◆JAや生産者から見える「売る力」をつける
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田代洋一氏(たしろ・よういち)
昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒。博士(経済学)。昭和41年農林水産省入省、50年横浜国立大学助教授。現在は同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『「戦後農政の総決算」の構図』(筑波書房)、『集落営農と農業生産法人』(同)など。 |
田代 全農は、各生協や量販店と直販とかいろいろな取引きをされていますが、最近、そのなかで変化がありますか。
宮下 青果でも米でも大半のものは市場や卸売会社を経由しているわけです。青果でいえば市場経由率は7割くらいあり、これは変わらないと思いますが、全農という経済事業団体としては、自ら生協や量販店との取引きを強めていきたいと思います。あるいは、茨城県本部が「ポケットファームどきどき」という家族で遊べて、茨城県産の食材を調理したメニューを提供するレストランもあるという直売所をもっていますが、そういうものを都市部でさらに展開していく必要があると考えています。
ただ、青果市場にしても米の卸会社にしても、ここ数年はしのぎあいになるだろうと思います。そうすると私たちは自ら売る力をシッカリつけることが必要だと思います。もちろんJAや生産者が自ら売ってもいいと私は思っていますが、それだけですべてが賄いきれるもではありませんから、全農の直販事業が必要だということです。
今回、全農の青果センターを会社化しましたが、青果センターを利用されているJAでは、センターの価値を認めてくれています。どこに売っているかが分かるし、そのJAでのセンターの占めるウエイトも大きくなっています。そのことをまだ利用されていないJAにどう伝えるかということと、われわれ自身の販売力をつけることだと思いますね。
田代 そのために、具体的に考えていることは。
宮下 戸田にあるJA全農青果センター(株)東京センターは、コールドチェーン化して着実に伸びています。大和センターもそろそろ耐久年数がきている時期でもありますので、コールドチェーン化するとか、場合によっては千葉にもう少し小規模なセンターをつくるとかが、検討課題ですね。
加工業務では、まだ成功したとはいえませんが、茨城県本部でのVFや千葉県本部で加工センターをもったりしています。まだ県本部単独での事業となっていますので、次期「3か年計画」では、首都圏を連携させて本所も含めて加工にシッカリ取組んでみようと考えています。
そういうことを含めて、JAや生産者から見えることをやっていくことだと思いますね。
田代 全農を通じればよい販路を開拓してくれ、着実に販売できるというPR力が必要なんでしょうね。
宮下 組織外から経営管理委員や監事に就任された方からも、全農は、中に入ってみれば真面目にやっているし変わりつつあるけれども、PRが下手ですねというご指摘があります。確かにいままでは「シッカリ売ればいいんでしょ」ということできた面はあると思いますし、ご指摘はその通りかなと思います。
◆生産者の努力が伝わったときにその価値が初めて理解される
田代 食の安全ということでトレーサビリティとかポジティブリスト制に対応していくとそれなりにコストがかかってくることになりますが、こうした安全性に対するコストについてどうお考えになっていますか。
浅田 それをコストと考えるのかどうかということがあると思います。私たちは先ほどもいいましたように、一般的な商品と価値なり特徴がきわめて明快な商品を同一視してとらえることはできないと基本的に思っています。そうすると、標準的な意味での安全性とか生産履歴管理は、これからお互いに果たしていく社会的な責任だといえるわけで、それをコストオンするという話は通用しないといわざるをえないですね。
問題はそれをコスト引き上げ要因だというのか、そうではなく総合的な品質管理の確立は結果的に国内農業そのものの競争力が高まるんだと思います。
私たちもいろいろなJAの方たちとお話したり、産地にも行き、生産履歴記帳でご努力されていたり、場合によってはISOやHACCPの仕組みを含めて取り込もうとしている産地の方々とお会いするわけです。その内容が生協組合員や消費者にどのように伝わっているかというと、残念ながらまだ十分に伝えきっていない。学習会や研究会などで、できるだけ産地の取組みを話してもらい、ようやく分かってもらえるわけです。そのときに初めて、そのことの価値を理解をしてもらえるんです。
田代 先ほどの国産品がそれなりに愛されてきていることと、国産の安全性への取組みが単なるコストとしてではなく、国産プレミアムとしてそれなりに価値に反映している。それが少しずつ表れてきているという話ですが、宮下専務いかがですか。
宮下 日本は極端に振れる傾向がありますね。ある一部分で「危ない」という話がでると、全部が危ないという話になってしまいますね。消費者の方も、その場ですべての生産履歴が見えなくてはいけないとはいっていないと思います。そんなことをしたら余計なコストがかかってしまうわけです。遡及して追及できる仕組みがあれば、生産履歴の記帳だけでもいいと思います。ただ、それだけでは安心できないという方もいるので「全農安心システム」とか、もう少しシッカリしたものをつくっていこうとしているわけです。そして、そういうものの価値が上がってきています。
