JAおおいがわ(静岡県)
◆振興計画と組織育成
|
天野武而専務 |
昨今の茶業会は「ドリンク茶」の消費拡大が先行しているが茶業全体はリーフ茶(茶葉)消費と価格が低迷し生産者所得は落ち込んでいる。
茶業以外についても販売価格が低迷し、複合経営農家の収支も厳しくなった中で多様な販売、出荷方法を生産者個々が対応し「JA利用も選択肢となっている」と関係役職員は所得減少と組織結集の相関を指摘した。
「平成19年度までのJA経済事業収支均衡も難しい」また「事業を進める中で、部門の連携を緊密化し、組合員と相談、協議し、求心力とは何かを模索していきたい」と語る。
農業所得向上に向け17年度から『JA大井川農業振興計画』に農業振興課を中心に取り組んでいる。計画の第1点は担い手作りだ。正組合員1万5700戸弱の内、現状は認定農業者730人弱、認定農業法人13である。稲作では水田面積約3000haの中で4ha以上の担い手は2人、法人は2法人に過ぎない。そこで振興計画には認定農業者数819名、法人40法人を目標にしている。JAの米集荷率は生産量の7%と低く、JA利用の選択肢の理由がこの数字にも表れている、また国が進めている米政策が管内では当てはまり難い状況であることが察しられる。
◆多面的販売戦略
第2点は農地の有効利用推進だ。増大する遊休農地に対しJAではすでに農地保有合理化法人として水田を中心に80haを保有している、また農作業委託グループにも耕作を委託している。今後の目標は100haの農地保有であり、進度はかなり早い。
第3点は販売体制の強化だ。昨年11月19日に藤枝市内に売り場面積566平方メートルのファーマーズマーケット「まんさいかん」をオープン、1日平均販売額171万円になる。19年度目標額6億円を本年度達成も可能だ。店内は名前のとおり品揃えは実に豊富で販売される野菜等はほとんどが地元産品だ。店内の一角にあるJA間協定の品物も人気が高い。「地産地消の新鮮な青果物が買える店舗はありがたい」と消費者、「少量品目が販売できる店舗が出来てありがたい」と言った農家の声が聞こえた。「まんさいかん」出荷会員は630名、内女性は約400名、年齢では60歳代が中心だ。出荷会員の表情は明るく元気がみなぎっていた。
売上情報は最新POSシステムを導入し、電話音声対応、ファックス送信、携帯電話メールで即時出荷者に情報が届く。売上げ状況を確認、追加出荷を実施し満足される販売体制を構築している、売れ残りの商品は会員が当日引き取り、「毎日新鮮」を提供している。
|
「まんさいかん」内の売り場 |
◆施設整備と課題整理
JAでは平成15年に最新鋭の農産物集出荷場を稼働させ花とイチゴで全国初の完全コールドチェーン化を実現した。花は生産者が採花直後から水が入ったバケツ(バケット)にいれて出荷し、低温倉庫に検査終了から出荷まで保管し専用低温トラックによるバケット流通で鮮度保持を誇っている。またこの施設内には分析・培養室があり共販品目残留農薬チェックや洋ランやイチゴの生長点培養を行い無病苗の供給を実施している。
振興計画には作物別の課題が多く、まずは茶業活性化である。管内の茶園面積は約4500ha。生産されている茶種は普通煎茶・深蒸煎茶・玉露・かぶせ茶・てん茶などと多種類だ。JAの販売事業93億5600万円のうち、茶は41億4600万円、別に茶加工事業(特別会計)があって販売高は44億7300万円。茶だけで合計86億円と大きい、それでも管内の生産額に占めるJAの取り扱いは40%にとどまる。茶生産者はそれぞれ茶農協などを組織し(72法人)、製茶工場にて荒茶に加工しJAや茶商に販売している。JAでは生産基盤の強化を進める中で乗用型摘採機の導入などの機械化に見合う茶園づくりに向け約18haの園地整備を実施、今後、計画されている地域も既に組織化されている。
◆ブランドへの取組みと新たな挑戦
茶加工販売では合併前からそれぞれの地域で進めてきた藤枝茶・朝比奈玉露・川根茶・金谷茶・島田茶の地域ブランド5銘柄を一括し「JAおおいがわのお茶」として宣伝するマーケティングを開始、さらに合併JAとしての特徴的なブランド商品開発を目指す。
全国的に茶の木の樹齢が古くなっていることなどから、最近は茶の香りが薄れてきたとの意見も聞かれている、このため生産指導の茶業課と加工販売の茶加工部が連携し、香りを主にブランド力の強い新商品作りに「香り茶研究会」を設け、審査会を開き香りを探求している。
◆価格安定と指導強化
|
JAおおいがわ本店 |
