産地の継続とJAの求心力を高めるため地域ブランドづくりに取り組むJAにしうわ。最新の技術の導入で安定供給の役割も発揮する。JAおちいまばりは、多彩な農産物をJA直売所を通じた販売で地域全体の活性化をめざす。農業を核とした地域づくりがJAに期待される役割だ。
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農家手取りを優先した諸施策を積極的に展開
JAにしうわ
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日の丸共選のほ場 |
首都圏で高い評価を受ける3共選を地域ブランド化
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柳澤玉久理事長 |
◆共選を核に日本一の“みかんの里”
JAにしうわは、四国の最西端、愛媛県の西南部に位置し、九州に向かって突出した「三崎十三里」といわれ45kmもある日本一の佐田岬半島とその基部の八幡浜市・西宇和郡2市1町を管内とする広域合併JAだ。合併は平成5年で、10数年の歴史をもっている。
宇和海と瀬戸内海に囲まれた海岸部は典型的なリアス式海岸が続き、地形は起伏の多い傾斜地が連なり、平野部がきわめて少ないのが特徴だ。また、土質は結晶片岩を母岩とする壌土・砂壌土が大部分を占め、日照量が多く、年間平均気温17度強、年間降水量1600mmという自然条件は、柑橘類に適した環境だといえる。とくに海岸部を中心とした柑橘栽培地帯は優良なみかん産地として全国的にも知られている。
JAの17年度販売事業は総額で141億円超だが、そのうち温州みかんが84億円強、中晩柑が41億円弱、キューウィや柿などの落葉果樹が3億7000万円と販売事業の91%・128億6545万円が柑橘類を中心とした果樹が占めているというように文字通り“みかんの里”だといえる。
そしてこの地域の大きな特徴は、柑橘類については、管内にある10の共選(JAの組合員組織としては共同選果部会)が、それぞれ独自のブランドをもって運営されていることにある。すでに商標登録済みの日の丸共選、この4月には真穴共選と川上共選が地域ブランド(地域団体商標)の登録を出願した(JAも「西宇和みかん」で出願)。この3つの共選は地元では「御三家」といわれ、首都圏でも高級みかんとして高い評価を受けているトップ銘柄だ。
温州みかん以外でも、八幡浜市内陸部の伊予柑、佐田岬半島の伊方町三崎の清見などの中晩柑も消費地での評価は高い。
17年に伊方、三瓶選果場に光センサー選果機が導入され、すべての選果場で光センサーが稼動し、高品質な柑橘類が出荷されている。
◆農家手取り確保のため生産資材費などを引き下げ
しかし、果樹全般にわたる消費の減少、安価な輸入果実の増加、売値優先で仕入れ価格を決定する量販店のバイイングパワーの強大化などから、温州みかんの価格が低迷し農家経営に深刻な影響を与えてきている。この地域の基幹産業ともいえる柑橘類が低迷するのと時期を同じくしてJAの経営状態も悪化し始める。
JAでは「JAの経営建て直しも大事だが、まず、農家組合員に金を取ってもらうことが先決だ」(柳澤玉久理事長)ということから、さまざまな取り組みが行われている。
市場での単価の引き上げは難しいことから、生産資材や流通コストの引き下げなどに取り組み生産者の負担軽減をはかっている。17年度では流通コストの軽減から一律5.4%の運賃引き下げを行い生産者に還元した。現在、スプリンクラー営農が栽培面積の80%で実施されているが、これに伴う農薬について入札などの手法でコストを引き下げるとか、段ボール資材についても価格引下げ交渉をしており、早期に実現をし、生産者の負担を軽減していきたいと呉石恭一常務。
また、10の共選に3200戸が参加しているが、そのうち青色申告をしている1200戸で全体の約8割を生産しているので、この人たちへの営農指導に力を入れていくことで「西宇和全体の生産力を上げていきたい」と考えている。
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日の丸・八協・八幡の3共選が利用する中央柑橘共同選果場 |
◆産直や通販などを積極的に展開
販売面では、8〜9割が市場流通だが、今後は市場任せではなく「相対で産地の希望もいいながら値決めをしていかなければいけない」(柳澤理事長)と考えている。また、販売力アップのために大洲流通センターに直販事業を行う「商事課」を3月に設置し、産直やネット販売に力を入れていくことにもした。できれば販売事業の2〜3割を直販にし、農家手取り増加に貢献すると同時に、市場への牽制になればと考えている。
