JAグループは、日本農業と地域を支え、安心・安全な農産物の供給や組合員・地域住民から信頼される事業・運動をめざし、経済事業改革をはじめとするJA改革に取り組んでいる。今年10月に開催される第24回JA全国大会に向けて議案の組織協議が各地で行われているが、議案の主題は「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」を掲げている。議案では、農業振興と地域貢献を柱にJAグループ全体の将来ビジョンを描くとともに、全国のJAでも地域の実態に合わせた「JAごとのビジョン」策定が今大会の大きな特徴だ。
今後、JAがビジョンを策定していくにあたって、組合員・地域住民などのニーズや事業課題などについてどう分析し、戦略を描いていくのかが重要になるが、本紙では夏の特集号として、JAそれぞれの課題とJAグループ全体の課題を明らかにするため、現場JAの取り組みを2回に分けてレポートする。全国各地のJAにとって本特集が活力となれば幸いである。
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米産地では、消費者のニーズを捉えた需要に見合った米づくりが課題となっている。JAみやぎ登米とJAそうまでは、「環境」をキーワードに打ち出し米づくりを大きく転換した。その取り組みが消費者に支持され、改めて地域に米づくりの意欲をもたらし、組合員の「結集力」も高めている。
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組合員の心を動かした「環境保全米」
JAへの結集力を高める原動力に
JAみやぎ登米
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阿部長壽代表理事組合長 |
◆地域農業の改革からJA改革へ
JAみやぎ登米は平成10年に登米郡の8町8JAが広域合併して発足した。組合員数は約1万7000人。農産物販売高は約200億円でこのうち米穀関係が120億円を占める。合併により県内一の「米どころ」となった。
阿部長壽代表理事組合長は平成14年に就任。当時から、全国で進められるJA改革について懸念していたのは「改革の過程で農協運動が風化してしまっているのではないか」である。
たとえば、販売事業の改革も営農指導費の削減で収益改善を図ろうとし、組合員との接点を持つ営農指導員を減らすなどの動きも実際にある。「それは農協自ら地域農業から離れること。改革と呼べるのだろうか」。合併による組合員のJA離れが問題にされる一方、JAの組合員離れともいうべき対応もあるのではと、しばしば指摘されてもいる。
JAみやぎ登米も決して例外といえないのではないか……。組合長就任時にまず取り組んだのが、地域農業の実態を見つめ、農協の存在意義を問い直すことだった。
この地域の農業の特徴は米が主体だが、4地域では銘柄牛も生産されるなど畜産も盛んで宮城県の4分の1の生産量を誇る。管内には6つの有機(堆肥)センター(1カ所はJA直営、他は市から指定管理運営)が稼働しており、有機資源も豊富である。総農家戸数は減少しているものの、専業農家で後継者は増え、都会から移住して農業をする人もいた。
ただし、米改革のなかで売れる米づくりに向けて産地間競争が激しくなることが見込まれるなか、地域農業にとって広域合併の農協の存在が決して大きくなっているわけではないことが、組合員と接して感じられた。集落座談会などでは生産資材価格や役員体制への不満、不信が目立った。
市場競争激化のなかで事業を行い、その成果を組合員に還元していくことこそが農協の存在意義であり、そのためにはまさに地域一丸となった新たな地域農業戦略を打ち出すことが求められていた。
そこで基軸として打ち出したのが、低農薬、無農薬による米栽培だ。生産現場の環境を守るとともに、そうした環境保全の役割を担っている農家と農地を守ることをめざした「環境保全米」の取り組みである。
キャッチフレーズは「赤とんぼの乱舞する地域に復活させよう」。米改革にともなって、販売戦略を重視した地域水田農業ビジョンづくりが各地に求めれられているが、当時本紙のインタビューで阿部組合長は「地域農業をこういう姿にする、生産のあり方をこう変える、という実践が消費者から注目されることが販売戦略につながると考えている」と答えている。(03年10月)
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◆組合員が農協に再結集
