農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「第24回JA全国大会」記念特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために

自立をめざす農山村とJAの役割(4)

JA北信州みゆきの「新しいしくみづくり」

北川 太一(福井県立大学大学院経済・経営学研究科助教授)

◆組織研究会を設置

JA北信州みゆき

 JA北信州みゆきでは、組合員組織、とりわけこれまでJAの「基礎組織」であるとされてきた集落組織(農家組合)の改革に向けての検討が行われた。2004年5月のことである。
 検討に際しては、「JA北信州みゆき組合員組織研究会」を立ち上げ、関係者の意識づけ、現状認識の共有化、基本的な方向性などを議論するとともに、より具体的な方策を検討するために組合員代表と支所長職員からなる「専門委員会」が設置された。この研究会は、JAの常勤役員や理事・女性参与、支所運営委員長や農家組合長会会長、総代代表(女性総代を含む)、青年・女性部役員、生産部会協議会代表、あぐりスクール保護者や女性大学運営委員代表、ならびに学識経験者(県中央会を含む)などからなる。世代や性差、組合員資格の有無を問わず、できるだけ多様な属性を持つ個人が参画できるように配慮された点に特徴がある。
 その後、数回の研究会や専門委員会が実施され、農家組合長と組合員(家族を含む)を対象にしたアンケート調査、小グループでのワークショップの開催などが実施され、2004年5月に基本方向がまとめられるに至った。

(左)新しい組織研究会には「あぐりスクール」の保護者など幅広い組合員代表が参加している・(右)子どもを対象にしたJA北信州みゆきの「あぐりスクール」
(左)新しい組織研究会には「あぐりスクール」の保護者など幅広い組合員代表が参加している
(右)子どもを対象にしたJA北信州みゆきの「あぐりスクール」

◆キーワードは、「戸」から「個」へ

 これからのJA運営の重要な課題は、これまでの「戸」を中心としたシステムから、「個」を尊重したシステムへの転換である。このことは、『JA綱領』に明記されている「個人の意思反映」「個人の能力発揮」の具体的な実践でもある。これまでのような家を単位とした事業・運営システムは、さまざまな個人が表に出てこない、個人の能力発揮や意思反映がなされない、さらには個人の思いや呟きを拾うことができない、という点で限界に達しているのではないかという共通の認識が、検討の過程で醸成されたのである。
 アンケート調査からも、既存の組織に対する“私たちには関係がない”という意識が予想以上に顕著であったこと、特に次世代・女性を中心として、こうした硬直性を打破しない限り新しい展開が生まれないのではないか、という意見が強いことが明らかになった。

◆喜んで集える「しくみづくり」

 こうした議論を踏まえて、取組みの目的を「『ここに住む人たち(地域)が活き活きと生き続けるため』の地域を興す協同の力」と設定し、それを実現するための「しくみづくり」であるとした。まず器(組織)を作ってそれから考えるという発想ではなく、地域に住むいろいろな属性の人が、喜んで(進んで)集えるようなしくみ、楽しく、またある時は思いをぶつけ合い、個人の悩みや地域の課題を話し合い、解決できるようなしくみが組織であると整理された。
 そのために、自治区や公民館といった既存の地域組織と連携を保ちながらも、年代別(次世代、青壮年など)、目的別(食農、生活文化、助け合いなど)にグループを作っていくことによって、地域(集落)での協同活動を再構築していく。このことによって、JAと組合員との「双方向」の情報交換、意思反映、協働を進めていくこととしている。

◆大きな糧となる「経験の共有化」

 2005年度は、第1ステップとして、「新しいしくみの方向づけ」を明らかにし、現行の農家組合をはじめとした集落のしくみを「ゆるやかに改革」することが、目標として掲げられた。2006年にかけての第2ステップでは、この取組みに際して重要な鍵を握る支所段階での取組み、特に支所運営委員会の整備・強化をはかりながら具体的な進め方を検討すると同時に、モデル集落を設定して取組みが進みつつある。そして最終的には、集落担当職員を1名以上置き、全域的に新しいしくみへの転換をはかっていく計画である。
 このような取組みにあたっては、幾多の関係者の苦労があったことも事実であり、それは今もなお続いている。一連の事業改革のように、目標や成果が目に見えるモノの改革ではなく、ヒト(しくみ)の改革は、マニュアルがなく先が見えにくい。議論が半歩進んで一歩後退することも頻繁にあり、まさに、“尺取り虫”の運動である。所々で立ち止まりながら、ねばり強く、関係役職員や組合員・メンバーが集まり、このしくみづくりになぜ取り組むのかを確認しあいながら、ゆっくりと進みつつあるのが実状である。
 これまでの経過を通じて得られた成果は、多くの組合員・役職員が、自分たちで問題を出し合い、意見交換をし、県中央会をはじめとする「学識者」の後方支援を受けながらも、最終的には自分たちの手で計画・方向性をとりまとめ、それを実践に移しつつある点である。こうした「経験の共有化」こそが、JAの将来に向けて大きな糧となることは間違いがないであろう。

(2006.10.19)


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