市場出荷だけではなく、契約栽培やインショップ販売など多様な販売方法で組合員の営農を守ることもJAの課題だろう。嬬恋のキャベツは全国的に認知されたブランドだが、JA嬬恋村では新たな商品開発や輸出も含めた販売多様化に取り組む。都市近郊でもブランド野菜と多彩な品目でメリットに転換できることをJAちば県北の例は示している。
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市場ニーズに合わせて販売ルートを
多様化安定供給で生産者の手取り確保
JA嬬恋村
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松本義正組合長理事 |
◆1年1作のキャベツ栽培
群馬県の西北端に位置する嬬恋村は標高700〜1400mまで広がる高原で夏秋キャベツが栽培されている。昭和50年代に野菜産地に指定されたことから、ほ場の整備、集出荷施設の設置などが進められ、生産の効率化、経営の大規模化が図られてきた。
農地面積は約3400haで総農家戸数は約900戸。農家戸数は減少しているものの経営面積は拡大し、平均の経営面積は4.6haとなっているが、5ha以上の経営が中心になっている。
嬬恋村では、大根や白菜、バレイショなども生産されているが、効率的な農業経営を追求してきた結果、キャベツを主力とした大産地となった。
キャベツの生育の適温は15〜20℃といわれ嬬恋村の6月から9月がこの適温期にあたる。キャベツ栽培は2月の下旬から種まきが始まり、6月中旬まで10数回の種まきをする。苗が育った順に定植をしていき、早いものでは6月中旬から出荷が始まる。8月から9月にかけて最盛期を迎え、10月まで出荷をする。
収穫、出荷が始まる時期、生産者は朝3時ごろから夕方まで作業に追われる。春先の種まきから10月の最後の収穫、出荷まで、この地域では1年1作のキャベツづくりが行われてきた。最盛期の3か月を称して「100日戦争」とも言われる。JAとしての営農指導の基本は、各農家ごとに労力を考えて10月までの間、可能な限り平均的な出荷ができるようにすることだという。
集出荷施設は120。そこから6つの予冷施設に運ばれ、バキューム設備で短時間冷やしてすぐに出荷するものと、翌日まで冷やして出荷するものに分けられる。
◆ニーズにいかに合わせるか
出荷量は年間1540万C/S(1ケース10kg、または15kg、キャベツ平均8個)。夏秋キャベツの全国総出荷量の38%を占めるというデータもある。本州の中央という条件から関東以外にも東北から九州まで全国的に出荷されている。嬬恋のキャベツ、といえばブランドだ。しかし、JAではさらに差別化した生産、販売をしていくことが課題だと考えている。ブランド化しているといっても、露地野菜はやはり天候に作柄が左右され不作もある一方、生産過剰で産地廃棄を余儀なくされることもある。生産者にとっては価格が安定することがもっとも望みとなる。
そのためにJAとしても市場ニーズに合わせたキャベツづくりを推進してきた。
そのひとつが「やわらか」の商品名で販売するキャベツ。量販店など家庭用消費では、生で食べられることが多いことから、柔らかい食感が好まれる。一方、加工向けでは葉の硬いものも求められる。こうした市場ニーズを生産者に伝え、品質の異なるものを組み合わせて栽培するように取り組んでいる。今、「やわらか」は生産量の約3割を占めるという。
また、最近では環境保全型農業の推進にも力を入れ、化学肥料の50%削減とフェロモン剤使用で農薬を削減して栽培する「こだわりキャベツ」も生産している。昨年までの3年間の実績をもとに18年産からは「こだわりキャベツ」としてシール付きで販売する。これもJAとして販売、出荷する嬬恋村のキャベツとしてさらなる差別化を図るための取り組みだ。
こだわり栽培や低コスト流通の拡大もめざす
◆契約栽培など多様化も課題
今、栽培面では高品質で安全・安心な野菜づくりが重要となるが、販売形態としては多様な取引も課題となる。あくまで市場出荷が中心だが、卸売市場の自由化が迫るなかで、相対取引や契約栽培も視野に入れた販売戦略は重要だろう。
JAの取り扱いのうち、約3割が契約栽培となっている。取引先は業務用に限らず、量販店、外食など幅広い。契約も1週間の市場価格をもとに値決めする取引のほか、シーズン、年間など多様な形態を取引先との交渉で選ぶ。
丸山義明農産部長は「多様な形態で取引をするためには産地はいろいろな武器を持たなければならない」と話す。
