JA東京むさしは長期共済の保有純増で東京都内では群を抜き、全国でもトップクラスの成果を挙げている。建物更生共済の伸びが寄与しているだけでなく、そこには生命系、中でも医療共済を起爆剤にした特徴的な取り組みがある。保有契約の減少対策を迫られているのは生命保険も同じ。その中で市場拡大を見込めるのは第3分野。とくに需要の大きい医療保険などをめぐる競争激化は必至だ。そうした状況を先取りした形で保有純増を続けている同JAの取り組みを追ってみた。 |
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鈴木順一
金融共済部長
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「顧客を失うのは簡単。しかし新規に顧客を増やすのは大変。だから既加入者を大事にするのは当然。うちの場合、当たり前のことを当たり前にやって結果を出しているといった感じだ」と鈴木順一金融共済部長は保有純増の要因を淡々と概括した。
JA東京むさしにとって保有純増は当たり前のこと。加入者を大事にするLAはこまめに顧客を訪問する。だから解約・失効率が2.9%ときわめて低く純増につながっている。
「うちのLAの意識は高いと思う」ともいう。純増意識は末端まで浸透しているそうだ。またシビアな情勢認識も共有し、新たなニーズに応えていかなければという意識を高めている。
情勢ではまず高齢化の進行がある。同JAでは21、22年ごろに生命系が満期のピーク。建更なら物件があれば継続できるが、生命系では高齢者の継続は難しい。
このままでは保有減少もやむをえない。満期対策が必要だ。このため生命共済が次世代にバトンタッチされるようにと「結婚相談センター」を設けるなど承継策を積極的に進めている。
農家、非農家を問わず全体として若い世代を対象にJAの理念をよく知ってもらおうという活動の強化にも乗り出した。
組織内では青壮年部、女性部、とりわけフレッシュミズを重視している。
◆世代交代とらえて
要するに高齢化の中で世代交代を捉えたチャンスを活かしていこうという事業展開だ。「結婚→出産→入学」というライフサイクルが順調に進むよう提案型の共済推進で支援を強めている。
「こうしたお客さまの囲い込みがますます重要になってくる」と横山勝紀常務(金融共済事業本部長)は月刊「JA共済」(05年11月号)に載った座談会記事の中で強調している。
また「保有対策」というと「守り」のイメージが強く、意気が上がらないのではないかとの疑問に対しては「そんなことはない。今の時代、常に純増=事業意識を考えて仕事をしなければ大変なことになる」と横山常務は述べ、常に収益性を意識している必要があるとの見解を示している。
解約の増加は加入者に支払う解約返戻金の増加を通じて収支を悪化させるからだ。
解約の申し出があった場合は、基本的に契約した店舗で受け付けているが、他社に流れることもあるので担当が話をよく聞いてアドバイスしている。
生保では解約の増加とともに、既契約を新商品などの契約に切り替える「転換」による新契約推進も縮小している。共済でも転換が主力だった時期があったが、鈴木部長は転換が「必ずしも純増に貢献するとはいえない」と語る。
転換前と転換後の差額を見れば微増にとどまるケースも多い。「契約者のメリットとデメリットは何なのか、保障充足は図られているのか、を問うべきではないか。従ってLAが転換を扱った場合には差額分を評価するようにしている」とのことだ。
◆医療共済がヒット
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橋本吉武 共済課長
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一方「最近は個人責任や自助努力が強くいわれて社会保障の縮小がみられる。年金がそのよい例で支給年齢は上がるし、支給率は下がってくる」(鈴木部長)という厳しい情勢もある。その中で年金共済は推進目標を毎年達成しているが、これなどもトレンドをつかんで行動するという意識の高さの表れといえる。
社会保障の縮小で健康保険や介護保険も保険料が引き上げられ、給付のほうは引き下げられた。
消費者のニーズは終身保険や養老保険などの死亡保険から、医療保険など生前給付型の保険へと移っている。共済の場合も同じだ。「入院やケガをした時に保障を取りたい。死亡保障は最低限でもよいという人が増えている」と橋本吉武共済課長は指摘する。
「高齢社会へ向けて、そうしたニーズはどんどん増えてくる」(鈴木部長)という。
医療保険はがん保険とともに生命保険と損害保険の中間に位置する商品群の主力で第3分野と呼ばれ、保険料負担が軽い。
JA東京むさしは16年度から、これの新契約推進に取り組み、実績を挙げたが、しかし「本店からは『全店で医療共済を売れ』とは一切いわなかった。あくまで支店独自の方針に任せた」(橋本課長)。
