農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 食と農を結ぶJAづくりのために

JAの現場からJAのビジョン
づくりに向けた戦略を考える
21世紀型JA運動を作り出そう
白石正彦 東京農業大学国際食料情報学部教授

 JAグループは、今年10月に開催される第24回JA全国大会に向けて議案の組織協議を各地で行っている。議案では「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」を掲げ、農業振興と地域貢献を柱にJAグループ全体の将来ビジョンを描くとともに、全国のJAでも地域の実態に合わせた「JAごとのビジョン」を策定することが今大会の大きな特徴だ。
 そこで本紙では、今後、JAがビジョンを策定していくにあたって、組合員・地域住民などのニーズや事業課題などについてどう分析し、戦略を描いていくのかについて10JA(今号では6JAを紹介)を現地取材し特集とした。特集にあたって「活力あるJAづくり」の課題について東京農業大学の白石正彦教授に提言してもらった。(現地ルポを近日中に掲載)

1.食と農を結ぶJAづくりの視点

(1)食と農の乖離(かいり)の中で食品の鮮度、おいしさに対する消費者ニーズが高まる

しらいし・まさひこ
しらいし・まさひこ 九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食料情報学部教授。平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、平成10年ドイツ・マーブルク大学経済学部客員教授、日本協同組合学会前会長。

 我が国における「最終消費額からみた飲食費の流れ(平成12年)」からみると、飲食費の最終消費額が80.3兆円(うち生鮮品等18.8%、加工品51.7%、外食29.5%)に対して、川上に位置する食用農水産物のうち国内生産は12.1兆円、生鮮品の輸入が3.2兆円、川中の最終製品の輸入が1.9兆円と、食用農水産物の国内生産は最終消費額の15.1%でしかない。
 このような食料消費と国内農業の<RUBY CHAR="乖離","かいり">の中で、日本生協連による組合員モニター728人からの食品への安全・安心ニーズ調査(2005年実施)結果をみると、「生鮮食品を買うとき重要だと思うこと」として、「鮮度がよい」が87%と最も高く、「安い」は47%に留まっている。同様に、「加工食品」に対しては「おいしい」が77%と最も高く、「安い」は42%に留まっている。すなわち、食品の鮮度、おいしさに対する消費者ニーズの高まりに、国内農業、JAさらに食品産業が十分に対応できていない点を問題とすべきである。


(2)米国マーケティング協会による「マーケティング」の新しい定義

 米国マーケティング協会による2004年の「マーケティング」の新しい定義は、「マーケティングとは、組織とそのステークホルダー(組織を取り巻く関係集団)にとって利益をもたらす方法で、顧客に向けて価値を創造し、伝達し、提供したり、顧客との関係性を構築したりするための組織的機能とその一連のプロセスである」と規定し、マーケティングに関わる主体とステークホルダーが顧客に向けた価値創造、伝達、提供、関係性の組織化とプロセスの重要性を明示し注目される。すなわち、前述の日本生協連の調査結果と同様に、「顧客に向けての価値創造」が食と国内農業の結びつきを高める最大のポイントでありながら、国内の論議にはこれに焦点が定まっていない点が問題である。

(3)JAへの組合員の結集力、JAの求心力の強化による21世紀型JA運動の再生

 「JAづくり」の視点は、JAの実践現場が、一方で上述した外部環境把握の焦点(特に、行政の公共的なインフラ整備への責務のチェックと顧客に向けての価値創造)を鮮明にし、他方では「21世紀の協同組合原則(定義・価値・原則)」と「JA綱領」を評価基準の焦点として鮮明にすることであろう。この点を軽視して、安易にJAの置かれた多様性に力点が置かれると、JA運動としての結集力の弱体化が懸念される。
 とくに、後者は21世紀型JA運動再生の要として、「横軸」に組合員(特に農業者)とJAを結ぶ中間組織である目的別・属性別・集落別の「組合員組織」の再編・活性化のための徹底した論議、「縦軸」にJAの事業・経営における協同組合らしさの徹底した論議を位置づけ、「JAによる食と農をむすぶ使命と真の豊かさの追求」が共感として伝わるようなビジョンと戦略の鮮明化が求められている。

