「一騎当千」の青年農業者たち
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(左)前列左から田中智春さん、細田達也さん、森下和紀さん、松島正紀さん、羽黒 智さん、島田 竜さん、
後列左から百石周正さん、寺林寿司さん、谷口勝芳さん、米田勇太さん、海道祐司さん、五十里 章さん、
青木孝弘さん、
中村素嗣さん、青木浩文さん
(右)鍋島慎一郎さん |
総勢16人――。
富山県入善町の生産法人・グリーン森下で待ってくれていたのは、この町の若手農業者たち。年齢は19歳から39歳。あいにくの雨で倉庫に入ってもらったが、ずらり並ぶと圧巻だ。
「これでもまだ半分ですから」。
JA富山県青壮協副会長も務める森下和紀さん(36)は言う。
農家の後継者、あるいは家族経営を法人化し経営者の一員となって農業を担っている人が多いが、非農家出身で法人に就農した若者も出てきた。
海道祐司さん(21)は森下さんの法人の従業員。農業高校時代の研修で就農を決めた。今年は1haの米づくりを任された。島田竜さん(19)は、地元のサラリーマン家庭に育つが農業高校を卒業し、JA全青協会長の矢木龍一さんが経営する法人に「就職」した。「自分の力を試したかった。いずれ独立したい」。
また、中村素嗣さん(32)さんは京都出身。富山県内にある企業のサッカーチームのプレーヤーだったが、町内の農家の女性と知り合い、農業者に転身。
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JAの営農指導員として地域に関わるうちに、担い手になった人もいる。JAみな穂青壮年部委員長の青木孝弘さん(39)は担当していた集落から担い手の一人となるよう求められ、鍋島慎一郎さん(30)と慎一郎さんの父親が設立した法人に参加した。「地域貢献できれば」。また、松島正紀さん(29)は、営農組合の専従者として集落営農を担う立場だ。田中智春さん(24)さんは米と大豆の大規模経営をめざすが「集落の農業基盤をしっかりつくることが目標」と話す。
家族経営を引き継ぐなかでも、自分なりの挑戦もしている。寺林寿司さん(35)は鉢物栽培を始めた。「花生産の少ない地域」に目をつけた。首都圏、中部圏などの市場ニーズに合わせポインセチアなどのオリジナル栽培品の開発に力を注ぐ。米田勇太さん(30)はチューリップの切り花と球根。百石周正さん(36)と細田達也(27)さんは、特産の白ネギをはじめ施設野菜で差別化を図る。 夢を与えた先行世代
五十里章さん(39)は「稲作だけでは経営が苦しくアルバイトでしのいだ時期もあった」。経営を成り立たせようと始めたのが、種子栽培だ。今は種籾と大豆種子も栽培している。今、入善町は日本一の種籾産地。「自分が仕事として選んだからには工夫しなければ」。
ここの若い担い手たちの交流は盛んで連携もある。谷口勝芳さん(25)は父親が始めた和牛の肥育を両親とともに経営しているが、たい肥を仲間たちのほ場に投入するなど、土づくりにも一役買う。
こうしたつながりだけではない。森下さんは「あいつの農作業が今日は大変そうだぞ、と聞くとトラクターで駆けつける。仲間との連携、絆が強い」という。JAみな穂の松原克巳リーダーは「彼らは現代版ゆいの実践をしてます」。
入善町でも10年前は担い手不足が深刻だったという。そのなかで彼らの父親にあたる世代のリーダーが「若者にも興味を」とラジコンヘリのオペレーター組織をつくった。それがきっかけになり次世代の目が農業へと向き始めたという。
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翌日、大規模稲作を経営する(有)サンライス青木を訪ねると青木浩文さん(24)が出荷作業をしていた。そこには土木業から転職し父親から米、大豆の経営を引き継いだ羽黒智さん(25)も手伝いに。浩文さんの父、靖浩さんは土づくりにこだわり丈夫な苗を育てることが米づくりの信条だ。
「ここに顔出せば仲間だけなく上の世代からも教えられることがうれしい」と羽黒さん。
地域の人々の支えはもちろんパートナーの役割も大きい。森下さんは特産の入善ジャンボ西瓜の後継者が不足しこれを守っていこうというのも就農の理由だったというが、今、栽培管理は妻が担当。女性が伝統作物の「伝承者」になってもいる。
地域で育てられた若者たちが、今、地域を育てる力になっている。 |