建更でも昨今は大きな物件が少なくなってきた。したがって売れるものは何か、こまめに材料を探して件数で稼がなければならない。ただし、その地区に合った商品でないといけないといったことから支店に任せた。
◆市場特性よく分析
最初に取り組んだのは全17支店のうち半数くらいだったが、成果が挙がったので翌17年度には全支店が取り扱い、医療共済の新契約実績は24億9000万円となった。
加入がもっとも増えたのは商店街が圧倒的に多い地域だった。新しい商品、売りやすい商品ということで医療を切り口にJA共済の市場を開拓した推進ともいえる。
総合JAは経済、信用など各事業で取引業者が多い。そうしたつながりを活かして推進実績を挙げた。
自営業者は国保加入が多い。国保は保険料負担に比べて給付水準が低い。サラリーマンのように定期健康診断をきちんと受ける時間にも余り恵まれていないため病気になった時の不安感が強い。そこにJA共済の相互扶助の手が差しのべられた形だ。
しかし医療系は外資系のシェアが圧倒的に高い。生保と損保の参入も今後さらに激化する。JAとしては管内の市場特性の分析と対策に取り組んできたが、それらを活かした活動をさらに強化する必要がある。
新加入者の開拓では「ニューパートナー対策」や「フォルダー登録」の推進なども実施しており、今後の効果が期待されている。
豊富な情報活かすLA
広範な業務で顧客密着
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JA東京むさしの平成17年度共済推進大会 |
◆LAは“何でも屋”
JA東京むさしは三鷹、小平、国分寺、小金井、武蔵野の5市5JAが合併して10年4月に発足した典型的な都市型JAだ。住宅街と商店街が多い。そうした地域特性から准組合員が増えている。
5地区にはそれぞれ統括支店長がいて、各地区の特性に見合った推進をしており、本店からは余り具体的な指示は出さない。このため地区ごとに、がんとか医療とか終身など高い実績を挙げる共済の種類がことなっている。
ところが5地区の実績をまとめてみると、どの種類もバランスよく伸びており、全体としてよい方向に向かっている(鈴木部長)とのことだ。JA全体としては医療だけでなく、終身や養老、こども共済などもまんべんなく売れている。
職員約340人のうちLAは62人。みな複合LAで専任はいない。その業務は共済・信用事業はもちろん、米やお茶、それに最近は食材の販売などにまで手を広げている。これも同JAの大きな特色だ。JAは旬の青果などを取り扱う「旬鮮クラブ」という頒布会のような事業もしているが、その仕事の第一線もLAだ。
LAはJAのすべての事業にわたって推進の核になっており、業務が多岐にわたる負の面もなきにしもあらずだが、それよりも総合性を発揮できる利点が非常に大きいという。
取り扱い商品がさまざまなのでこまめに顧客を訪問しており、そこの家族構成なども自然に知るようになって、ニーズに合わせた提案型の推進をして喜ばれている。例えば出産があれば、こども共済を勧めるといった具合だ。
◆体験発表で底上げ
顧客密着による豊富な情報量は他の金融機関ではまねのできないほどきめこまかい。それらを活かす活動が解約・失効を少なくし、保有純増をもたらしている。ただし個人情報保護の観点から情報の安易な利用や提供は厳に慎むべきだとの指導も怠りない。
共済事業におけるLAの実績シェアは80%に達している。これに貢献しているのは特定のLAではなく、全員が支店長と相談の上で自主目標を達成し、各支店の保有純増に寄与している。
LAのレベルアップについてはJA共済連主催の研修に参加するのはもとより、各地区ごとにも事例研究を中心にした研修を定例的に開き、より実践的な知識とスキルを身につけさせている。
毎年3月の全員研修会では優れたLAが体験発表をしている。推進の際、ライフプランに合わせた提案をどのよう説明しているのかなどを生の体験で話す。
優秀なLAはよく考えて活動している。そうしたことを全体のLAに広げて底上げを図っている。
また生保の商品や簡保のことなどもJA共済の仕組みと詳細に比較して研究。こうした研修から〈保障内容はJA共済のほうが充実している〉などと自信を深め、提案型推進の質を高めるのに役立っている。さらに年度始めには必ずJA共済の仕組み改訂などについての研修会を地区ごとに開催している。
JA東京むさし の概況
(平成17年度末)正組合員3117人、准組合員9159人
▽管内人口約71万人
▽貯金3681億円
▽貸出金1432億円
▽購買事業取扱高13億3000万円
▽販売事業同1億1000万円JA東京むさしの実績
(平成17年度末)
保有契約高7073億円(うち建更共済は5393億円、
生命共済は1680億円)
▽保有純増額181億9000万円▽純増率102.6%
▽新契約実績に占める純増額の割合29.6%
▽生命共済の新契約推進実績187億円
▽目標達成率108%。 |
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