がんばれ かあちゃんたち!
◆笑顔とやる気あふれる直売所
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足立和子さん |
「JAにじ耳納(みのう)の里」はファーマーズ・マーケットや地元食材を使った素朴な料理を提供するレストラン、パン工房、とうふ工房などを備えた食と農の情報発信施設でもある。平成16年にオープンし、周囲には体験農園や特産の富有柿のオーナー農園も整備されている。
朝、ファーマーズ・マーケット「まんてん市場」を訪ねると、自分たちの作った野菜や加工品に名前とバーコード入りのシールを貼って店内に並べるのに忙しい女性たちに会った。
田中花子さんはご主人と一緒に出荷に来ていた。数年前に体調を崩したが、今は直売所での販売が「生きがい。元気をもらってます」と笑顔いっぱい。周年供給できるように栽培する野菜や果物の種類も増やしたし減農薬栽培にも取り組むようになったという。
「なんたってこれが楽しいのよ」と花子さんが差し出しのは首から提げた携帯電話。画面には売り上げ額が。ここでは出荷者にメールで売れた数と金額を定期的に知らせてくれるのだ。
長年栽培している原木シイタケを棚に並べていた山下順子さんは、シイタケの加工品づくりに始まって、昨年の4月にはこの地域にあるスーパー内に仲間3人で手づくり弁当の販売コーナーを運営するなど活動を広げている。メニューは五穀米をつかったごはんと、だんご汁、そして旬の野菜を使ったおかず。朝収穫した野菜から献立を考える。
ファーマーズ・マーケットのオープンと同時に自宅に加工所をつくったのは足立和子さん。柿の生産農家で出荷できない規格外品をなんとか加工できないかとずっと考えてきた。そこでJAに相談し加工所を持つことに。今、人気の品は「ゆずみそ」だ。耳納の里のオープンを機に始まった食と農のフェスティバルの加工品部門で優秀賞を受賞した。ゆずみそのお薦めの使い方は、和風パスタ、サバの味噌煮などとポップに書かれているが「これ、みんなお客さんに教えてもらったんです」という。お客さんとの会話から暮らしの楽しさ、豊かさも生まれる場にもなっている。
加工で出るゆずの皮を廃油からつくったせっけんに混ぜて、フルーツの香りのする環境にやさしいせっけんも作り評判だ。加工所を持つことが食以外にも活動を広げることになった。
この日、まんてん市場に初めて出荷したという女性もいた。友人に教えられながらホウレンソウを並べていたその女性は、最近ご主人を亡くしたのだという。自分1人ならもう農業は…そう思っていたところ知り合いから勧められて出荷者登録した。「みんな知り合いだから」と仲間の女性。支え合いの場にもなっていた。
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みそ加工グループが作る地元産原料使用の「耳納連山」 |
◆グループ活動は個人の願い実現の拠点
JAの生活指導員で耳納の里加工棟主任の柳さんは、この場所が個々人のさまざまな夢を実現する場所になっていると話す。もちろんJAとしては農産物直売による組合員の所得向上や、地産地消を実践する拠点に、という目的はある。ただ、野菜、果物などの直売にとどまらず、女性たちを中心に開設以来、「こんな加工品を作りたい、環境にいいこんな活動をしたい」という構想が次々に寄せられるようになった。
直売所である以上、品揃えの大切さ、消費者のニーズを知ることなども重要と考え、出荷者には当番制で店頭に立ってもらっているが、女性たちはそれが「勉強になった」と、多彩なひらめきを生み出しているのではないかという。柳さんは「実は自分なりの構想はみなさん持っていたんだなと思います。そこから地域農業と暮らしをどうするか、話し合っていくきっかけにもなった」と話す。
JAにじの地域は米麦、野菜のほか、柿、ぶどう、桃など果樹生産も盛ん。ここで生産されるモノだけでなく人も動き始めるきっかけとなったのが、この拠点だ。平日でも一日1000人が訪れる都市・農村の交流施設を支えているのが、夢のある元気な女性たち。そして、農産物の直売に限らずそんな女性たちが力を発揮しているのが、「星の数ほどグループを」、と始めた女性部のグループ活動づくりだ。 ◆教育文化福祉活動を重視
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(左)田中花子さん・(右)山下順子さん |
足立武敏組合長の持論は「JA運動は組合員の幸せづくり運動」である。そのためには、営農活動はもちろんのこと、地域の明日の暮らしを見据えた教育文化福祉活動も車の両輪として重視しなければならないという。
そう考えると営農と教育文化、福祉を担う中心は今や女性たちである、というのが地域の姿になっている。しかし、JA女性部組織は、部員の減少に悩まされていた。
そこで平成13年から取り組んだのが女性部の組織改革である。課題を探ってみると分かったことは、集落単位で組織がなくなる例が少なくないことだった。理由は世話役などが順番に回ってくるため、しばしば聞かれる話だが「役、が回ってこないうちに」と女性部から抜けてしまうこと。そのうちにその地域の活動主体もなくなってしまうというものだ。
