農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAグループの麦類事業の取組み:品質向上対策で売れる麦づくりを

基本技術の励行と広域処理・貯蔵一貫システムを構築

長期保管で実需者ニーズに応える
現地レポート JAグリーン近江(滋賀県)

 19年産からの品目横断的経営所得安定対策の実施に向けて、産地ではこの施策の対象となる要件を備えた集落営農の組織化などが大詰めの段階にある。とくに秋まき小麦については9月から始まった新対策の加入申請に合わせて産地では対応が急がれている。
 その一方、麦政策としては小麦の品質基準がより一層実需者ニーズに即した方向で見直され、産地にとっては担い手対策とともに、品質向上も大きな課題となっている。今回はJAグループの麦類事業の今後の取組みについて、滋賀県のJAグリーン近江の事例から紹介する。

◆集落営農育成法人を設立

大林部長
大林部長

 JAグリーン近江管内の麦作付け面積は約2000ヘクタール。そのうち小麦が1800ヘクタールとほとんどを占め、残りで大麦、ビール麦、種子麦を作付けしている。
 麦は米の主要転作作物として作付けされてきただけに麦の計画的な生産が持続できるかどうかは、他の多くの産地と同様、この地域でも米の計画生産に影響を与えることになりかねない。麦は品目横断的経営所得安定対策の対象品目となったが、その支援を受けるには、経営規模など一定の要件を満たさなければならないから、同JAにとって、まずは麦対策としても担い手育成が急がれていた。
 転作が本格化して以来、この地域では集落の話し合いでブロックローテーションがいち早く実現、農地の団地的な利用は進んでいた。そのため、課題となった担い手問題も、集落を一農場的に利用する先進的な事例なども出てきた。
 しかし、300ある集落には地理的条件や取組みに差があり、たとえば特定農業団体を組織化したとしても原則20ヘクタールという農地集積要件を満たさないケースや、そもそも集落営農の組織化に向けた話し合いも進まないところもある。
 同JAによれば、麦生産の担い手に限って考えると、1800ヘクタールは100の特定農業団体と法人、認定農業者でカバーできたが、残る200ヘクタール分の担い手育成が課題となったという。
 そこでJAではJA出資型法人(株)グリーンサポート楽農を8月に設立した。これは集落営農育成型法人である。
 仕組みは、JAとこの法人に参加することを決めた集落が1人1口2000円を出資して設立するもの。参加した集落の構成員農家は自分の農地をJAグリーン近江農地保有合理化法人を通じて預け、利用権設定をする。
 グリーンサポート楽農は、預かった集落の農地について、作付け品目、作業計画を立てて、集落に作業を委託する。グリーンサポート楽農からは、地代、作業料金、品代が支払われる。

◆一元的な肥培管理で品質向上

JAグリーン近江

 法人からの作業を請け負うといっても、集落が一つとなって自分たちの農地で自分たちの機械を使って自分たちで作業をすることになる。ただ、参加する集落には3年後には集落営農として独り立ちする計画を提出しなければならないという条件がある。つまり、作業を受託するなかで、農地の集約的な利用やそれによる経営の効率化、一元経理など、将来の集落営農の運営について学んでもらうというのが狙い。集落営農育成型法人の所以である。
 集落営農の組織化といっても経理の一元化などの要件をクリアすることが難しいという声がしばしば聞かれるが、同JAではJA出資法人の支援で、当面の麦対策への対応とともに将来の集落営農組織づくりへの取組みを始めた。
 一方、小麦については品質基準の見直しが決まり、19年産からはたんぱくや容積重などの基準が変更になる。同JAの大林茂松営農事業部長は、 「産地にとってはより一層の努力が求められるが、JAあげて担い手育成をするなかで、集落全体で栽培管理する体制も見込めるようになった。一元化した共同作業などによって品質向上につなげたい」と話す。