環境保全米の生産基準にはAタイプ(JAS有機栽培米)、Bタイプ(農薬・化学肥料成分を慣行栽培の2分の1、除草剤使用量も2分の1)、Cタイプ(農薬・化学肥料成分を慣行栽培の2分の1)の3つがある。
JAとして米づくりを大きく転換する運動を広げるための手始めとして、14年から種子の温湯消毒を組合員に呼びかけた。それも組合員がJAの施設に足を運んでくれるようにと、消毒機を営農経済センターなどに設置。16年には地元の農業共済組合から温湯消毒機寄贈の支援を受け、作付け面積すべてをカバーできる100台にまで増やした。
15年産から本格的に環境保全米に取り組み、この年は約1000ヘクタールで栽培された。そして翌16年には約6000ヘクタールにまで拡大する。
低農薬、無農薬栽培の取り組みは一部の地域ですでに行われていたが、これをJAとして地域全体で実践しようとしたことに大きな特徴がある。
そのためにはまずJAの役職員の意識改革が必要だった。とくに営農指導の職員は、長年、近代化農法で農業を考えてきただけに栽培方針の大転換には抵抗もあった。また、組合員からは環境保全米に取り組むことでどんなメリットがあるのかという声もあがった。
それに対する回答は、売れ残れば減反面積が増える制度に移行するなか「これは米を売り切るための手段。付加価値は後からついてくる」と説得した。
もっとも組合員が取り組みの必要性を感じる事態も起きた。16年産で急激に作付けが増えたのは、15年産が不作だったため。ところが、環境保全米に取り組んだ生産者の米は冷害に強く収益を維持できたのである。こうした実績を目の当たりにして、多くの生産者が環境保全米の大切さに気づいた。
17年産では全作付け面積約1万1500ヘクタールの7割を占める7760ヘクタールまで拡大。生産された米は今年1月で成約した。量販店、生協、外食産業などで評価が高く、「売り切る米づくり」は実現している。そして17年産では、16年産以上の価格上乗せが実現するとのこと。18年産では環境保全米栽培は8000ヘクタールを超える見込みだ。
「今、組合員が地域のあちこちで環境保全米について語っている。環境保全米について語ることは農協を語ること。組合員の再結集につながった」と阿部組合長は話す。
事業に「運動」があってこそ改革が進む
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環境保全米の栽培ほ場には旗を立てている |
◆組合員自身も販売の場に
環境保全米に現場で取り組むのは、8つの町にある稲作部会。特筆されるのは栽培するだけでなく、これらの稲作部会がJAと一体となって販売活動を行っていることだ。各地の卸、小売り業者を訪問し販路を開拓、150社ほどと取り引きがある。自分たちで作った米の評価を直接知り、自分たちで売り先を見つけていく。また、生協などとの取引では消費者との交流も生まれ、京都生協からは産地サポーターとして農業体験に訪れるようにもなっている。
「事業のなかに運動があるかどうかだ。それが農協の事業を伸ばすことにつながる」(阿部組合長)という。
逆にいえば組合員が結集しない事業ならば、その事業が必要とされているかどうかを問うべきだというのが同JAの考え方で、不振事業部門を子会社化し合理化を図るという方針はとらない。
一方、組合員が結集したJAとして米の生産販売体制は、営農から、購買、販売まで一体化させた営農経済部として再編させた。営農指導員といえども、卸などの折衝にもあたる。生育状況などを把握していたほうが販売でも強みが発揮できるという。
販売ルートは大量のロットを供給できるメリットを発揮するため全農経由がほとんどで、一部地元スーパーと直接取引きしている。JA直売については今後拡大も視野に取り組む。外食産業からは、値下げ競争のなかを環境に配慮した米を提供することで独自色を出そうというニーズもあるという。
また、環境保全米の取り組みでは、「とめ米」などブランド化も今後の課題となっている。現在、登米市ではJAも参画して「登米市ブランド化戦略会議」を設置、市全体の農産物販売額を現在の300億円から一日1億、年365億円達成を目標に協議していく。
◆集落営農の組織化に渉外部門が連携
今後の最大の重点事項は、集落営農の組織化だ。
JAでは集落営農実践本部を今年2月に設置したほか、行政と一体となった指導体制も整備した。
管内に302ある実行組合を新たな農業の事業経営体として捉え、とくに担い手要件となっている経理の一元化を支援していく。集落営農のサポート資金の創設などは多くのJAで行われいるが、注目されるのは、金融渉外担当者も営農指導など営農部門の渉外担当者と一体となって支援、指導にあたる体制をつくっていることだ。
