農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「第24回JA全国大会」記念特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために

鼎談 協同組合の本質を語る(2)

内橋氏・河野氏

◆手段が目的になって

内橋克人氏
内橋克人氏

 河野 私も協同組合を40年やっており、内橋先生のいわれた3点はやり続けていると自分では思っています。だから市民がつくる「公共」をと、働く場づくりをやったり、それから政治すら自らつくり変えようと女性議員を出して税金の使い道すら制度によって変えようとしています。
 使命感の乏しさについては、目的と手段が逆転しているからだといえます。目的は人々の生活の豊かさをつくり出すことです。それに達するために事業を行いますが、それは手段であると定款にはっきり書いてあります。
 ところが、その手段が支配を始めています。事業が目的になっている、これが今の協同組合全体の弱点です。中には、やってはならない事業もあるわけで、先ほど話に出たタイにコメを輸出するなんてことはやっちゃいけない事業です。国境を超えて協同組合理念が存在するわけですから。ところが目的と手段の逆転の中でそれすら忘れてしまっている、これが今の大きな問題です。
 この間に農協界が忘れたことは何かというと、制度に従ってきてしまったという流れです。協同組合は自発的な組織です。そういう組織でありながら戦後、食料を供給するという制度によって農協は評価されてきました。
 それがグローバル化によって否定されなければならない時代に来てしまった、それは要するにコメの問題です。コメ価格が自由化された時に制度はもはや存在しなくなった。その時に農協は転換しなければいけなかったのです。
 必要なのは制度に従うのではなく制度を活用するという発想です。しかし自分たちが社会的な役割を果たすために制度を使おうとしてきた形跡は残念ながら見当たりません。

◆総合農協に高い評価

河野栄次氏
河野栄次氏

 河野 今はどうか。今度は逆です。新たに制度をつくるという観点に立つべきです。何をいいたいかというと新農基法にもいい点があります。それは一番最初に食料自給率を掲げてくれたからです。
 戦後60年、日本の政治家の最大の手抜かりは食料基本法をつくらなかったことです。食料戦略のない国は存在しません。食料をどう国民に供給するかという基本法の下に農業法や漁業法、食品加工業法があるべきです。
 基本法なしに部分々々でやってきたから今日問題が起きているのです。協同組合も農協法や生協法、中小企業の関係法などに分かれ、所管の役所も農水省、厚労省、経産省と別々です。
 一方、ICAは古くから日本の総合農協を高く評価しました。人々が地域で生きるための機能をすべて持っているからです。
 ところが、組合員や役職員は目的意識的にそのことを考えないで、制度によって機能を持たされてきてしまったから、制度が変わるたびに、それに追随してきて結局、行政の後追いになってしまったのです。
 協同組合は自発的な組織だから、目的を達したら解散してもいい。それは当たり前のことなんですが、実際にはなかなかそうはなりません。
 ちなみに今回の大会で明快に打ち出してほしいことは戦後60年、衰退してきたとはいえ食料生産を担い続けてきたことを宣言してほしいと思います。これは私の農業者へのメッセージです。
 トヨタが代って食料生産を担うことはできません。トヨタは2兆円のもうけをどうするかといったことを企画し計算はできます。そういう事業体です。しかし食料の生産者は自然環境のすべて、それぞれの地域条件を考えながら多種多様なものを作っていかなければなりません。
 農家はそのことをやってきたし、今もやっているという事実をはっきりさせ、担い手としての自信を持ってもらう必要があります。そういう全農家へのメッセージを出してほしいと思います。

◆具体的な食料戦略を

 河野 そして自給率を45%に上げるとするなら農協は具体的にその戦略を組み立てる仕事をすること、これが制度からの脱却です。農水省は具体的戦略を出していないのですからね。
 生活クラブ生協は、日本の自然環境からするとコメの生産性が一番いい、だから穀物飼料の輸入をやめて餌米を作ろうというメッセージを出しています。しかもそれは大規模で作れる平野部でやったほうが効果的だ、中山間部は飯米づくりでいいじゃないか、それでも十分に日本で農業がやっていける形ができるとしています。農協全国連も具体的戦略を出し、はっきりと農民に呼びかけていくべきだと思います。
 課題を次に移しますと、協同組合は生活の質を新たにつくることを提案しないとだめです。
 今までの生活の質は企業がつくった商品やサービスによるものでしたが、その時代はもう終わりました。問題は3点あります。
 まず地球的な規模で水が大問題になっています。ハイテク産業も原子力発電もすべて大量に水を使います。例えば中国で水洗便所が増えているといったことも挙げられます。
 次にエネルギーが限界に来始めているという問題があります。
 さらに問題は化学物質です。農薬削減をいっているのではありません。私は化学物質の総量削減をいい続けています。化学物質そのものはまだ解明されていませんから、それを使って物を造り、後から問題が出てもしようがないんです。やはり循環型の仕組みにしないといけません。