2.地域の実態に合わせたJAビジョンと
JAへの求心力強化のメカニズム

 第24回JA全国大会組織協議案で「地域の実態に合わせたJAビジョン策定の意義」が明示されている。今回、本紙の現地取材で明らかにされた各JAのビジョンづくりの実態と各JAへの求心力強化のメカニズムを明らかにしたい。

(1) JAみやぎ登米(宮城県)とJAそうま(福島県)の実態

 米産地であるJAみやぎ登米(宮城県)とJAそうま(福島県)は、米政策の改革による新たな選別的な担い手政策や品目横断政策の導入、さらにWTO交渉の動向も主体的に視野におきながら、JAへの組合員の求心力の要に「環境保全米づくり」や「エコファーマーづくり」による「米の価値創造(高付加価値化)」に焦点を当て挑戦している点を評価したい。全国的にはJAによる米の生産調整と転作作目や担い手としての集落営農組織体づくりなど、選別政策への受動的対応も目立っているが、それでは組合員の結集意欲を減退させかねない。

(2)JAちば県北(千葉県)の実態

 首都圏近郊の枝豆など個性的な複数の野菜ブランド産地であるJAちば県北(千葉県)は、技術改善意欲の旺盛な多彩な小グループが数多く組織化され、枝豆などを農家―小グループ―JA―卸売市場までを保冷システムで連結し、高品質ブランド(枝豆の「おたふく」「なつみちゃん」など)を実現し、JAへの求心力を高めている点を評価したい。全国的には、都市化と共に農業の後退傾向が目立っているが、近郊農業における都市圧のマイナス面を抑制しつつ、消費者や市場が接近している都市益のメリットを生かす余地は大きい。

(3)JA嬬恋村(群馬県)の実態

 日本一のキャベツ産地であるJA嬬恋村(群馬県)は、農家―出荷組合―農協―卸売市場を保冷システムで連結し、高品質ブランド化を持続しており、さらに契約的取引目標を35%として、JAへの求心力を高めている点を評価したい。このような農家組合員とJAの緊張感とロマンをもった挑戦を、21世紀型JA運動の萌芽として位置づけることも可能であろう。

(4)JAおちいまばりとJAにしうわ(愛媛県)の実態

 柑橘類の消費減退傾向が目立つ中で、伝統的な柑橘産地であるJAおちいまばり(愛媛県)では、美味しさと安心ニーズに応える柑橘の新品種の導入と大型施設への取組みをJAの求心力として取組み、JAにしうわ(愛媛県)は、「日の丸みかん」など有名ブランド産地の持続と農家手取りを優先して、生産資材費や流通経費など生産コストの削減と光センサー選果機の導入による高付加価値化によってJAへの求心力を高めている点を評価したい。

3.JAの経済事業改革等の直面する問題点と
改革をすすめる重要なポイントは何か

 各JAの経済事業改革が直面する問題点を全国的動向として見た場合に、組合員と協同組合の関係を協同組合らしく充実してゆく方策(組合員を顧客化しない方策)を組織基盤づくりという次元に留めないで、事業・経営改革の次元にも貫く努力が弱い。
 消費者や外食産業等に本格的に国産農産物を購買してもらうためには、農業者とJAが連携し、関係業界ともパートナーとしての信頼関係を高めつつ、地域農産物の生産・集荷・選別(あるいは乾燥・籾すり)・保管・配送・分荷など一連のプロセスに「環境保全」、「鮮度や美味しさ」、「安心・安全」、「トレーサビリティ」などの「地域農産物の価値創造のネットワークづくり」に本格的に取り組み、その成果なり評価として、農業者とJAの「社会的責任発揮」と「高付加価値化(農家手取りの拡大とJAの適正マージンの確保)」を重層的に追求すべきである。

(2006.7.25)

 



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