◆“わけあり商品”を共に開発し理解を深めることから
田代 最後になりますが、1980年代から協同組合間提携が追求されてきたわけですが、それほど華々しい成果があったわけではないと思います。先ほど宮下専務は取引きを通じての提携だといわれていましたが、取引きを核としながら、それを広げていくような、例えば地産地消とか食育とか新しい分野で協同組合間提携してというような点については。
宮下 私は実際の商売を通じて提携していくことだと思っています。一般的な商品を提供しお買い上げいただくことも日常的なベースでは必要なことですが、例えば生活クラブ連合会と提携している国産鶏種はりまのように、本当にわけありのものを一緒に開発をして生協組合員に理解をしてもらいながら売っていく、そのかわり全量を買っていただくというようなことを一つひとつ積み重ねていくことが本当の提携になると考えています。
田代 食農教育としてもいろいろやっていますよね。
宮下 そうですね、消費者の方々に「農業」や「食」にふれてもらう機会として「農業体験ツアー」を今年度中に10回実施しますし、「親子料理教室」も8回実施します。また先日は「食と農の祭典」というフェスティバルを大手町で開催しましたし、NHKと提携して「全農チャリティーフェア」も行っています。さらに、野菜や果樹の花の写真を集めた「野菜・果実の花図鑑(CD−ROM)」を制作し、文部科学省の協力を得て、全国の小・中学校および公立図書館、養護学校、聾(ろう)学校・盲学校、さらには海外の日本人学校(合計19万3000校)に配布し、活用してもらっています。
また、SR活動の一環として、「人と生き物に優しい農業を支援する」を合言葉に、環境に配慮した事業に連動する活動を行っていますが、その具体的な取組みとして「田んぼの生き物調査」を全国8か所で実施しました。
◆食と農を一緒に考える「場」をつくることが大事
田代 生協としてはどうですか。
浅田 日本生協連がまとめたデータによると、1年間で10万人の生協組合員が産直事業のパートナーとして産地と交流しています。各地の生協とJAとの間柄の中の経過と歴史の根底にこうした組織的な交流がずっと続いてきたという事実をキチンと評価すべきだと思います。
その上にたって何をするかだと思います。この11月18日19日に日本生協連としては2回目になりますが「たべる!たいせつフェスティバル」を神戸で開催します。これを単なるイベントで終わらせてはいけないと考え3回ほど学習会を開きましたが、毎回400人以上が参加し超満員でした。
その延長として、いまの食のバランスとか日本型の食のあり方を今後も勉強していこうということになりました。この経過をみていて、「食育」というと子どもの話になり学校教育とリンクしてとなりがちですが、中高年の人たちが食のバランスの問題を語れて、そのことが実は食料自給につながっているという論議ができるような「場」をつくっていかなければいけないのではと思いましたね。私は食育で押し付けはダメだと思っていますので、自分が主体的に判断できる場をつくるのが生協だと思います。
地産地消も含めて個々の商品を利用するということは、小規模で多品種作っている農家と自分は何らかの形でつながりがもてるんだということを見ない限り、リアルに食と農の関係を想定できませんよね。そういう場をつくることは、これだけ食と農の問題がいわれているわけですから、いままでと違う意味がでてきていると思います。
冒頭にもいいましたように、マーケットは変わってきていて、いままでと違う商品づくりをしなければいけないわけで、その根底にある変化も含めてもう一度、学習する場を一緒につくることは、違うステージに入っていくことだと私は思います。
今回の神戸でのフェスティバルもJA全中も後援しているわけで、これで終わるのでは意味がありません。ここから改めて一緒に何をやるのかという話につなぐことが大事だと思っています。
田代 今日は大変にお忙しいなか貴重なお話をありがとうございました。
座談会を終えて
100億を超す取引相手同士の対談ということで、司会は緊張したが、そこはしたたかな経済人同士、話は和やかに進んで、これでよかったのかという気がしないでもない。
格差社会化のなかで食の二極化が進むと考えていたが、同じ家族が平日と週末・祭日では一食単価が異なり、かつともに微増に向かっていること、そして国産志向が強いというお話は極めて示唆的であり、農業サイドとしても薄明かりがさしてきた感じがする。それだけにますますきめ細かな供給が求められる。
農と消費者の交流の成果に自信をもてというお話も力強い。全農サイドも期待に応えて、やっていることをもっともっとアピールしてよいのではないか。全農新生プランにしても「生産者に対してこうします」という話が先にたつが、そうではなく「消費者に対してこうします、そのために生産者に対してこうします」と言う構えが必要ではないか。その頭出しの対談になっていれば幸いである。(田代) |
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