JAおおいがわの品目別販売高の2位はレタスで7億円近い販売高がある。茶+レタスの複合経営が主力の作型となり、主要野菜と位置づけている。全国で最も古い産地であり生産量は近年横ばいである。今後は茶の所得低下を補うプラスαの作物として新規栽培地の拡大と水田裏作作物として、土地有効利用を進め出荷量拡大に取り組んでいく。
レタスは露地栽培のため気象の影響を受けやすく、価格変動が激しいが長年の「大井川ブランド」と真空冷却によるコールドチェーン出荷、減農薬栽培等の付加価値をつけ販売に取り組んでいる。レタスに次ぐ野菜はトマトで6億円余、焼津が主産地で「志太トマト」として指定産地になっている。近年は高糖度トマト「アメーラトマト」も共販品として全国に出荷されている。
一方、営農指導では指導員不足が問題である。若手指導員の育成が遅れたためで、担い手育成への対応や新規作物導入への取組みにJAの対応が求められた中で4年前から「営農インストラクター制度」を導入した。技術的に優れた組合員を各生産部会が推薦し、組合長が任命する。現在、レタス、トマト、イチゴ、ミカンの4部会で、10名のインストラクターが新規就農者への指導、地域講習会、新品種導入等に活躍中である。
JAの販売額は2年続けて減少したが、18年度計画は前年比108%弱の伸びを見込み、100億円の大台を目指している。
さらにJAとして購買事業強化に取組み、物流改革と、予約購買を中心とした組織対応により組合員に満足される購買品供給を実施している。特に予約肥料・農薬についてはランク奨励金制度を策定し一般商系、大型ホームセンター対応を実施し、系統結集に結びついている。奨励金制度実施により組合員の年間購入量が確定し系統仕入先への物流手配も早期に実施でき価格変動に対応する仕入れ強化が可能となっている。
購買事業での組合員サービス部門として農機具対応が重要視され、各地域に点在されたセンターを集約し、拠点対応型を確立し広範囲においての巡回対応、休日等の修理体制を明確にし細かな対応をしている。
JAおおいがわでは指導、販売、加工、購買が連携を持ち、「待ちの対応」から「出向く対応」に方向付け、組合員対応を実施している。
JAの概況
◎正組合員数:1万8617人(1万5684戸)
◎准組合員数:3万625人(2万5491戸)
◎貯金残高:4258億円
◎貸出金残高:1690億円
◎長期共済保有高:2兆1570億円
◎販売品販売高:93億円
◎購買品取扱高:119億円(18年2月末)
|
JAやつしろ(熊本県)
◆い草・園芸・果樹など多彩な農産物産地
|
加耒誠一組合長 |
JAやつしろは、昨年8月に八代市・坂本村・千丁町・鏡町・東陽町・泉村の6市町村が合併した八代市と、竜北町と宮原町が昨年10月に合併して誕生した氷川町を管内とするJAで、正式名称を八代地域農協という。
管内の西部は不知火海の干拓によって広がった八代平野が広がり、東部は平家落人の里として知られる五家荘など九州山地の深い山間で宮崎県と接している。そして日本三大急流の一つである球磨川の河口部に市街地が形成されている。
八代地域は、全国の9割近くを占める熊本県のい草・畳表の約95%を生産する産地として名高いが、県内作付面積の5割強を占める冬春トマトを中心とするトマトやミニトマト。トマトの後作として栽培されているメロン。近年作付面積が増え、県内有数の産地となっているいちご。冬ものでは県内の50%を占めるキャベツなどの野菜類。温州みかん・晩白柚や日本梨などの果樹類。日本一といわれる旧東陽町の生姜や宮崎県境の旧泉村の茶など、実に多彩な農産物の産地だ。
|
い草の先刈り |
◆作付け増える「はちべえトマト」といちご
水稲については5540ha作付け(17年産米、野菜・果樹・水稲のデータは、九州農政局八代統計・情報センター「グラフで見る八代地域の農業」から)されているが、うるち米については農家が自分で乾燥調製し直接販売するケースが多く、JAの集荷率は低いという。ただし、もち米については90%以上の集荷率があり、管内にある3つのカントリーエレベーターはすべてもち米用に使われている。
加耒誠一組合長は、価格が下落しているために、い草や米の販売高が減少しているが「トマトやいちごなど野菜が増え、それをカバーしている」と分析している。
とくにJAが販売するトマトはすべてエコファーマーの認証を受け「はちべえトマト」のブランド名で消費地で販売されている。い草からの転換もあり作付面積は増えているという。JAの販売事業は約200億円だが、そのうち約70億円がトマトで、ミニトマトまで含めると80億円弱となっている(17年度)。
トマトのようにブランド化はされていないが、いちごも作付面積が増えており約18億円(17年度)、今年度も伸長するとJAではみている。