そのほか農機具であれば集落営農組織の立ち上げに際して大農機具のリース事業や中古農機具の買い取りなども検討していく。また、大口取引メリットを発揮できる資材供給体制も検討するが、集落営農組織へのサービス、情報提供なども担う渉外担当者も配置する。
こうした営農部門の渉外担当者とともに、経理一元化のために金融渉外もともに担い手育成で役割を果たしていくのである。
また、渉外担当者は金融のほか、共済、営農経済部門をあわせて約120名。集落営農組織が立ち上がれば、営農経営体としては一つ。しかし、構成員それぞれの生活は多様だ。そこを渉外担当者が連携して組合員のニーズに応えバックアップしていこうとしている。
集落営農組織づくりも農協運動の再構築の視点で取り組みが進められている。
JAみやぎ登米の概況
◎正組合員数:1万5285人(1万2410戸)
◎准組合員数:2069人(1437戸)
◎貯金残高:1030億円
◎貸出金残高:365億円
◎長期共済保有高:8885億円(以上18年度5月末)
◎販売品販売高:206億円
◎購買品取扱高:107億円
(17年度取扱高=3月末) |
7割超の水稲生産者がエコファーマー認定
栽培法を統一し販売力の強化へ
JAそうま
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鈴木良重代表理事組合長 |
◆「そうま米」の知名度上げる
JAそうまは、福島県浜通り北部の2市3町1村のJAが合併し、今年で10周年を迎えた。
畜産、園芸も盛んだが、米はJAの農産物販売額のうちもやしを除くと50%を超え地域農業振興の柱であることに変わりはない。
米政策改革にともなって同JAが平成16年産から取り組んでいるのが「環境と人にやさしく、おいしいそうま米」づくりである。
具体的には、化学肥料の2割以上削減と有機質肥料の施用、農薬の10成分以内使用など「エコファーマー」認定技術による米づくりである。消費者重視、市場重視の生産・販売への転換を図るためにJAが打ち出したもので、福島県内でまとまった産地として取り組むのは初めてのケースだった。
全農県本部や農業試験場などの協力も得て、栽培マニュアルを作成して生産者に呼びかけ、一斉に慣行栽培から切り替えを図ることを訴えた。試験的、段階的に切り替えていくという方針はとらなかったのである。その理由について鈴木良重代表理事組合長はこう話す。
「JAも変化のスピードに対応するという意識改革が大事。1年で切り替えるか、2年かけるか、といえば早いほうがいいに決まっている。生産者は米づくりのプロ集団。われわれが技術指導と情報提供を徹底すればすぐにできる、と職員に強調しました」。
この地域の品種はコシヒカリ、ひとめぼれのほか、あきたこまちとモチ米。すべての品種でエコファーマー米をめざした。栽培法だけではなく、整粒歩合(80%以上)、1等米比率(90%以上)などを目標にし、当然、種子更新、生産履歴記帳などJA米の要件は基本とした。
エコファーマー米栽培では有機質肥料の施用が求められるが、JAでは初年度からできるだけ多くの生産者に取り組んでもらうために、生産者が在庫として抱えている化学肥料を回収して有機質肥料の普及を図った。また、基本的には管内に6基あるカントリーエレベーター(CE5基、RC1基)で集荷し一般米と区分して扱うことにしたほか、奨励策として加算金を支払うことも決めた。
◆組合員に喜ばれる販売を
取り組みから3年めを迎える18年産では5300人の生産者のうち約4000人がエコファーマー米づくりに転換した。JAの集荷量約50万俵(60kg)のうち、75%を占めるまでになった。
この取り組みは、米政策改革が具体化するなかで、これまでと同様の米づくりであれば米の生産目標数量が減る可能性もあるという危機感からスタートした。そのためには米産地として消費者、実需者にPRできる特徴を作り出すことが必要だった。
実際、「環境」を基軸にしたこの戦略は功を奏して実需者に確実に売れ、同JA管内では17年産、18年産と2年連続で生産目標数量が拡大した。
その背景には、栽培法の転換だけではなくJAとしての販売努力に力を入れてきたこともある。
鈴木組合長は「今までは正直言ってJA段階では生産と集荷だけ、販売は全農に委託するもの、という意識だった。しかし、今後は自らが販売に立ち上がって消費者ニーズを的確に判断していかなくてはならない。この意識改革がJA改革を進めるうえでもっとも重要だと考えている」と話す。