◆良質麦生産に向けて改革

 同JA管内で作付けしている小麦は、農林61号がほとんどだが最近では新品種のふくさやかの作付け面積も増やす方針だ。 品質向上対策のうちたんぱく含有量の向上には、麦の本作化が叫ばれるようになった平成10年ごろから、排水対策と肥培管理を重点に取組んできた。
 とくに肥培管理面では、栽培後期の硫安の追肥に取組み、その効果でたんぱく含有量を上げることができるようになったという。もちろんその年の天候の影響も大きいが、見直し後の基準値のクリアを目指している。
 また、容積重対策では、カントリーエレベーターでの乾燥段階で、通常は12%基準の水分を11%以下にまで落としたり、精選段階で網目のグレードを上げるなどの対応で、新基準の840g/l以上に挑戦している。
 フォーリングナンバー対策では、過去に天候不良で穂発芽しアミノグラム値が低下した年があったことから、遠赤外線による選別機を導入して対応しているという。
 ただし、灰分は農林61号の品種特性もあってもっとも難しい課題となっている。この点については新品種ふくさやかで対応することも検討している。
 また、良質麦生産に向けて、栽培の団地化とともに、複数年ローテーション化も進めている。連続して麦を作付けることができれば、より乾燥した土壌で栽培ができるからだ。
 そのほか、排水など湿害対策と土づくり、赤かび病(DON)対策での2回防除、水分25%以下での適期収穫など「やはり基本技術の励行が大切になる」という。

品質評価基準の見直し(日本めん用小麦)

◆CEを再編し品質仕分け実施

 栽培段階での品質向上対策に加えて、同JAでは荷受け段階で品質仕分けを実施しているのが大きな特徴だ。
 第一段階は、ほ場での区分。ほ場を巡回し▽赤かびに注意すべきほ場、▽湿害、倒伏、雑草に注意が必要なほ場、▽赤カビの発生、湿害による発芽不良などで別処理が必要なほ場の3つに区分する。
 残念ながら別処理が必要とされたほ場は、この段階で収穫後は別施設に搬入することが決まる。残り2つのほ場はその後の肥培管理などに注意し、荷受け時の二次チェックで一般荷受けとなるか、やはり品質が悪く別施設に搬入するかを決める。
 ほ場巡回の前には栽培日誌も点検し、一次チェックでの区分については立て札を立ててその後の管理を行う。
 こうして良品質麦を施設に集中させて調製・保管することで「等級を上げるという成果が出てきた」という。
 この品質仕分けをするためには、8つのカントリー・エレベーターと7つのライス・センターの役割分担を大胆に行った。小麦処理と大麦処理を担う施設と別処理施設として機能させる施設、さらに小麦に関しては専用の貯蔵出荷のために1施設を整備した。
 栽培技術の向上とともに、麦産地としての評価を高めるためJAの施設を広域に活用した処理・貯蔵システムを構築したのである。

麦専用の貯蔵出荷カントリー
麦専用の貯蔵出荷カントリー

 

「麦専用カントリー」で冷却保存

◆穀温を低温で管理

 小麦の専用貯蔵出荷施設には竜王町のカントリー・エレベーターが活用されている。貯蔵能力は3000トン。17年産から稼働している。
 特徴は、1本300トンのサイロに順次、冷風を送り込み約10℃前後の低温に保っていることだ。
 麦には、保管のために薫蒸が必要とされる場合もある。しかし、これだけの低温で保管しておけば、虫害を防ぐための薫蒸をせずに済むという。米も含め減農薬栽培など安心・安全な農産物づくりを推進している同JAとしては、麦の品質管理にも安全・安心を追求。その結果、冷却という方法を採用し長期保管も可能になった。

(左)麦の冷却装置・(右)麦専用カントリーの制御室
(左)麦の冷却装置・(右)麦専用カントリーの制御室

◆契約数量を守ること

 こうした品質向上対策に取り組んでいるJAだが、生産者によっては麦は米の生産調整のための転作作物という意識もないわけではない。
 もちろん米にも売れる米づくりが求められており、同JAでは環境こだわり米やトレーサビリティシステムで情報開示もできる「とれさ米」などにも取り組んでいる。
 その一方、麦については播種前契約が進み、今のところ米の生産目標数量を決まる前に作付けが行われる。そのため、米の作付けが増えるようなことがあると、麦作付け地を米に転換してしまう懸念も出てくる。
 「ですから、生産者に強調しているのは、麦は生産調整のためではない、ということです。麦は麦、米は米として需要に見合った生産をしなければ産地としても評価されない。みんなで契約数量はきちんと守り良質麦生産に努力しましょう、という呼びかけを大事にしています」と大林部長は強調する。これまでにも年によっては米の数量配分が増えたケースもあったが、その場合は麦はしっかり生産し収穫後に米の作付けを、と指導し合意を得てきたという。
 集落営農の組織化など担い手育成の課題を栽培の団地化、作業の共同化という麦の品質向上対策に結びつける取組みを進めるJAグリーン近江。今後は麦についても品質評価を生産者にフィードバックし、技術向上に役立てることも大切だとしている。

(2006.9.29)



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