そこで根本を見直し、組織基盤を気のあった仲間や共通の関心を持つ人たちでつくるグループとすることにしたのである。自分のやりたいこと、関心のあることに集まる。そうなればリーダーの引き受け手も自然に生まれる。女性部の役員もそのなかから選んでいけばいい、というのが改革のビジョンだった。
もちろん現在でも15ある支所を拠点とした役員会や世代別に集まる委員会も存在する。それらと並んで、農産加工グループ、定期市・朝市グループ、ふる里伝承グループ、趣味などの集まりであるジョイフルグループなど、グループ活動が組織の柱になっている。
たとえば、田中花子さんはご主人とともにまんてん市場への出荷登録者だが、女性部の朝市グループにも属し、Aコープ内の直売コーナーに出荷する活動にも仲間と取り組んでいる。
また、まんてん市場で花の鉢植えを売っていた女性部副部長の山下好美さんは、昨年、ゴミ問題を考えるエコクラブというグループを立ち上げた。ほかにも農業を消費者にPRするグループ活動の一環として、小学校でこんにゃくづくりの指導もしている。
グループは現在380あまりできた。自分の趣味を楽しむグループは年に1度、女性部主催の発表会で披露する機会があるが、今や50組も舞台に次々に上がるため、1日がかりの大イベントになっているのである。 ◆ネットワークが女性の元気
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柿チップス「柿っ娘」 |
2500名の部員のリーダー、女性部長の松岡ヨシ子さんも自分の地域の女性たち13人のグループで柿の加工品を作っている。JAの旧倉庫を利用して製造設備を入れ、柿チップス「柿っ娘」をみんなで考案した。生の柿を薄切りにして真空パックしたものでJAが販売支援をし最近ではレストランなどからも注目されるようになった。加工品ではほかに地元産大豆を使った味噌づくりのグループもある。このグループもJAの旧米保管倉庫を利用している。
こうした経済活動や次世代への教育活動、あるいは文化・趣味の活動で、いくつもグループ活動が生まれたのは、発表会や交流、あるいは「家の光」などの記事などでみんなが触発されたからだという。
「一歩踏み出すきっかけづくりは確かにむずかしい。でもたとえば文化発表会を見にくれば自分もやろうかなという気になる。『家の光』も勉強になる。グループをつくり世話役などを引き受ければもっと楽しくなる、という人も増えています。そういう人は輝いていますね」。
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収穫時が加工の最盛期。作業は夕方からも続く
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◆存在大きい文化協力員
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女性部副部長の山下好美さん。環境問題を考えるグループ「エコクラブ」も立ち上げた |
また、注目されるのが文化協力員という仕組みをつくっていることだ。女性たちの活動を充実させるには、技術的な指導も必要になり、多くのJAではそれが生活指導員の役割になっている。しかし、同JA女性部には約20人が研修を受けて、グループ活動をサポートする技術などを身に付けている。これが文化協力員で地域内のさまざまな活動を指導、支援しているのだ。つまり、女性部の活動自体をJAの職員ではなく女性部員が育成していくのである。
女性の活動を活発にさせるとともに正組合員加入、女性総代、理事の選出にも力と入れてきた。
女性正組合員は2000名を超え率にして26%になった。女性総代は88名、16%になった。
当然、JA運営への関心も高まり、総代会では女性たちが日頃の実践のなかで考えた意見をきちんと言えるようになった。JAはデイサービスセンターを運営しているが、これも女性たちがホームヘルパーとして貢献できる場を、との声から実現したもので、JAは旧Aコープ支店を利用して施設を整備した。
足立組合長は「女性の参画によってJA運営も変わってきた」と話す。
松岡部長の話で印象に残ったのは「JAが合併したおかげで私たちは仲間が増えた」という言葉だ。今まで交流のなかった地域の人たちからみな大きな刺激を受けているという。あの地域でやっているなら自分たちも、という競争心も生まれるし、あるいはみな同じ悩みを持っていたんだ、という共感も持つことができたという。
たとえば、先に紹介したエコクラブが60人ものメンバーが一気に集まったのは、地域を越えて参加した女性が多いからだ。
誰かが旗振り役になると、気づくと地域全体が動きだしている。グループ活動にはそんな可能性がある。
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JAでは「家の光」読者を対象にしたお月見読書会を開催。年々参加者も増え、組織基盤も広がっている |
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