基幹品目の一つであるい草については、昨年度にい草の事業がすべて、熊本県経済連からJAやつしろに移管され、市場運営から直販、さらに債権管理まですべてをJAで行うことになった。
加耒組合長は「日本文化の最たる畳を後世に残す大きな使命」だと考え、後述する営農部にい草・畳表を取り扱う「市場課」を新設し、中国産に圧迫されるこれらの事業を積極的に推進する姿勢を打ち出した。
畳表については、数年前から全国各地のJAと契約し直接販売をしている。現在、60以上のJAで取り扱ってもらっているが、こうしたJA同士の横のつながりを他の品目でも広げていく必要があると考えている。
|
八代のブランド「はちべえトマト」 |
◆3つの戦略実現に向け営農指導と販売を統合
しかし、八代地域全体の農業産出額は約350億円とみられており、「JAの共販率は平均したら50%くらい」(加耒組合長)だといえる。これには、旧坂本村や旧泉村を除く地区では専業農家が半数以上を占めていることもあるのではないだろうか。
こうしたことを踏まえてJAでは「農業者の所得向上を計る経営方針・方策を計画し実践していくことが重要な課題」であると位置づけ、「競争戦略」、「発展戦略」、「事業戦略」を18年度の基本方針として掲げている。
「競争戦略」とは、JAが販売する農畜産物・加工品の競争優位を確保するため、“安全・こだわり・信頼のブランド化”を基本とした「競争に勝ち残れる商品づくり」。県内JAグループにおける“協同マーケティングの展開”を基本とした「競争に勝ち残れるシステムづくり」に取組むことだ。
「発展戦略」とは、集落営農組織を基本とした担い手づくりに総力をあげて取組むと同時に、集落営農の組織化を通じて「農業経営の効率化に向けた新たな農地利用」「地域資源を有効活用する環境・循環型農業」に取組むことだ。
「事業戦略」とは、前記の実現に向けて、JAの営農関連事業の機能強化を目的とした“総合営農システムの構築”や“新たな事業ルールの導入”に取組むことだ。
そのために、営農指導部門と販売部門のコミュニケーションを円滑にし、営農から販売までの機能を強化するために従来の指導部と販売部を「営農部」に一本化した。そして経済事業本部に、中堅営農指導員6名による「経済渉外課」を新設し、「自ら出向き組合員とのコミュニケーションを強める体制をつくった」。
また、「担い手対策課」を営農部に新設し、担い手対策に取り組んでいる。八代地域では大豆はないので、当面、麦の転作集団による集落営農組織を立ち上げ、米については来年の3月を目途に検討をしていくことにしていると、平野和臣営農部次長。
しかし、米・園芸・い草などを複合的に行っている専業農家が多いので、集落営農を組織して共同化していくのには乗り越えなければならない困難が多い。もっと地域の農業実態にあった施策を国は考えて欲しいと加耒組合長はいう。
以上みてきたように課題は多いが、JAとしては、JAブランドによる共販の有利性を発揮して「所得の向上」と「やりがい」を実感できる農村社会の実現を目標に積極的に取り組んでいくという。
JAの概況
◎正組合員数:7397人(7220戸)
◎准組合員数:2346人(2316戸)
◎貯金残高:760億円
◎貸出金残高:203億円
◎長期共済保有高:6090億円
◎販売品販売高:188億円
◎購買品取扱高:112億円(18年3月末)
|
JAなんすん(静岡県)
◆地域の外食、精肉店との提携で肉牛の地産地消
|
庄司睦組合長 |
JAなんすんの管内は昨年の合併で、沼津市、清水町、長泉町に裾野市が加わりさらに広域になった。
販売農産物は、肉牛、荒茶、みかんが3本柱。それぞれ13億円から15億円の実績を上げている。
このうち、肉牛は長泉町で盛んで平成9年に全国肉用牛枝肉共励会名誉賞を受賞したことをきっかけに「あしかた牛」として販売している。ブランド名は冨士の手前にそびえる愛鷹山にちなむ。
11軒の生産者で年間に1800頭ほど出荷しているが、このうち200頭を「あしたか牛」として販売している。東北、九州などからF1も含めた黒毛和牛を導入し、統一的な肥育法で育て、黒毛和牛は4等以上、F1は3等以上を出荷している。生産者とJAで「あしたか牛推進協議会」も設置している。
この取組みのもっとも大きな特徴は、地域の精肉店と限定して連携し地元の消費者向けに販売していることだ。現在登録店舗は12店で、沼津市のほか近隣の三島市、富士市などにもある。精肉店が直営レストランを経営しているケースもあり、ステーキやしゃぶしゃぶなどで「あしたか牛」を味わうこともできる。店内には生産者の顔写真入りのポスターを張り出すなどPRに努めている。