販売努力の結果、17年産からは卸業者との取引が実現し、JA直売によって、地域の米がどの量販店でどのように売られているか、販売の現場が見えるようになったという。今後、エコファーマー米でブランドを確立し委託販売も含めて量販店などとの結びつきを強化していきたいという。
また、エコファーマー米の取り組みによって生産者も結集しはじめた。平成8年の広域合併以後、組合員が一体となった稲作部会が組織されず地域ごとに活動に差がある状態が続いてきたが、この取り組みによって3000名を超える構成員を持つ稲作部会として新たに組織することができた。
こうした取り組みをもとに18年産からは一部で県基準の特別栽培米に取り組んでいる。これも栽培基準だけではなく、網目基準を1.9ミリと通常よりも大きくし、さらに品質への評価が高まることを目標とする。19年産には作付け面積の10%に拡大しロットを確保して販売力をつけることをめざしている。また、品目横断政策の導入と同時に予定されている「農地・水・環境保全向上対策」の実施も念頭に置いた取り組みでもある。
「米の事業として将来めざす姿は、作付け前に実需者と契約し産地としては何としても契約数量を確保して届けるという生産と販売。産地として力をつけていきたい」と鈴木組合長は強調する。
営農と販売の連携で生産者をバックアップ
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栽培法の統一を武器に産地改革 |
◆栽培技術の平準化のための体制づくり
エコファーマー米の生産、販売の取り組みにより、JAでは18年度から営農指導から販売、生産資材購買までを営農経済部に一元化した。内部での連携を絶えず取り合うことにしている。
また、販売活動は基本的には本店のスタッフが担当するが、支店の営農指導員も卸や市場関係者との面談や研修の場などにも足を運んでいるという。営農指導員といっても、単に技術指導だけではなく販売の前線に立って、市場の評価など情報収集と生産者への伝達という仕事もすでに大きなウエートを占めるようになっている。
一方、同JAはきゅうり、春菊、大根、ブロッコリーなどすでに地域でブランド化を実現し、市場評価の高い品目も多い。
この園芸部門でもより販売力を強化するため営農指導体制を見直した。営農指導員は6つの支店に配属され現場をバックアップしているが、担当者ごとに専門品目がある。これまではその担当者は配属支店地域での営農指導のみにあたっていたが、それを品目別の専任担当者として位置づけ、全地域で営農指導を行うことにした。品目ごとの技術水準をJA管内全体で高め平準化を図ろうという狙いだ。
園芸部門で最近、市場評価が高いのは「氷詰めパック」したブロッコリー。3年前から取り組み、一部市場では買い取り取引も実現している。きっかけは地域のある生産者の大根の契約栽培の不振にあった。取引先が中国産を使用しはじめたことで結局は契約栽培の打ち切りに。JAの営農指導員とももに模索した結果、行き着いたのがブロッコリー栽培だった。
市場出荷形態の販売だが量販店に鮮度をアピールするため品物は直接店に卸した。しかし、当日に売れ残り翌日販売分となったブロッコリーの鮮度保持が問題にされたという。そこで少数の産地で行われていた発泡スチロールに氷詰めして出荷することを思いつく。評価は高まり取引量も安定していった。JAでは製氷設備など施設も整えて販売に力を入れ、取り組む生産者も増えているという。
販売戦略と営農指導が一体となった取り組みの好例といえるだろう。
◆合併JAとしてのメリット発揮へ
鈴木組合長が専務時代から力を入れてきたのが合併メリットの発揮。16年度から改革に取り組み27支店を11支店2出張所に再編したほか、燃料、農機、自動車部門を分社化した。また、場所別、部門別の収支管理をするために本店に事務集中センターを設置し、支店ごとに毎月実績が掌握できる体制としている。
今後は、担い手づくりと集落営農の組織化が大きな課題となることから18年3月から「農業経営安定対策班」を設置するとともに、集落ごとに担当を決め合わせて155名の職員も担い手育成支援にあたっている。エコファーマー米を軸にした同JAの地域農業振興に向けた役割発揮が期待される。
JAそうまの概況
◎正組合員数:1万6680人(1万1597戸)
◎准組合員数:4288人(3883戸)
◎貯金残高:851億円
◎貸出金残高:274億円
◎長期共済保有高:7914億円
◎販売品販売高:147億円
◎購買品取扱高:44億円(18年2月末) |