農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略

「安全性」の考え方の矛盾に悩む生産現場
「JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略」調査結果(農薬編)
JA全農 肥料農薬部次長 伏見敏氏に聞く

 本紙では、「JAの米事業改革と売れる米づくり戦略」を主テーマに、「JA米」の取組みについてアンケート調査を実施してきた。18年度調査で3回目となるが、今回は508JAから回答の協力を得た。JA米の取組み状況や販売に関する調査結果は1985号で掲載したが、今号では同調査のうち「安心で安全な米づくりのための肥料・農薬等の採用」などについての調査結果を紹介するとともに、この調査結果から何が見えるかを、伏見敏JA全農肥料農薬部次長に聞いた。


アンケートの実施概要と集計分類

●調査対象JA数/560
●実施方法と時期/調査票を送付。18年2月〜3月にかけて回収。
●アンケート回収数/508
●回収率/90.7%
○アンケート集計分類

【東西別】
(東日本)北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、
      富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重
(西日本)滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、
      高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

【ブロック別】
(北海道)北海道
(東北)青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
(関東)茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川
(甲信越)新潟、長野、山梨
(北陸)富山、石川、福井
(東海)岐阜、静岡、愛知、三重
(近畿)滋賀、京都、兵庫、和歌山、奈良、大阪
(中国)鳥取、島根、岡山、広島、山口
(四国)愛媛、高知、香川、徳島
(九州)福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

ドリフト対策や成分数減など安全性への取組み強まる

◆防除暦への採用は農薬の効果を重視

JA全農 肥料農薬部次長 伏見敏氏
JA全農 肥料農薬部次長
伏見敏氏

 ――「JA米アンケート」の農薬についての回答結果をご覧になって、どのような感想をもたれましたか。

 伏見 まず感じたことは、防除暦に採用する基準でもっとも重視されているのが農薬の効果で76.8%もあったことです(図1)。もっと価格とかコスト的な面が多いのではないかと思っていましたが、価格は6.9%と1割もなかったのでちょっと驚きましたね。
 それから農薬の成分数を重視する回答が10.8%ありました。JA米に取り組むなかで、県域なりJA独自の栽培基準を設けているところでは、農薬の成分数についても検討をされているのだろうと推測しました。

 ――農薬も含めて生産資材が高いといわれることが多いですからね。

 伏見 現場では効果とか安全性が重視されているということだと思います。とくにポジティブリスト制が施行され、農家の方々にいかにしてドリフト(飛散)を少なくするかなど対策を徹底していますし(図2)、ドリフトの危険性の低い剤型を推奨するなど、JAの営農指導員のみなさんが苦労されていますからね。

◆伸びるジャンボ剤・フロアブル剤

 ――そういう意味で、今後伸びると思われる剤型で粒剤やジャンボ剤などの回答が多いのでしょうか(表1表2)。

 伏見 粉剤だとドリフトする割合が高いわけですが、粒剤であればドリフトをする割合が軽減されますね。もちろん効果がなければいけませんが、ドリフトしにくい剤型や散布方法が一つの基準となっていくと思いますね。

 ――現在は粉剤もかなり使われていますね。

 伏見 粉剤で水田の広域防除をしているところもあります。コストなどの面から考えると、粉剤は何十年も使ってきている剤ですし、価格も安い剤です。それに比べて粒剤とか箱処理剤は価格が高くなりますし、防除対象をカバーしきれない場合があります。そういう意味で粉剤は捨てがたい剤でもあるわけです。
 したがって、生産資材コストを下げながら、ドリフト軽減や安全性を確保するために、どういう剤型を選んでいくのか、どういう散布方法がいいのかを考えていかなければなりません。

 ――水稲除草剤としてはジャンボ剤やフロアブル剤が増えてきていますね。

 伏見 まだ粒剤の散布面積が多いと思いますが、簡便に散布できるジャンボ剤とかフロアブル剤などの剤型がしだいに増えてきています。アンケートの回答でも今後に増加すると考えられる剤型とされていることをみても、散布機を背負っての動散から、省力的な方法に散布方法も変わってきているのだと思います。
 動散の場合、重たい散布機を背負うので、重労働ですが、それを軽減できるフロアブル剤の方がいいのではないかという判断もあると思います。
 しかし、アンケートでは手散布とか散粒機による散布をしているという回答がかなりある(図3)ように、均一散布や達成感の面から、「やっぱり粒剤で」という人も残っているということだと思いますね。

◆環境に優しく省力的な田植同時散布

 ――管内で田植同時機械散布を実施しているというJAが、(表3)のようにかなりありますね。

 伏見 「滴下マン」などのフロアブル剤を散布する機器や「まくべえ」などの簡便な粒剤散布機が充実してきたことなどが、田植同時散布が広がった要因だといえます。
 田植同時が始まった当初は散布面積で1割にも満たなかったものが、省力的で効果がそれなりに得られることや使える剤も多くなり価格が安くなったことから、普及面積が拡大しています。

 ――田植同時散布はこれからも増えていきますか。

 伏見 水を止めて水田から水が出ない状態で散布しますから、環境にも優しく省力的な散布方法なので、今後も全農として積極的に奨めていきたいと考えています。(表4

 ――回答では管内で田植同時散布を採用しているほ場があるというJAは、7割にのぼりますが、今後も普及面積は拡大するでしょうか。

 伏見 大規模農家では導入しやすいでしょうが、小規模農家では散布量などの面から、難しいかもしれませんね。田植同時を活用できるところを中心に普及していきたいと考えています。