また、味は良いけれど小粒のため本来なら規格外となる温州みかんを「美味しいから有利販売したい」と考え「がいなみかん」と名づけ、昨年12月に全国紙に全面広告を打ち、通販で販売するなど、積極的に新たな挑戦をはじめている。
その一方でJAの事業改革についても、JA内の諸事情から「全国的にみれば遅れていた」けれども取り組みが始まっている。その基本的な考え方は「販売や購買の手数料を上げるなら楽だが、それでは生産者の負担が増えるので、JAの事業改革によって利益をだして経営を改善する」(柳澤理事長)ことだ。具体的には小規模な金融店舗の統廃合を中心とする「3ヵ年計画」を提案しており、総代会では了承されなかったが、さらに検討し秋の臨時総代会では決めたいという。
◆有望品種への切り替え、共選統合も検討
今後の課題として、一番大きいのは後継者問題だ。日の丸・真穴・川上・保内にはまずまず後継者はいるという。しかし、伊方町などの半島部などでは後継者不足が悩みだ。現在の主力の生産者がリタイアする5年先を見据えて、改植や有望品種への切り替えをしていくことで、後継者に希望がみえるようにしていく必要があるとJAでは考えている。
温州みかんでは、現在の主力品種が導入されて100年近く経過していることもあり「温暖化に強い品種を推奨」していくことにしている。
また、中晩柑についてもオリジナル品種部会を設立して研究を進めており、消費者や市場から評価されるような品種を見出して切り替えを行っていこうとしている。
また、光センサーは平成11年ころから順次導入されてきているが、更新時期が近づいてきている選果場もある。共選の規模が1万5000トンから3000トンと差があり、ロットがないと光センサーの更新は難しいので、共選の統合に向けた検討も始まっているという。これが実現すると、共選を核にしてきた“みかんの里”に新しい歴史が誕生するかもしれない。
JAにしうわの概況
◎正組合員数:7558人(5904戸)
◎准組合員数:6246人(5326戸)
◎貯金残高:1280.5億円
◎貸出金残高:2147億円
◎長期共済保有高:6500億円
◎販売品販売高:141億円
◎購買品取扱高:91億円(18年3月末) |
大型直売所開設と新品種への転換を軸に活性化はかる
JAおちいまばり
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山崎輝男
経営管理委員会会長 |
◆柑橘類の価格低迷が地域農業を直撃
JAおちいまばりは、平成9年に当時の1市10町5村の14JAが合併して誕生したJAだ。現在は17年1月に今治市と越智郡11町村が合併したため今治市と越智郡上島町がその管内となっている。
管内は大きく分ければ、愛媛県北東部に位置して瀬戸内海のほぼ中央部に突出した高縄半島の東半分を占める陸地部と、瀬戸内海に浮かぶ大三島・弓削島・伯方島・大島などの島しょ部に分けられる。温暖な気候に恵まれ、緑豊かな山間地域を背景した市街地がある平野部から多島美を誇る瀬戸内まで変化に富んだ地勢となっているが、農業に適した耕作地は少ない地域だといえる。
こうした地勢のなかで越智今治地域の農業を支えてきたのは、島しょ部と陸地部沿岸地域における柑橘類を中心とする果実栽培と陸地部における野菜を中心とした農業だといえる。
しかし、平成10年には80億円近くあった果実の販売実績は年々減少し、17年には30億円を下回る状況となった。その大きな要因は、柑橘価格の低迷の影響を受け、主力品目である温州みかんが10年の32億円から17年11億5000万円に、伊予柑が同25億円から8億5000万円に減少したことにあるといえる。
JAの販売事業の推移をみると野菜類は8億円前後、畜産も10億円前後と安定し、米が最近集荷率が低くなり3億円前後となっているが、販売額の6割を占める柑橘類の減少が大きく影響して、10年に110億円近くあった販売高は、17年には約60億円となった。
持ち味が異なる地域の力を結集農家経営を安定化する
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上浦町(大三島)にあるしまなみ共選 |
◆域内食料自給率を50%に
それはJA経営のみならず農家所得を圧迫し管内農業そのものに大きな影響を及ぼしている。そのためJAは15年に19年を目標年度とした「JAおちいまばり農業振興計画」を策定した。
