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特集 「第24回JA全国大会」記念特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために |
前回大会からの前進を踏まえて新たなビジョンを明確に
JA全中会長 宮田勇氏に聞く 聞き手 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 谷口信和氏 |
農政改革に直面して重点は担い手づくりとその支援
◆経済事業改革進む ――最初に第24回JA全国大会の意義と課題をお話下さい。 地方と中央の格差が拡大し、農村社会は高齢化や担い手不足などの大きな問題を抱えています。その中でJAは地域農業を通じて地域社会を発展させていく中核としての役割をどう果たしていくのか。また組合員のニーズに応える活動をどう展開していくのか。大会はそうした課題や今後3年間の実行方策を決議の形にして内外に強くアピールします。とくに今回は来年から農政改革が始まるという非常に重要な転換期の中で大会を迎えます。課題が山積する中でJAがどのように主体性をもって活動していくのかということで国民の期待度も高く、今大会には非常に大きな意義があると思います。 ――3年前の23回大会で提起されたことのうち、実現できたことと、できなかったことという観点から今大会を考えるといかがでしょうか。 主な点として担い手対策、安全・安心な農畜産物の提供、経済事業改革、地域貢献などの取り組みがある程度前進したと思っています。 ――農業経済学者の中には「役所と官僚は反省しない存在であり、農協もまた議論して決定するのは得意だが、反省は苦手」という先生もいます。しかしJAは少し変わり始めたと私は思います。今回、一番改革した点についてはいかがですか。 22回大会までは実践の検証が厳密ではなかったので前回大会の前には、決めっ放しではいけないとして、決めたことは必ず実践し、検証していこうということになりました。そして3年前からは各年度ごとに決議の重点事項についての取り組み状況と、その結果をまとめ、また実践大会も開いています。経済事業改革中央本部委員会などでも必ず実行の工程をチェックしています。 ◆JA批判への対応
――次にJA批判の問題に移ります。批判には2つの側面があって、相手のいい点を伸ばして悪い点を変えていく批判もありますが、昨今の批判はJAはいらないという相手を否定するような立場でちょっと異常だと思います。今回も批判への対応には検討の余地があったと思いますが、どうでしょうか。 確かに改善への期待を込めた激励といってもいい批判と、無理解による批判があります。後者の場合は、協同組合の組織理論というか、そういうものがわからないのです。組織を単純に株式会社の延長だと見て経済的な損得勘定で批判をしています。 ◆集落営農の考え方 ――総合事業はけしからん、もうかる信用・共済事業は分離しろ、不採算の営農事業などはつぶせ、などといいますが、総合事業がなぜ発展したかを考えないのでしょうかね。今は銀行と証券会社の機能も一緒になりつつあり、さらに銀行はサラ金と結んで昔の高利貸しの仕事までやっています。総合的にやることは意味があるんですよ。 さて議案の中味に入りますが、地域農業振興が前面に立っていて前進だと思います。しかしJAの法人経営対策を見ますと設立後の対策です。私はそうでなく、育ての親は生みの親でなくてはいけないと思います。法人からすれば生んでくれたわけでもないのに後から出てきて何だということになりませんか。 ――担い手育成にはまだ温度差があるのかなという気がしますが、どうですか。 集落営農についていうと、高齢化した農家は担い手に農地を貸し、賃貸料をもらって集落営農の構成員になるという形で農地を集積していきます。また農業から離れたくないという農地提供者の気持ちを生かして畦の草刈りなどは提供者にやってもらいます。担い手だけでは広い土地を管理できませんから作業分担をします。そういったメニューを作り、育成するのがJAの仕事です。リタイアする小規模農家が安心して土地を預け、農業を楽しみ続けることができるようにJAがきちんとやっていくことが大事です。 ◆記帳運動の徹底を ――JA職員が広域合併でやや疎遠になった組合員とどう結びついて地域農業組織化の起爆剤になっていくかという点ではいろいろ問題があると思います。 組合員との信頼を築くためには、組合員と直接、接する人材を育てないとなりません。その対策は営農指導員体制を完備していくことに尽きると思います。JAトップのリーダーシップも問われます。 ――営農指導員を元気づけていくことも大事だと思います。 全中理事会では営農指導員に自信を与え、権威づけるために全中が資格を認証し、バッチ等を授与したらどうかという意見が出ています。 ――品目横断経営安定対策の中で心配なのは、補助金をもらうために担い手の器を形だけつくるような面もごく一部に出ていることです。 一時しのぎのものをつくって将来、もとに戻ったりするなら日本農業に進化はありません。もうからないから後継者がいないのだから、子どもが農業を継ぐためにはどういう形に変えたらよいか、農家自身も長期的視点でよく考えることが大事です。 ――食料・農業・農村基本法には安心や安定という言葉は入っていますが、安全という言葉は入っていません。安全でない食料という概念がなかったのです。ところが法ができた直後にBSE騒動が起きて食料は安全でなければいけないといわざるを得なくなりました。あれから5年。全中は基本法の中に安全意識をはっきり植え込むように運動してほしいと思います。そこで記帳運動ですが、簡単ではないようですね。 生産履歴の記帳運動にはたいへん手間がかかりますが、短期間で多くの作物に広がりました。当初は直売所への出荷についてまでやるのかという疑問も出ましたが、結局は全作物について誰がどのように作ったかを記帳するのは当たり前という考え方でまとまりました。 ――私は地産地消などの結びつきが基本で、その中に記帳運動が入ってくるべきだと思います。例えば妻が作った弁当には賞味期限が明記されていないから安心できないという人はいません。最も大事なのは関係です。 やはり生産者・JAと消費者との信頼関係が大事ですね。記帳はレッテルを貼るためのものではありません。確認をすることです。もう1つは自分の手を離れてから何かあった場合の原因が究明できます。 ◆組合員加入促進へ ――次に地域貢献についてJAの高齢者支援は一般企業とどう違うのですか。 例えば女性部員のヘルパーたちによる介護グループの活動とか年金者友の会のお手伝いなどボランティアの活動が大変多いのが特徴です。また、組合員である元気な高齢者の知識や経験を生かし、「食育」と関連を持たせた取り組みも有効です。 ――農林センサスで農家とされる戸数は正組合員戸数の64・8%に過ぎません。非農家でありながら正組合員になっている地主がかなり多いわけです。組織基盤をどうお考えですか。 農家が減れば組合員も減って組織は弱体化します。そこで組合加入メリットの明確化などを検討します。女性の担い手とか、戸主だけが正組合員である兼業農家の家族なども加入促進の対象にしていきます。 ――今回の議案は担い手のもとに出向く体制がかなり強調されています。大賛成ですが、農作業経験のないJA職員が、増えているようでちょっと心配です。 都市部に拠点をおく一部のJAなどでは、否定はできないかもしれませんが、JA職員ならみんな知っていると思います。営農指導員の計画的な育成や資質向上について検討を進めています。 ――最後にWTO農業交渉に対する全中の取り組みは4年ほど前からは農業者自身の運動を組織して世界的な連帯をつくっていこうと非常に熱心にやっておられます。しかし海外での運動で効果を挙げていることが国内には伝わっていません。 私どものリーダーシップで世界54か国の農業団体が結束して共同宣言をとりまとめましたが、農業者団体の主体的な取り組みは、日本政府や諸外国から高い評価をいただいております。しかし、国内のマスコミでは報道されず、逆に日本の主張は孤立しているとか農業がブレーキをかけているから交渉が行き詰っているなどと報道されています。国内対策のPRを大々的にやることが必要だと考えています。
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(2006.10.3) |
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