生産者、販売者、JAが一体となって肉牛の地産地消を実現した。東京にも近く都市化が進むなかで、地元の人々にこそ地域農業を理解し支持してもらうための試みである。
|
JAなんすん本店 |
◆「沼津茶」の確立めざす
3本柱のひとつ、荒茶は、栽培面積550ha、生葉出荷組合が13あり生産者は約580戸となっている。地域には生産者が経営する60の製茶工場があり、JAはここから8割程度を扱い市場出荷しているが、消費地に隣接している条件を生かして小売販売する工場も多い。
今後の産地改革に向けて、JAは現状を分析し今年3月、沼津茶産地構造改革計画をまとめた。
現状では生産者の高齢化が進み、平成22年には500戸程度に生産者が減少することが見込まれた。ただ、1戸当あたりの茶園面積は97aと県平均(54a)を大きく上回り、規模拡大意欲のある生産者も多い。そのため農協では県の農業振興公社の事業を活用し、農地流動化推進員を配置しているが、生産者への認知度は低いことが分かった。効率的経営のために乗用型管理機の導入も一部で進められているが、規模拡大をともなわないと、かえってコスト高になるという課題も示された。
また、沼津市産の荒茶価格は県平均を下回り、下落傾向にあるなか、JAや生産者による直売も盛んだが、消費者には「沼津茶」としてはなかなか評価されていないことも分かった。
こうした課題解決に挑戦するためJAでは「省力化、低コスト、消費者提案型の産地振興」を改革の方向として打ち出している。
具体的には、省力化に向けて乗用型管理機の導入を加速化させるため、PR活動の強化のほか、共同利用や受委託を先行的に実施し、利用面積を拡大させる。また、農地流動化の促進のために、流動化に関する制度利用など研修会に力を入れるとともに、モデル地区を設定して流動化の仕組みづくりにも取組む。
そして、販売面でもっとも力を入れていくのが、沼津市内の地元茶業者に働きかけ、地元産の茶葉を使った「沼津茶」ブランドとして販売してもらうこと。そのためには、施肥基準をきちっと守ってもらうなど、JAによる営農指導で統一的な栽培をし品質向上させることも課題としている。
JAでは直営の製茶工場で製造するものは、これまでも沼津茶として販売しJAの直売所などで売ってきた。今後はさらに、「あしたか牛」で実現した生産、流通が一体となった地産地消の取組みを念頭に置き、お茶でも地元の関係業界と連携してブランド確立をめざしている。
|
JA直売所でも「沼津茶」などを販売 |
◆「寿太郎みかん」を増産
伊豆半島に至る西浦地区で生産されているみかんは「西浦みかん」として定評がある。地元の青果市場のほか東京市場にも出荷されている。とくに昭和50年に青島みかんの突然変異の品種として発見され、その後、普及させた「寿太郎みかん」は濃厚な味で評価は高い。
生産者は現在409戸。しかし、10年後には規模縮小する、あるいは営農をやめるという意向が4割を超えていることから、出荷部会、行政、JAで協議し今年3月に「果樹産地構造改革計画」を策定した。
計画の力点は担い手の確保と農地集積、所得増大のための品種構成の見直しだ。
JAでは担い手を、「みかん経営を主体に経営を継続する意向がある65歳までの農家と後継者がいる農家」と定義。現状では140戸で減少傾向にあるが、22年には120戸を確保する目標でこのうち認定農業者を現状の60戸から80戸に増やす。
また、2ha以上経営の農家戸数も50戸に増やす目標を掲げた。
品種構成は収穫労力の分散と出荷期間の長期継続を目標に、9月の極早生品種から、4月の寿太郎みかんまでを分散させる。とくに極早生品種では、現行の宮本早生から日南に切り替え、青島温州を減らして、その分を寿太郎の規模拡大にあてる。マルチ栽培の推進で安定生産もめざす。
その結果、栽培面積全体はやや減少するものの、生産目標は9000tを維持。高単価の寿太郎の生産目標を現在より1000t増やすことから、販売額は現在の13億円から20億円に伸ばす姿を描いている。
そのほか、芽キャベツの一種、プチヴェールを学校給食や地元レストランに供給するなど野菜でも新たな取組みが生まれているほか、管内7つの直売所も売り上げ1億円を超えるところも出てきており、地域住民から支持されている。
庄司睦組合長は「優秀な農産物はいくつもあるが、JAとしては地域のブランドとしていかに販売していくかが課題。そのために地元の異業種との連携を重視したい」と話している。
JAの概況
◎正組合員数:8514人(7046戸)
◎准組合員数:1万8974人(1万5904戸)
◎貯金残高:2864億円
◎貸出金残高:1199億円
◎長期共済保有高:9691億円
◎販売品販売高:45億円
◎購買品取扱高:32億円(18年3月末)
|