それは「こだわり」のような付加価値のあるキャベツづくりをするだけではなく、低コスト流通など相手先の要望にいかに応えられるかも含む。たとえば、JAではコンテナ輸送にも取り組み、17年度では50万ケースを輸送した。今年度は70万ケースを計画している。コンテナはリースで利用するが、ダンボール代を省くことで全体としてコストは下がるという。「取引先とお互いが理解することが大事」でそれが産地にとってもメリットとなる。
また、注目されるのは台湾への輸出を実現していること。他の産地にはない取り組みで、今年で3年目。昨年は1400トンの輸出実績を上げた。この販売は市場出荷だが、買い手側に台湾輸出の意向があり実現した。7月から9月にかけて台湾では野菜が不足気味。高冷地を野菜産地とする計画もあるが自然災害がそれを阻んでいるという。一方、国内では年によっては産地廃棄をしなければならないこともある。輸出という戦略も、安定して生産を続け、産地としてシェアを拡大するために重要な柱になってきた。
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消費者に好まれるキャベツづくりでブランドの信頼を高める |
◆販売を原点に営農指導
丸山部長が強調するのは「足でかせいで販売戦略を練る」ことだ。現在、約200社との取引があるが、販売担当の職員は東京事務所も含めて取引先への販促活動や情報交換を重視している。月に1回は営農部門との会議があるが、販売を原点とした対応を職員は心がけている。たとえば、今後の出荷量の見込みから、シーズンの途中でも契約販売を取引先に提案するなど、より確実で有利な販売へと機動的に対応するなどだ。
こうしたJAの販売努力でJAへの出荷が有利となり生産者のJA利用率も8割以上(生産資材部門)と上昇している。産地として品質も量もまとまった対応こそが大切になっていることを示しているといえるだろう。
生産者で組織する出荷組合は、月に1回、JAと代表者会議を開き、栽培の課題、市場動向、新品種の導入などを話し合う。出荷組合は平準化した技術で栽培し共販するためのもっとも基礎的な組織でリーダーは営農指導面でも役割を果たすという。嬬恋キャベツのブランドを支える組織でもある。
生産履歴記帳は平成15年から全ほ場で義務化した。農作業の最盛期であっても月に1回はJAの支所に提出することになっている。「販売方法もセリ一本ではなく相対が増えてくるだろう。いかに顧客をつかむかが大事になる。安心できる産地づくりを進めていきたい」と松本義正組合長は話している。
JA嬬恋村の概況
◎正組合員数:1195人(1131戸)
◎准組合員数:683人(479戸)
◎貯金残高:256億円
◎貸出金残高:42億円
◎長期共済保有高:1185億円
◎販売品販売高:98億円
◎購買品取扱高:45億円(18年3月末) |
首都圏の食料基地として多様多彩な農産物を供給
JAちば県北
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大野直臣組合長 |
◆多品種生産で多様化するニーズに対応
千葉県の最北部、利根川と江戸川が分流し、東を利根川、西を江戸川、南をこの2つの河川を結ぶ利根運河と三方を河川に囲まれた野田市がJAちば県北の管内だ。地図でみると茨城県と埼玉県に突き刺さった千葉県の角のように見える。
大消費地である東京・首都圏へ30km圏内という立地や気候が温暖で「何をつくってもできる」という土地柄から水稲や野菜の産地として農業が盛んな地域だ。
しかし近年は、道路や鉄道の利便性が向上したこともあって、大型工業団地や住宅造成がなされるなど都市化が進んでいる。そのため、農業から安定収入が得られる仕事へシフトする人が増加したり、市内に8カ所もあるゴルフ場に勤める人もいて、販売農家が減少。農地も宅地化などから減少してしてきているのも現実だ。
そうはいっても、県内でも有数の野菜産地で、ハクサイ(県内1位)、カリフラワー(同3位)、キャベツ(同2位)、春菊(全国2位)、ほうれん草(同3位)、ミツバ(県1位・全国6位)、ナス(県1位)、枝豆(全国2位)をはじめトマト・キュウリ・大根・ニンジン・インゲン・キャロットなど多様多彩な農産物を供給する産地であり、首都圏の食料基地であることに変わりはない。
米についても約940ha作付け(17年産)されているが、野田市とJAが出資する法人(会社)を含めて4つの営農組合(農事法人組合)があり、麦・大豆を含めて既存の担い手が対応できないものを受託している。また、JAは水稲の育苗センターを設置し、小規模農家の省力化を支援するなどの方策を積極的に進めてきている。
