農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  全農特集・生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋に

現地ルポ(2) JA全農岡山県本部

担い手農家の声を聞き、それに応える現場主義が基本

足で稼ぎ心でつながることが、組合員・JAとの信頼を築く



◆訪問実践あるのみ 平成14年から始まった担い手対策

岡部長(左)と柏内室長(右)
岡部長(左)と柏内室長(右)

 「訪問実践あるのみですよ」JA全農おかやま(県本部)営農・担い手対策部の岡政男部長は、活動の基本を一言でこう表現した。後で見るように、同部が行っている担い手農家への支援策の一つひとつは、JAの担当者と同行して訪問した生産者の「こうして欲しい」「こうだったらいいな」という意見や要望を聞き、それなら「こういうことができるのでは」と生まれてきたものがほとんどだ。
 日本・農業・担い手を略した「N3」(エヌスリー)を愛称に活動する、担い手推進チームのモットーは「足で稼ぎ心でつながること」であり、そのことで「組合員・JAとの信頼関係を築き上げる」が目標だ。
 JA全農おかやまで担い手担当部署が設置されたのは、平成14年のことで、そのときは生産資材部肥料農薬課「担い手対応班」としてだった。当初1名からのスタートだったが、2年目に園芸・農産にも拡大し、16年1月に担い手に出向く活動を強化するために同部が設置された。そして、17年に新たに県中央会・県・担い手育成財団とワンフロアー化した体制に再編される。実際に担い手農家に出向く活動をする中心は、現在、同部の担い手推進室で、現在、7名の専任担当者がいる(部全体では、営農企画課4名と合わせて11名)。
 対象となる担い手は、国の決めた「経営所得安定対策」の対象者だけではなく、一定の農業生産販売総額か水稲・野菜・果樹・花卉ごとに定められた栽培面積基準を上回る個別経営体、農業生産法人・営農集団、面積500アール以上か販売金額5000万円以上の園芸生産部会となっている。対象者は県内で約3400人、1JA当たり300〜400人(県内は11JA)となる。
 この担い手を、JA担当者(専任部署設置5JA、兼務部署設置6JA)と同行して定期的に訪問。担い手農家の意見・要望を聞くとともに、継続的な訪問活動をするために、顔・場所・農業経営概況などが記録された「担い手農家台帳」を作成していく。
 初めは「まず、批判されますよ」。しかし「回数を重ねて行き、10聞いたことの1つとか2つでも答えが返せるようになると、だんだん打ち解け、信頼され、期待される」ようになると、柏内祥孝同部担い手推進室長。訪問するときには、新製品などの情報も持っていくが、まずは生産者の意見や困っていることなど聞き、そのなかから自分たちでできることを考え、支援対策として具体化してきている。

◆生産者の要望に応えたフレコン集荷、畦畔対策

 その一つが「フレコン玄米集荷体制の整備と普及」だ。これは数年前に大規模水稲農家から「紙袋で出荷するのは労力がかかり、すべて出荷し終えると手に力が入らなくなり、物が持てなくなる。フレコンで出荷できないか」という話があり、また、実需者から精米するために「紙袋を一つづつ開けるのは大変だ。フレコンにならないか」という要望があったからだ。
 フレコンだと紙袋とは検査方法が異なることや、荷捌きや積み方が違うと難色を示すJAもあったが、生産者と実需者の両方に喜ばれるのだからと説得。1トン台秤を導入する生産者には全農として助成し、フレコンは無料で貸し出すことにして普及をはかってきた。現在では、県内約150戸の大規模水稲農家のうち120戸がフレコンで出荷するまでになり、JAの集荷率もアップしてきている。
 また、大規模農家から「農地を集積しても畦畔と水の管理が問題」だという話がでた。とくに岡山県は、畦畔面積が6700ヘクタールと全国で2番目に多く、年に4〜5回の草刈に多くの時間と労力が必要なこと、傾斜地が多く危険を伴うこと、管理を怠ると雑草化し、病害虫の寄生場所になる、など多くの問題があった。また、新規基盤整備畦畔では、表土の流亡や畦畔の崩壊が懸念され、数年後には草刈作業が必要になるなど、農地集積のネックとなっていた。
 そこで考え出されたのが、センチピードグラス(ムカデ芝)を畦畔に定植し、雑草を抑制する方法だった。生育が旺盛で根が深く伸び、地上ほふく茎が強力に発生して土壌保持性がよいこと。また、畦畔定着後10年以上も活着することなどがこの芝を選択した理由だという。
 現在、畦畔への芝の定植は、地域が一体となって取り組む必要があるので、地域ごとに計画的に取り組まれている。さらに、県本部では、育苗センターでこの芝の苗づくりも行い一般よりも低廉な苗の供給も行っている。
 そのほか、麦の播種同時除草剤散布など機械作業の省力化試験を行うなど、担い手農家のニーズに応える労力軽減対策を一つひとつ実施している。

(左)紙袋からフレコン集荷に替わり労力が大幅に軽減された・(右)しっかりと畦畔に活着したセンチピードクラス
(左)紙袋からフレコン集荷に替わり労力が大幅に軽減された
(右)しっかりと畦畔に活着したセンチピードグラス

◆県本部全体で取り組む

 生産・販売面では、売れる農産物づくりとして特別栽培米への誘導や、契約加工タマネギなど新規栽培品目の導入、生産者が高齢化して重量野菜の生産が難しくなり畑が荒れたり、耕作放棄されるおそれがあることから、軽作業で永年栽培できるレモンの産地化への取組みなどを行っている。さらに、担い手農家を対象にした乾燥調製講習会の実施など、農産物の品質向上をめざす研修・講習などユニークな取組みもある。
 こうした取組みは、担い手推進室が中心となるが、県本部各部にも「担い手担当者」がおり、その担当者たちと月1回定期的に会合をもつなど、日常的に連携することで可能となっている。16年の台風被害のときには、各部に呼びかけて人を出し、パイプハウスの復旧支援を行うなど、県本部全体の取組みとなっていることが注目される。
 このように、「担い手農家のニーズを聞いてそれにどう応えるか」という「現場主義」が、岡山県本部の担い手対策の基本だといえる。

(2006.11.21)


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