◆消費者とのリスクコミュニケーションを

 ――「安全性」ということが強くいわれる時代ですが、農薬の成分数などについてはどうですか。

 伏見 使用した農薬成分数の全国平均が、除草剤で2.9、殺菌剤が3.1、殺虫剤が2.4(表6)となっていますが、やはり減ってきているなというのが実感です。とくに殺虫剤で減らしているところが多いと思いますね。除草剤の場合には3成分が多いのではと思いますね。
 全体的には成分数を気にしているのだと思いますが、その反面で「現行の防除回数では不十分」という回答が約22%ありますし(図5)、「総使用回数(成分数)を減らせば米の安全性は高まると思うか」という問いに対して、「適正に使えば米の安全性と回数(成分数)は関係ない」という回答が70%以上もあります(図6)。
 消費側の要求もあって農薬を減らさないと売れないけれども、減らすことと安全性は必ずしもリンクしないのにという矛盾を感じながら、現場ではやっているのではないでしょうか。(図4

 ――ここ数年この調査を行っていますが、毎年、同じような結果がでています。これはどう解決すればいいとお考えですか。

 伏見 適正に使用していれば安全性には問題はないわけですが、農薬の使用回数や成分数が少ないほど安全だと考えられている場合が多いので、こうした矛盾が生まれ、現場の人たちが苦労されているのだと思います。(表5
 この矛盾を解決するためには、農水省や農薬工業会などが積極的に取り組んでいるように、消費者とのリスクコミュニケーションを深めて、消費者に理解してもらうことが大事だと思いますね。

 

新農薬年度に向けたJA全農農薬事業

JA全農は「新生プラン」で農薬事業では、担い手対応への強化として現在17品目ある農薬大型規格商品を21年度までに40品目に拡大すること。
 「生産資材コスト低減チャレンジプラン」(チャレンジプラン)で策定されているコスト低減に取り組むことなどを掲げている。そこで、それらの進捗状況や12月からの全農19農薬年度へ向けた取組みについて、伏見肥料農薬部次長に聞いた。

「チャレンジプラン」の確実な実行で生産者に貢献

◆大型規格商品の拡大めざす

 ――「新生プラン」あるいは「チャレンジプラン」では、担い手対応の強化を含めて「大型規格商品」の拡大が大きな柱になっていますが、現在の進捗状況はどうなっていますか。

 伏見 現在、19農薬年度に向けて製剤メーカーと9月末を目途に、「新生プラン」にもとづく担い手対応強化策の一つである大型規格商品も含めて、価格交渉を行っている最中です。

 ――現在、交渉中の8品目はどういう薬剤なのでしょうか。

 伏見 主として水稲除草剤、箱処理剤です。大型規格のメリットを享受できるということで考えると、どうしても水稲中心になります。そして園芸用除草剤でも交渉をしています。

 ――21年度までに40品目までに拡大する予定ですね。

 伏見 その通りです。目標の最終年次にこだわらずに、できる品目があれば前倒しにして拡大していこうと考えています。

◆農家に納得してもらえる価格設定

 ――価格の引き下げについてはどうでしょうか。

 伏見 「信頼される価格の確立」は「新生プラン」の一つの目標となっています。そのために、より透明性の向上や、手数料の引き下げなどをつうじて信頼される価格を確立していきたいと考えています。

 ――「信頼される価格」というのは具体的には、どういうものなのでしょうか。

 伏見 具体的な数字で何パーセント下げますというようなことではないと思います。それはこれからの価格交渉などによって徐々にやっていくことです。
 また、県域による違いも現在はあり、それを可能な限り統一できるように共通の目標に向かって進んでいるところです。
 そうした状況も含めて正直に説明し、担い手農家にも納得していただける価格を設定していくことだと考えています。

 ――全農が共同開発したMY−100とかジェネリック農薬の普及についてはどうですか。

 伏見 優れた除草効果と同等の性能をもつ他剤よりも低価格を実現したMY−100は水稲除草剤の中心的な存在となったといえます。17年度は、水稲面積普及率で20%、約34万ヘクタールで使われました。しかし、先行した剤の変更時期に入ったために、18年度はやや落ち込みましたが、次期の剤がでてきますので、これから再び拡大していくと考えています。

 ――ジェネリック農薬のジェイエースはどうですか。

 伏見 現在の普及率は10%ですが、「チャレンジプラン」で目標としている20%を目指して鋭意努力をしているところです。

 ――これからも新しい商品を開発していくのでしょうか。

 伏見 「チャレンジプラン」で掲げている目標を達成することが大前提ですが、よりよい品揃えをするために、商品開発にも力を入れていきます。

◆生産資材部門が連携しIPM体系を確立

 ――安全・安心な農産物づくりについてはどうですか。

 伏見 IPM(総合的病害虫・雑草管理)の確立ですね。例えばクミアイ化学のエコシリーズとか協友アグリのエコピタ、コンフューザーシリーズなど、IPM資材が揃ってきましたので、それらを活用したIPM防除体系を推進していきたいと考えています。
 IPMの場合、単純に化学農薬を減らすということではなくて、IPMに取り組むことで散布回数も減らせるし、安定的に生産できるようになる体系の検討が必要だといえます。とくに果菜類を中心にそういうことができればいいなと思っています。
 そのためには、農薬関係だけではなく、防除ネットなど物理的な防除資材の活用もありますので、肥料農薬だけではなく生産資材事業部の各部門が連携して、全農としてトータルな提案をしていかなければならないと考えています。

 ――最後にこれからの抱負をひと言お願いします。

 伏見 さきほども申し上げましたが、「チャレンジプラン」を確実に実行していくことで、担い手の方を含めて農家組合員に貢献していきたいと思います。

(2006.9.22)



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