そこをしっかりわきまえて組合員とハートの面を含めて一緒にやっていくという意識がないといけないと思います。それがあって初めて農協との信頼関係が生まれ、利用度の向上につながるわけですから。
――心と心のつながりを生み出すことが農協の活動にとって大切だということでしょうか。
木村 それが基本にある、ということです。
農協というのは信用事業、共済事業、営農経済事業などがおもな事業ですね。しかし、ただそれらを事業の視点だけでやってしまうと組合員、地域が離れるもとになる。だから、そこに教育文化活動の大切さがある。
『家の光』をはじめとした3誌の活用などを通じて組合員といろいろな話し合いを持ちハートをつないでいく。各事業がある一方で、心のゆとり、心のなごみといったものもないと、この厳しい時代というのは人々は乗り越えられないのではないかという思いを私は持っています。だから、事業が主、教育文化活動は従かもしれませんが、この従の部分を各単協はこまめにあるいは大胆にやっていく必要があると思っています。
『家の光』など3誌の購読部数が減っていくことは非常にまずいことだと思っています。というのも、国内のマスメディアは今は農業に関することはほとんど取り上げないからです。そういうなかに私たちの組織や農家がいるわけですから、自分たちの関わっている分野についての意識が廃れてしまう。
私たちが部数を増やす努力をする、それを組合員に渡して、組合員に、WTOや国内の競争の問題などの現実を分かってもらう。そこを分かってもらわなければ農協への結集はできないんじゃないでしょうか。
やはり、読むこと、読ませることが大事だと思います。教育文化活動は、ひとつはこのように現状認識を持つため、自分たち自身がどういう状況に置かれているかを知るためですね。社会の情勢を冷静に見て判断することが大切です。役職員も農業協同組合の位置づけ、力量というものをしっかり分かってそのなかで何をしなければならないかを考えなくてはならない。
もうひとつは、心の活力、元気を出すためです。全国家の光大会でも毎年、大変すばらしい体験発表がありますね。
――懇話会として特別決議を採択しましたが、決議の持つ意味について改めてお聞かせください。
木村 これは当然の決議だと考えています。「10年後も元気なJAでいるために」と強調しているのは、現状認識をしっかりしようということです。
それから合併前に家の光文化賞を受賞したJAも、もう一度チャレンジしようというのは、やはり一度受賞してそのままであれば、組合員との接点をなくし農協の活動自体が低下していってしまうからです。常に挑戦するという意識がないと。人間は挑戦者のかたまりではないかと思います。やはり挑戦するということは、最低限必要なことだと思います。
チャレンジするということ自体が、たとえば組合員との接点を自分たちの農協はどう築いているのかを点検することにもなる。そして、新たな家の光文化賞受賞JAが出てくる。それは組織全体が強くなることではないでしょうか。