品目・地域ごとの生産組合が競いあって生産・販売
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枝豆を包装する生産者 |
◆東京市場で評価される二つの枝豆ブランド
JAの販売事業をみると総額26億円超のうち、野菜が15億5000万円と59%近くを占め、次いで酪農を中心とする畜産物が7億6000万円弱、米が2億円強となっている。
この地域の農業の特色の一つは、規格的にはJAで統一はしているが、地域ごとに各品目別に数人程度で生産組合(出荷組合)をつくり、それぞれが個性を発揮し競い合って生産・販売していることだ。ちなみに、JAの資料で「組合員組織の状況」をみても、ねぎ・酪農・植木の生産部会はあるが、上記にみたような野菜などの品目部会はない。
例えば枝豆の場合、東京市場で高い評価を得て、登録商標を取得した「おたふく」というブランドがあるが、枝豆の品種や栽培方法については門外不出だという。また、最近になって別の生産組合から「なつみちゃん」というブランドが誕生し、やはり東京市場で高い評価をえている。この他にも枝豆の生産組合があり、それぞれが独自のブランド化をめざして切磋琢磨しているという。
枝豆は平成14年には日本一の出荷量をあげ、17年には野田市で枝豆サミットを開催したことがあるというように、この地域の基幹品目の一つとなっている。
◆予冷庫を活用「夏のほうれん草」市場を開拓
キャベツも基幹品目の一つだが、群馬県の嬬恋から県内銚子へ出荷時期が移行する間の時期に出荷することで市場性を確保してきたが、嬬恋が出荷期間を延ばしてきたこと、銚子が出荷時期を前倒ししてきていることから、苦しい状況にあるといえる。さらに生産者の高齢化もあって、こうした重量野菜から枝豆やほうれん草など軟弱野菜への転換をJAとしては誘導しているという。
ほうれん草については、「夏のほうれん草というイメージがなかった時代に、鮮度保持を目的にJAで12坪の予冷庫を2棟導入した結果、有利販売につながったことから、県のリース事業を利用して1坪予冷庫の導入を平成10年から推奨」(大野直臣組合長)し、現在までに95戸の農家が導入。いまでは当たり前になった夏場のほうれん草市場を開拓した(海老原偉夫専務)。
予冷庫は、ほうれん草以外にも春菊、ニンジンでも活用しており、予冷庫利用者による予冷部会が組織され96名の生産者が参加している。
また、パイプハウスについても9年からリース事業を開始し、現在までに60件・6万8900平方メートルに導入されている。
◆みなが同じ品質のものを生産できる営農指導を
農産物の販売については、キャベツやトマトなど指定産地になっている品目は8〜9割がJAの共選共販となっているが、ほうれん草でも5割程度が共選というように、米も含めて生産組合や個人が直接販売するものが多い。それは大消費地に近いことや、埼玉県や茨城県など近隣に地方公設市場などがあるため、そこに軽トラックなどで直接出荷したり、仲買業者が買いにくるからだという。
JAでは、先にみた予冷庫の活用などでJAへの結集をはかると同時に、JAへ出荷しないものであっても「販売することを念頭において、みんなが同じ品質のものを作れるような営農指導をしていく」ことで、JAあるいは野田のブランド力を維持し高めていきたいと考えている。
◆多様な販路と多彩な農産物をつなぐこと
今後について、大野直臣組合長は、高齢化や後継者問題などもあって「難しい」が、組合員のアンケートで、今後「規模拡大したい」「現状を維持したい」という回答が6割弱あったことから、「できるだけ現状を維持していきたい」と考えている。
営農組合でがんばっている父親の姿をみて、勤めを辞めて父親の後を継ぎたいという人も出てきており、「こういう人たちを大事に育てていく」こともJAの役割だとも語った。
また、施設を利用した水耕のミツバが伸び、枝豆やほうれん草などに次ぐ品目に育ってきており「これからここの目玉になる」という。
さまざまな販路があることと、何でも作れる土地柄を活かし、さらにJAの施設を利用して、多様な販路と多彩な農産物をつなげていくことがこれからのJAちば県北の課題といえるのではないだろうか。
JAちば県北の概況
◎正組合員数:4703人(4370戸)
◎准組合員数:7817人(6663戸)
◎貯金残高:957億円
◎貸出金残高:193億円
◎長期共済保有高:3180億円
◎販売品販売高:4.8億円
◎購買品取扱高:1.7億円
(18年3月末)
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