本紙では「JAの米事業改革と売れる米づくり戦略」をテーマにおもに、「JA米」の取り組みについてアンケート調査を実施してきた。17年度調査で3回目となるが、今回は508JAから回答の協力を得た(6・7面に詳細)。
「JA米」への取り組みには回答したJAの8割近くが取り組んでおり、JAにとって売れる米づくりための核となっている。
一方、JA全農は、昨年打ち出した新生全農米穀事業改革に基づき、統一的な販売展開を行うとともに実需との結びつきを強めることで、生産者の経営安定を図るなど改革策の具体化をスタートさせた。
ここでは、アンケート結果をふまえ「JA米」への取り組みの今後の課題とともに、JAグループ米穀事業がめざす方向について、米穀部事業対策課の荒井幹雄課長に聞いた。 |
◆生産量をしっかり守る
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JA全農米穀部 事業対策課
荒井幹雄課長 |
――JAへのアンケート結果をふまえてまず基本的な米事業の課題についてお聞かせください。
回答率が非常に高い結果となっていますが、これは経営所得安定対策大綱が決定し、戦後農政が大きく転換するといわれていますから、産地では自分たちの地域の米は今後どうなるのかという関心とともに危機感も相当あることの表れだと思います。今後は一定の要件を備えた担い手中心の政策に転換することになりますが、現状では担い手以外の生産者も多く、今後、どうなるのかという思いが強いということでしょう。
こうした中で、JA米への取り組みは3年目をむかえていますが、米の生産という面では計画生産にしっかり取り組むことが非常に重要であります。われわれの試算では仮に18年産の作付け面積が17年産と同じ面積であれば、来年には相当多くの在庫が残る危険性があります。
米が需要量よりも過剰であれば価格は当然下落してしまい、JA米づくりにいくら努力しても、何のためにやってきたのか、ということになりかねません。
JA米の取り組み成果を生かすためにも、全国の生産者が適切な生産をすることが大前提だということです。
計画生産が大前提となるJAグループの米穀事業
◆長期的な取引の実現めざす
――まず計画生産ありき、ということですね。
価格が下がればJA米への取り組みも意欲が低下してしまうのではないかという懸念もあります。また、生産目標数量の決め方は17年産では需要ウエイトが6割、18年産では9割でしたが、19年産からは10割となります。在庫が発生すると翌年の生産量を減らさざるを得なくなり、そうなると売り急いで価格を下げるということも心配です。生産量をきちんと守ったうえでどう販売していくかが課題です。
その販売について、JA全農としては契約手法にバリエーションをもたせることにしました。具体的には播種前契約や複数年契約を増やすことですが、これは販売量と価格を安定して決めることにより、少しでも農業経営の先が見通せることで経営の安定化を図ることが目的です。
ただ、播種前契約については19年産から本格化を目指すことになり、18年産は初年度で取組みが遅れたため、これまで結びつきがあった実需者を確実に掘り起こすことに力を入れました。
複数年契約については、すでに大手コンビニエンスストアと実現しているなどの例があります。今後は安定的に米を使用する外食、中食産業と長期的に契約を結ぶことも課題としていきたいと思います。また、その情報を産地にフィードバックしていくことも考えていきます。
それから複数年契約では、学校給食も対象にしたいと考えています。これから米をずっと食べてもらう子どもたちに、安全で安心な米を安定して供給することは大切です。
◆JA米に市場の期待高く
――「JA米」に対する市場のニーズはいかがでしょうか。
卸など取引先は、低価格の米を求めている一方、取引の核となる商品としては安全で安心な米を安定供給したいというニーズがあります。そういう意味で「JA米」は評価されています。それから5月末に施行されたポジティブリスト制度への対応でも、「JA米」は栽培暦に従って生産し、生産履歴を記帳することが要件となっていますので、非常に有効な対応ができている米だということがいえます。
今回のアンケート結果をみても、ほとんどのJAで販売計画を策定していますが、「JA米」の要件はクリアすべき最低の要件として現場で相当浸透してきているようです。さらにこの要件のほかに、県やJAで他の要件をプラスして優位な販売につなげていこうという傾向がみられると思います。
――「JA米」の生産、保管、販売面での課題となることは何でしょうか。
生産面では、種子更新率100%を早く達成することだと思います。今回の調査では全国平均で70%程度の種子更新率でしたが、銘柄が証明できた種子が100%確保されないと、生産の始めの段階で取り組みがそれだけ滞ってしまうわけですね。ですから、種子の確保が今後急務になると思います。
また、保管の問題では、産地JAでJA米と一般米が混在していると、区分して保管しなければならないわけですが、それは集荷施設の利用率が低くなり、結局はコストアップにつながります。さらにJA米と一般米が混在していると、きちんと区分して保管していても、出荷のときに取り違えるという可能性もゼロではありません。
こうしたリスクを考えても、JA米の取り組みを進めているJAは100%JA米生産に切り替わるよう、よりスピードを上げて取り組むことが課題になると思います。
それから販売面では、玄米の販売だけでなく精米販売でも「JA米」として販売していくことが我々に求められています。
JA米を推進して3年めを迎えているわけですが、店頭で販売されていないと、生産者も意欲が出ないと思います。一部の加工米飯などではすでに実現していますが、多くの人の目にふれる家庭用の精米販売への取組みを始めていきたいと考えています。
卸業者も最初はわれわれのJA米の取り組みについてはさほど重視していなかった面も一部にありましたが、今では早く全量JA米にしてほしいという声が聞かれます。100%JA米の産地があればそちらに市場のニーズもシフトしていきます。まさに売れる米づくりの基となるのはJA米と言えます。
◆業務用需要に応える販売も重要に
――ところで、米の需要は家庭用よりも業務用需要が増えています。JAが販売戦略を考えるにあたっても大きなポイントになると思いますが。
外食、中食などの業務用需要というのは縮小傾向にはならず、今後の米販売の大きな柱になっていくと思います。実際におにぎり、弁当、外食などでわれわれも食べているわけですから。
こうした取引先との契約は量も価格も安定することが見込めますから、重要な取引になってくると思います。最近は外食産業でも、産地銘柄を表示するところも増えています。お客さんはそこでごはんとして食べるわけですから、自分たちの作った米の味が直接消費者に伝わる場だと考えるべきではないでしょうか。しかも、そういったレストランではその米に合った炊き方をしているでしょうから、きちんと評価されると思います。そういう意味では生産者の方々にも、自分の作った米がどこでどう売られているか、どのように使われているかを知ってもらうことが大切ではないかと思います。
全農としては、今年から全国本部に販売統括室と東西販売センターを設置しましたが、今後、JAごとにどういう販売先に供給されているかを主な品種銘柄については産地へ情報をフィードバックしていく方針です。
◆コスト削減と全量完売めざす
――JAの販売戦略ではJA直売に取り組むところもありますが、これは今後どう考えればいいのでしょうか。
JA直売が増えているということは系統経由で販売するよりも生産者へのメリットが高いということだろうと思います。JA全農の米穀事業改革では、販売対策費の廃止や運賃コストの見直しなどによって生産者手取りの最大化を目指していきますが、この問題ではその改革の成果が問われることになると思います。
ただ、代金回収や債権保全などをどうするかという課題がJA直売にはあると思いますし、全体の価格の引き下げにつながるような販売では問題だと思います。 いずれにしても全農として米の販売体制が大きく変わった初年度として、少しでも生産者手取りが増えるようコストを削減するとともに、全量完売することを目指します。それが最終的な使命だと考えています。