原油価格の高騰もあってJAグループの石油・LPガスなど燃料事業を取り巻く環境は、依然として厳しいものがある。また、現在すすめられている経済事業改革では、JA―SSなど拠点型事業の収支改善が大きな柱として位置づけられている。全農「新生プラン」実践の初年度である今年度、全農燃料部はこうした状況のなかどのような事業を展開していくのか。その基本的な考え方を永井滋部長に聞いた。
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JAエリア戦略を核に
石油事業を再構築
◆個々のSSで進む収支の改善
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永井滋部長 |
――まずはじめに、今年度の燃料部事業方針の基本的な考え方をお話いただけますか。
永井 今年度は、全農の事業体制・運営の再構築をめざした「新生プラン」の初年度として、改革のスピードをあげ、軌道に乗せる重要な年です。こうした状況を踏まえて、燃料部としては、これまで策定・実践してきた石油やLPガス事業構想を一層強化して事業・経営戦略の柱にして、個々の施策の展開を加速して取り組んでいかなければならないと考えています。
――経済事業改革の重要な柱として、JA―SSの収支改善が位置づけられていますが、現在の状況についてどうみておられますか。
永井 16年度のSS経営実態分析(2751SS)では、SSの黒字比率は50.1%となり、15年度と同じような比率でした。粗収益は増加しましたが、一方で経費関係(共管配賦等)の増加があったことにより改善がもう一つでした。今後一層JAと一緒になって、SSの収支改善、SSの統廃合、の取り組みを進めていかなければならないと思っています。
――原油価格の高騰は大きな影響がありますか。
永井 価格が上がれば上がるほど消費者は使わなくなります。そうなると地域によっては安売り競争になります。コストは上がっていますから安売りすれば利益が圧縮されます。一方で、セルフSSが増えてきていますから、価格競争が起こり、市況が乱れてくるということもあります。
◆組合員にも理解してもらい統廃合・施設を改善
――石油事業における大きなポイントは何でしょうか。
永井 まず第一に、JAにおける基幹SSを設定しながら、SSの運営体制・方法の見直しや統廃合、新規SSの設置などを計画的に進め、収支の確立をはかる「JAエリア戦略」の実践です。現在、600近いJAが石油事業を行っていますが、昨年12月末時点で485JAに対して具体的な提案活動を行いました。そのうちJAの理事会や総代会で決定されているのは約200JAです。残りの200余JAについてもできるだけ早い時期に理事会や総代会で決めていただくように、県本部・経済連と一緒になって取り組んでいきたいと考えています。
こうした拠点型事業の収支改善が、10月の24回JA全国大会以降も継続的な課題となると思います。
◆万一の油漏洩に備え保険制度も導入
永井 二つ目は、いま全国に4200の固定式JA―SSがあります(2月末現在)が、建築後30年以上が全体の35%、20年以上が60%という実態があります。こうした老朽化した施設では、地下埋設タンクや配管類から土壌に油が漏れる恐れがあります。こうした環境問題を起こさないために、JA組合員の方々にもキチンとご理解いただいて、エリア戦略にもとづくSSの統廃合や施設の改善を進めていきたいと考えています。
――油の漏洩問題では保険制度も導入されましたね。
永井 昨年、万が一のときに保険でも対応できるように、「JASS土壌浄化保険補償制度(環境汚染賠償責任保険)」を共栄火災と開発しました。
――地下タンクの経過年数とか保険会社による事前引受審査が必要なようですが、ぜひ利用してもらいたいですね。
永井 そうですね。そしてエリア戦略を進めると同時に、県本部と一緒になったSV活動を通じて収支改善をやっていく。これが石油事業における経済事業改革の大きな取り組みです。
◆地域の実情にあったセルフ建設や経営受託も
――セルフ化も収支改善の一つの方法だと思いますが…
永井 4月1日末現在で、156か所のセルフJA―SSがあります。セルフの場合は固定費がある程度少なくてすみますから、いい立地で数量が出れば収益は改善できると思います。
――JAの場合には、コストに占める人件費比率が高いですね。
永井 人件費のことを考えると、今後はセルフが中心になっていくのかなと思います。しかし、JAグループの場合には、都市部よりも中山間地をエリアとしているので大きなものをつくればいいとはいえませんから、地域にあった形で、投資を抑えローコストで運営できるセルフの建設指導もしていかなければいけないと思いますね。
――収支改善では経営受託もありますね。
