第24回JA全国大会議案は昨年9月の議案審議会で検討が始まり、今年6月には組織協議案がまとめられ各地の組織協議を経て議案として固まった。主題は「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」である。
この議案がめざすのは、安全・安心な国産農畜産物の供給や食農教育を通じて、消費者・国民からの支持と理解を得て、地域農業を発展させていくという食と農の強い結びつきをつくることである。そのための取り組みとして議案では、(1)担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興と安全・安心な農畜産物の提供、(2)安心して暮らせる豊かな地域社会の実現と地域貢献、(3)組合員加入の促進と組合員組織の活性化など組織・事業基盤づくり、(4)新たな事業方式の確立等競争力ある事業の展開と万全な経営の確立、の4本柱を掲げた。また、JAごとに将来ビジョンを描くことも重要な目標にしている。
大会で決議した後は、JA、中央会、連合会それぞれでの着実な実践が大きな課題となる。その実践に向けての課題はどこにあるのか。議案への評価も含め石田正昭三重大大学院教授と坂下明彦北大大学院教授(記事参照)から提言してもらった。
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未来志向型の作戦書にしよう
◆網羅的で分かりにくい?
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いしだ・まさあき
1948年東京都生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。三重大学生物資源学部教授を経て本年4月より現職。第24回JA全国大会議案審議専門委員会委員を務める。主な著書は『地方からの農政改革』(三重大学出版会)、『循環型社会における食と農』(三重大学出版会)、『農家行動の社会経済分析』(大明堂)など。 |
前回の第23回大会(平成15年)では「JA改革の断行」が掲げられた。JAグループの経営悪化に加え、産地偽装などの不祥事が相次ぎ、せっぱ詰まった大会だったから、議案書の内容も明快だった。経済事業改革を中心として議案書づくりも簡単だったと思う。
これに対して、今大会の議案書は網羅的で分かりにくいとの批判がある。しかし、専門委員として議案審議に関わった者から言うと、今回の議案書はJAグループのあり方を根本から変える画期的な提案を行っていると思う。
というのは、次期大会さらにはその次の大会へ向けた長期的スパンの中で、将来の制度改正を見据えたJA改革の方向性を打ち出しているからである。
こうした未来志向型の提案を行った背景には二つある。一つは組織・事業基盤に毀損が生じ始め、組織・事業の絶対的縮小が避けられないこと、もう一つは外部から「いわれなきJA批判」が浴びせられ、解体を求める声が高まっていることである。協同組合人からはJA解体論に対して断固たる反論を展開すべしとの意見もあるが、議案書全体がその姿勢を貫いていることをぜひ読み取ってほしい。
現時点で改革方向を明快に打ち出せないのは、利害関係者が余りにも多く、時間をかけた合意が必要だからである。ある部分は消し、ある部分は丸め、またある部分は散らすことによって、可能な限りの提案を行ったと見ている。網羅的で分かりにくいとの批判はその結果にすぎない。以下は筆者なりに考える本音の部分である。
◆JAの使命を見直そう!
JAというのは農業の協同組合、言い換えれば農業を発展させるための協同組合と多くの人が考えている。しかし、こうした考えを持っている限り、JAの組織・事業は発展しない。縮小の一途を辿ると見るべきである。そうではなくて、農業者の協同組合、あるいはより正確に表現すれば、創設当初の「戦後自作農」のセーフティネットとなる協同組合を標榜すれば、組織・事業はまだまだ発展する余地を残している。
このことは政策対象となる担い手だけを支援するのではなく、むしろ政策対象とはならない圧倒的多数の小規模・兼業農家や土地持ち非農家、さらには一人暮らしの高齢者などの「暮らし」と「営農」を支える協同組合として、より一層の磨き上げが必要であることを表している。
それには組合員農家(農業従事者であるか否かを問わない)の経済構造を忠実に反映した事業構造の確立が不可欠である。その事業構造とは、農家経済の仕組みから考えて、「豊かな暮らし」「安全な暮らし」を大目標とし、「効率的な営農」はその大目標をかなえる手段(小目標)とみなすというものである。この手段という観点からすれば、営農のみならず、副業や兼業収入の拡大も見逃せない。
以上は営農をないがしろにしてもよいということを意味しない。というのは、営農という小目標が非効率なものに留まる限り、豊かな暮らし、安全な暮らしという大目標も中途半端なものに留まるからである。このことから、総合JAというのは、営農はもとより資金の決済、貯金と借入れ、老後の設計と保障、不時の備え、健康管理、資産管理、生活資材購買などを含めた広範な部分協同の組織として、組合員農家のセーフティネットとなることが使命とされる。
生活事業というと、生活資材購買しか頭に思い浮かばないような事業展開は最悪である。その旧弊を改めるには、農家経済の立場から見て、信用、共済、福祉、医療、地域開発などの諸事業を相互にしっかりと組み合わせる必要がある。そして、豊かな暮らし、安全な暮らしを求める人は、たとえ非農家であってもJAに寄りたくなるようにしなければならない。
◆地域ビジネスを起こそう!