◆地球資源はもう限界

 河野 地球資源に対して、もう限界にきているんだということを認識して生活の質をつくることです。そのモデルを協同組合が提起しないといけません。しかし、それはどんな生活なのか、指針などまだできておりません。国内でできる条件の制限性をはっきりさせ、それで生活の豊かさという概念をつくり変えてみてはどうだろうかといっています。
 私は安全安心という言葉を使いたくないと考えています。あらゆる情報を開示するから安全安心は自分で確かめてくれというわけです。国は当然、食品安全行政をやらなくてはいけませんが、協同組合にとってはまず情報の開示です。そういうことができるのはJAグループだけです。
 自給率を45%にする具体的戦略を農協が立てて政府に明示し、食料の安全保障は自分たちで担うと宣言すればどうでしょうか。きちんとした形で食料戦略に取り組めばJAグループの今後のたたかいは大いに期待できます。

 田代 JA大会は、組合員はもとより国民に対しても明確なメッセージを出さなければ協同組合としての使命は果たせませんよというご発言だったと思います。では内橋先生、協同組合と公共性の関係について、さらにお願いします。

◆為替問題を考える

 内橋 いまなぜ日本の消費者は自国の食料自給率向上に関心を示そうとしないのか。なぜ日本農業を核心のところでサポートしようとしないのか。もっと深く考えておく必要があるのではないでしょうか。
 問題は協同組合が事業性に埋没し、それに偏ってしまって、最も大事な運動性、使命感を希薄なものにしてしまったことです。
 消費者が国産の農産物を選ばない理由の一つは価格でしょう。日本農業への批判といえば、まずはコストが高いとか、市場競争力がないだとか、そういう言葉が横行している。
 なぜ高コスト、高価格なのか、きちんと論理的に説明しないといけないのに、それをやっていない。たとえば為替問題です。
 石油ショックは1973年と79年に起こりましたが、79年の1ドル219円に比べて今は110円台です。27年間で相場が2倍となり、したがって輸入価格は2分の1になってしまったことを意味しています。
 いま再び原油高騰時代に突入していますが、二十数年前の石油ショック時の狂乱物価にはなっていません。なぜか。それは円高が吸収しているからです。為替マジックが働いているからです。
 当然、輸入農産物も当時に比べて半分の値段で入ってきます。この為替マジックを度外視して、日本農業の非生産性とかコスト高、大規模化の必要が声高に糾弾される。農家の自主努力が足りない、などと平気でいう。本当なのか。
 円高が進んだのは自動車、家電、エレクトロニクスなど第2次産業の強い輸出力によっています。いま、企業社会では上位10社で日本の外貨獲得高の3分の1を稼いでしまう。上位30社をとればもう2分の1にもなり、上位の100社さえあれば、もはや他の企業はいらないともいわれるほどです。強い企業をうんと強くすれば底辺も引き上げられるというのが新自由主義の考え方です。
 そこで上位10社などの多国籍企業にさらにヒト・モノ・カネの資源を集中する。
 バブル崩壊後の「失われた10年」の間だけで実に20%も円高にぶれましたが、為替マジックを問わず、二次産業の競争力強化策をそのまま農業に当てはめ、農政は農業の大規模化・合理化をひた走った。零細農家はもういらないのだ、と。この間違った方向性を農業を担うもの自らが糾すことができなかった。「論理の貧困」のゆえに、行政の後追いに終始した。今日の農業危機はそこに始まっている。為替対応は農家の自主努力で可能なのか。
 政治権力に迎合するメディアの大合唱に乗せられて、庶民は「日本のコメは高い、消費者がソンをしている」と信じ込まされた。アメリカの要求を受け入れた例の「ミニマム・アクセス」の頃です。
 あの時代、タクシーに乗っておりますと、運転手が「日本のコメはカリフォルニア米の7倍も高い。私たちはソンをしている」などという。請け売りですね。そこで私は「いま、私の乗っているタクシー、降りるときあなたに払う料金は、他国の7倍も高い。なぜか分かりますか」と教えました。すると、ドライバーは驚いて「ほんとですか。ラジオやテレビでは、しょっちゅう、日本のコメは高い、高いといってますけど」と。
 声を上げるべきは、きちんと声を上げる。単に米価だけでなく、社会の現実、農業の構造、為替の制度そのもの、しっかりと理解し、そして農業の外に向けて訴えていく。そうでなければ消費者の支持を獲得することもできません。(「鼎談 協同組合の本質を語る(3)」へ続く

(2006.10.13)


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