永井 経済事業改革の一環として、JAが石油事業から撤退をしたいとか、事業を継続したいけれどもノウハウがないという場合に、平成15年度から一定の基準を設けたうえで、私どもがJAから経営受託する制度をつくりました。全国本部と県本部を合わせて33JA92SSの経営を受託しています(3月末現在)。平成16年3月には9か所でしたから、かなり増えています。これも経済事業改革の大きな成果ではないかと思います。
これまでもうしあげましたように、エリア戦略策定・実践、セルフの設置、経営受託を3本柱として、石油事業基盤の再構築を全国的にはかっていきたいと考えています。
――築後30年以上が35%もあるということは、エリア戦略を進めていくと、将来的には全国3000SS前後になるんでしょうね。
永井 基幹SSが1000と中山間地などの利便性に対応したライフラインSSを合わせてその程度になるかもしれませんね。基幹SSのうちセルフがかなりのウェイトを占めるのではないかと予測しています。
――「新生プラン」では担い手対応が大きな柱となっていますが、石油事業では何かお考えですか。
永井 担い手対応について石油事業で考えた場合、営農用A重油の安定供給と弾力的な価格対応を通じて生産支援をしていきたいと基本的には考えています。そのために、現場での実態把握しながら支援策について検討をしています。
◆事業体制のスリム化、広域物流でコストの削減
――事業体制についてはどのように進めていくのでしょうか。
永井 現在、全農全体としての事業体制のあり方を検討していますので、最終的にはそれにもとづいた事業体制の構築をはかっていきますが、石油事業としては事業のスリム化をはかるために、全国に10ヶ所あった広域拠点を今年4月から8か所に集約しました。今後も検討を加えてさらにスリム化をはかっていきたいと思います。そして、全国本部は購買機能に特化し、広域拠点と県本部が一緒になってJAへの推進をしていきたいと考えています。
――物流コストの削減も大きなテーマとなっていますが…
永井 物流コスト削減については、未実施エリアでの広域物流への移行を含む最適物流のさらなる実施、内陸の使命を終えた中継基地を廃止するなどを実施していっそうの削減をはかっていきます。
消費者に信頼される
くみあいプロパンへ
◆消費者視点にたった保安優先の事業を確立
――LPガス事業についてはどうですか。
永井 昨年、経済産業省の改善命令を受けましたが、全国本部・県本部・JA・子会社がLPガス事業の原点に戻り、消費者視点にたった保安を最優先にした事業の確立をめざしていきたいと考えています。そういう意味では昨年12月に「保安対策室」を設置し、県本部に保安責任者を置き、内部的には自主点検要領と査察要領を作成し、相互にチェックをしていく、そしてそれぞれの仕事の見直していきます。また、業務主任者の役割・位置づけを明確にして機能できるように指導していきたいと思います。、
そのことで「くみあいプロパンは安全」だと、消費者に信頼される事業にしていきたいと考えています。これが、今年の最大の課題だと考えています。
◆子会社、販売所の再編で事業基盤を再構築
――子会社の再編も計画されていますね。
永井 全国本部・県本部合わせて子会社が13社あります。これを9社体制にするという構想を立てています。これは15年度の生活委員会でLPガス事業は、卸と小売りの広域会社にしていくことにしていますので、それがベースとなっています。しかし、県域によってその成り立ちが違いますから、18年度上期中には、その実態把握をして広域会社化にどう組成していくのかを整理し、卸と小売りが一体となり保安も確保できたLPガス事業の再構築に取り組んでいかなければならないと考えています。
――LPガスの場合も価格を含めて競合が厳しいですね。
永井 それに対抗するには、販売所の再編が重要な課題となります。JAの理解を得ながら、JA別のマスタープラン(再編方策)を策定し、実践していきたいと思います。
そういう形でスリム化し効率化していけば、クリーンなエネルギーですからオール電化にも対抗していけると思います。
◆燃料電池など新エネルギーの実験も
――クリーンなエネルギーということでは、新エネルギーについても取り組まれていますね。
永井 昨年から平塚の農業技術センターにおいて燃料電池の実証試験を行っています。また、営農総合対策部では、経産省の補助を受け、バイオエタノールの調査事業を手がけました。燃料部は、このプロジェクトにも参画し、石油業界の動きとか物流などの情報を提供しました。
新エネルギーの導入に関しては、国全体の動向がいまだ不明確なところがありますし、税制問題、品確法などがクリアされないと進まない側面はあると思います。
――お忙しいなかありがとうございました。