JAグループの欠陥は生活事業の位置づけが不適切なことだけに留まらない。販売リスクを取りたがらないことも競争的市場経済にあっては致命的である。
もう一つは、組合員農家の就業機会を積極的に創り出してこなかったこと、すなわち職員採用以外に農村雇用の拡大に貢献してこなかったことである。組合員の子弟ではなく、組合員自身が生き生きと働ける場づくりが不可欠である。
組合員自身が生き生きと働ける場づくりとは、組合員レベルでの多様な小規模活動の奨励を指している。例えば、集落営農、支所店舗や集出荷施設、加工調理施設、ファーマーズマーケットなどの共同利用施設の運営、輸送(資材・生産物)、貸農園・観光農園、食農教育、体験教室、ヘルパー(農作業、集出荷場、福祉など)、就農支援などの分野で、組合員自らが株式会社、LLP(有限責任事業組合)、協同組合(農事組合法人を含む)、NPOなどの法人を設立し、その発展によって新たな生きがいを見つけられるように誘導しなければならない。
これらを地域ビジネスと呼ぶが、その中でもファーマーズマーケット(食品製造、レストラン、体験教室などを併設した農産物直売所)は農業者と消費者が直接対面する場として重要な位置を占める。
というのは、それは農業者から見れば販売もしくは利用事業になるが、消費者から見れば購買事業になるからである。この両方の性格をあわせ持つことから、ハードユースの消費者もまた組合員とすることが可能であるし、また必要である。
地域の食と農を結ぼうとするこの事業は、総合JAにとって職能型協同組合から複合型協同組合への転機となるが、同時にそれは「組合員に利用して貰う事業体」というメンバーシップ制の協同組合から「利用者が組合員となる事業体」というユーザーシップ制の協同組合への転機にもなる。つまりは組織基盤の強化につながるわけである。
協同にはいくつかのタイプがある。そのうちファーマーズマーケットでの協同は、お互いは違う役割を果たしているが、皆があわさって初めて一つの目的を達成するという意味の分業的協同、すなわち異質な人びとによる協同を指している。
多様な人がいて初めて組織は強くなる。日本のJAのような組織で同じ性格の人だけを集めても組織は強くならないし、持続性もない。地域の食と農を守るという願いを共有する限りにおいて、協同の輪はこれを積極的に広げなければならない。
◆事業方式を変えよう!
JAグループはこれまで事業機能の高度化を目指して組織二段・事業二段の改革に取り組んできた。しかしその成果はどうであったか。確かにJA合併は進んだが、事業改革は所期の成果をあげないまま、今まさにリストラ型の経済事業改革に取り組んでいるところである。
組織二段・事業二段、それも全国組織が肥大化するような形の改革から帰結されるものは県単一JAしかない。事実いくつかの県で県単一もしくはそれに近い県域JAが誕生または誕生しようとしている。フェアに見て、巨大な全国組織に対抗するには単位JAも大きくなるしか方法がなかったからである。
遅きに失したものの、こうした動きの危険性を察知したのが現在の状況である。言い換えれば、全国を一本化して(集権的な方法で)効率の上がる事業もあれば、地方あるいは地域に分散させて(分権的な方法で)効率の上がる事業もあって、前者を優先させた組織再編は後者の特性を奪い取ることに気づいたのである。こうした反省を踏まえて、広域合併はいったん止めて、事業の性格によってマネジメントの仕組みを変えようと提案しているのが今回の議案書である。
その考え方を筆者なりに要約すれば、(1)信用、共済、SS、Aコープ、資産管理、旅行などの全国ネットの事業は全国どこの店舗でも同じレベルのサービスを提供する、(2)営農や地域ビジネスなど地域固有の事業はサービスの個性化を通じて組合員利益の増大を図る、(3)全国ネットのサービスを提供できなくなった(あるいはそれを重荷に感じる)JAはその事業を連合組織に譲渡または委託し、自らは地域固有の事業に特化する、(4)単位JAの競争性を促進する観点から地域ゾーニング制の廃止を検討するなどである。
こうした本音を正しく受け止めるには、都道府県中央会による適切な翻訳機能の発揮が必要である。都道府県大会では議案書を丸写しするのではなく、率先して将来ビジョンを描いて欲しい。