この計画は、減農薬や有機栽培などによる高付加価値生産を進め、その方策として施設栽培などを積極的に推進して●ブランド(●は○の中に越の文字)の確立をはかること。中核農家の育成・後継者や新規就農者の育成を行い地域農業の活性化をはかることをめざし、支所をエリアとした地域ごとの農業振興計画を提案している。
山崎輝男経営管理委員会会長は、山間部・平野部・島しょ部とそれぞれ特色をもつ地域「持ち味が異なる産地が一つになり、相互補完や相乗効果によって地域全体を活性化する」ことが「広域農協がトータルな力を発揮すること」だと考える。
その力を発揮する一つの施策として地産地消をあげる。つまり、現在の管内食料自給率は32%にすぎないが、果樹園や休耕地も含めて6000haの農地があるのだから、これを最大限に活かして域内流通・消費を拡大していけば早期に50%超に引き上げることは可能だし、それが農業経営の安定化にもつながるということだ。
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光センサー選果機 |
◆兼業・小規模も担い手直売所の役割
JAは、共販共選に参加できない兼業農家や小規模農家も「地域農業の担い手である」と位置づけ、こうした人たちが出荷できる直売所「さいさいきて屋」を開設(2店舗)。年間6億円の地元農産物を販売するまでになった。現在の出荷会員は1000名を超え、そのうち52%が女性、60歳以上が8割以上だという。「共販共選に縁遠かった人たちが帰ってきた」わけだ。
この力をさらに強力に発揮するために、全国でも有数な大型直売所「彩菜」を来年4月のオープン予定で建設している。直売所の敷地面積は2062平方メートルで地元農産物加工所と地産地消レストラン554平方メートルが併設される。さらに農園やハウス施設を貸し出し、希望者は実際に農産物や花きを栽培し直売所で販売することができる「農産物実証支援農場」9390平方メートルも隣接する。
ここでは、野菜や柑橘類だけではなく、地元産の豚肉や牛肉、従来は集荷だけで販売は連合会に任せていた米も販売し、JAの販売の中核拠点としたいという。そして新直売所開店時には出荷会員を現在の1000名から1500名に増やし、年間12億円強の販売を実現したいと考えている。
◆ハウスにJA独自のリース助成も
こうした施策とは別に、柑橘類や野菜など主要品目についても具体的な施策を進めてきている。
従来のあり方について藤原昌克理事長は価格低迷などの要因はあったが「消費者ニーズへの対応が遅れるなど、自助努力が足りなかった」として、これからは「消費者が食べてくれるものを365日供給できる品種構成を考えていかなければいけない」と考えている。
安永鉄三営農担当常務は、野菜では露地栽培では収益性が確保できないのでハウス栽培を推奨しているという。国や県の事業で取り組めないものについてはJAがリースの助成をし支援している。主品目であるキュウリでは、部会長が先頭に立って県の認証である「エコえひめ」に取り組んでいくことにしている。
◆美味しさと安心ニーズに応える新品種に取り組む
柑橘類は現在、温州みかんと中晩柑の伊予柑が主力だが、県内の他産地とコスト的に差別化することは立地条件などから難しいという。また、気候条件などに大きな差がないので、品質的にも県内他産地と比べてとくに優れているという品種もないという。そうした中でどう差別化し生き残っていくのか。
消費者が求める「美味しさ」とエコなど「安心」の二つを追求していくことになるのだろうが、こうしたニーズに応えられ、まだ他産地で本格的に取り組んでいない品種に取り組み、その品種を安定的に生産・供給できるようにし、その代表産地に育てあげることだと安永常務はいう。すでにその取り組みは始まっており、いかに早く温州や伊予柑に変わる品種にできるかだとも。
以上みてきたように、来年4月開店の大型直売所が越智今治地域の農業をどう消費者にアピールし受け入れられるのか。主力品目である柑橘類で他産地に先駆けて消費者ニーズに応える新品種への転換がどう進むのかが大きな鍵となっているといえる。
JAおちいまばりの概況
◎正組合員数:1万3968人(1万1237戸)
◎准組合員数:1万4385人(1万2780戸)
◎貯金残高:2218億円
◎貸出金残高:303億円
◎長期共済保有高:1兆456億円
◎販売品販売高:59億円
◎購買品取扱高:97億円(18年3月末) |