農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくりと女性達の役割



◆肉や魚料理でも必ずたくさんの野菜を食べる

 野村 韓国では日本の7倍も野菜を食べるといいますが、どんな調理をして食べるのですか。
 
   食文化は食べ物だけで成り立つのではなくて、いろいろなものが食にも影響しています。韓国で野菜を食べているのは、健康志向というだけではなくて、歴史的なものもあります。西暦1200年ころの高麗時代には仏教が国の宗教でした。仏教思想から肉食を抑えるようにということから野菜の消費量が増えたこともあります。そうしたいろいろな要素が重なり合っているわけです。
 いまでも韓国では肉を食べるときにも必ず野菜と一緒に食べます。焼肉をサンチェで巻いてその上に紫蘇の葉に似ているエゴマの葉を乗せその上に刻んだ野菜を乗せて味噌をつけて食べます。煮魚をつくるときにもキャベツや白菜の一番外側の葉など捨てそうなところをきれいに洗ってから下に敷いて煮て、すべて食べます。
 日本でも人気がある韓国料理にビビンバがありますね。これは本来は料理ではなくて、豆もやし、ほうれん草、ゼンマイ、大根など4〜5種類の野菜でナムルを作って食べると自然に残りますね。それを処分するために、次の日のお昼とかにご飯にその残ったナムルを全部乗せてかき混ぜて食べるわけです。つまり、残った野菜を全部食べることからビビンバは生まれたわけです。そうやって野菜を食べているわけです。

 野村 生野菜ではないんですね。

 秋 さっと茹でたり火を通したものですね。
 気候が違うので日本の野菜は水分が多いですね。韓国は乾燥しているので水分が少ないんです。だから、キムチを日本で作ろうと思って何回か挑戦しましたが、白菜の水分が多くて美味しくないんですよ。味噌汁も具と汁が半々という感じですね。

 野村 だから韓国の人はスマートなんですね。

  食べる量は日本人よりも多いんです。例えばインスタントラーメンは韓国のものは日本よりも20グラム多いんです。だけど肉を食べるときには、ものすごい量の野菜を食べます。韓国で焼肉屋へ行くと無料で野菜がいくらでもお代わりができます。日本では高くて外食で野菜を食べられませんね。

 野村 韓国の生産者の方は価格が安くて大変ではないですか。

  消費が増えるじゃないですか。そして出来すぎても捨てなくていいわけです。


◆自分の歯で噛み砕き味わって食べることが大事

 坂田 日本の方が野菜も商品化されてしまっている…。

 高野 規格が統一されきれいに並べられていますね。

 野村 昔のように野菜のエグミとか灰汁がなくなりましたね。

  キュウリを塩もみする必要がなくなりましたね。

 野村 品種が変わってしまったわけですね。

 高岡 柔らかい、甘い、エグくない野菜が都会では売れるんでしょうね。だけど、子どもが小さい頃にいろいろな味を舌で体験し出会っていないと、20歳くらいになって体験しても受け付けなくなってしまうのではないかと思いますね。だから、もっといろいろな味の野菜があってもいいと思いますね。

  美味しさにも慣れがあります。柔らかいものとか求めすぎる消費者にも問題があると思います。農産物を作ることは大変ですが、食べることにも力がいります。肉を自分の歯で噛み砕いて味わって食べることが大事だけれども、口に運び食べる行為を楽にしたいという傾向が日本人にはすごく強いと思いますね。食べることに力がいるんだという教育が欠けているんじゃないでしょうか。

 坂田 健康という意味では心配になりますね。

 野村 スーパーなどで野菜を売るコーナーが小さくなっていますね。独り暮らしの若い人を中心に、素材としての野菜を買ってきて調理することがなくなってきているんでしょうね。だから、少量のカット野菜とかがコンビニで売れたりしているわけですね。私の両親のように高齢者だと、スーパーでは量が多すぎて選べないといいます。コンビニだと店で選んでカットされて売っていますから、コンビニがいいといっています。
 日本は高齢化しますし、料理をつくらない人が増えてくると野菜の消費は減少してしまいますね。

 坂田 家庭消費の野菜は50%を割って、外食とか中食、加工が増えていますね。

 野村 韓国のようにもっと野菜を食べないといけないですね。韓国の場合、女性も働いているわけですよね。それでも料理をするんですか。

 秋 外食するにしても日本よりも野菜は多いですよ。野菜だけの料理もありますが、どんな料理でも必ず野菜が関わっていますからね。

◆隣近所が助け合う冬越キムチづくり

 秋 韓国では12月初めに各家庭で冬越キムチをつくりますが、これは韓国の冬の一大イベントとなっています。会社ではキムチボーナスを出しますし、忙しくて作れない人は親が作るでしょうし、近所の人が協力し合って作ります。

 野村 いま日本では隣近所が協力し合って作ることがなくなりましたね。

  都会にいて作れない人には田舎から送ってきます。私のところにも韓国から送ってきます。東京でも韓国のキムチを買えますが、そういう問題ではなく、これは韓国人のイベントなんです。韓国にはワインセーラーのようなキムチ専用の冷蔵庫が各家庭にあります。食文化が日本と韓国では違うんですよ。

 野村 日本の食文化はどうなっちゃったんでしょうね。

 坂田 韓国はまだ儒教文化が根強く残っているけれども、日本は戦後、アメリカの影響を受けてそういうものが壊されてきたんじゃないですかね。

 野村 同じ野菜の煮物でも買ってきたものはそんなには食べられないんですが、家でつくったものだとかなりの量を食べられます。だから、自分たちで作って食べることが大事だと思いますね。

 高岡 余計な味が入っていないから飽きないで食べられるんじゃないですかね。

 野村 韓国でも女性が働くようになり、料理をする時間がなくなってきますよね。

  そうですが、食べることが命を維持するために大事だという意識がある限りは、がんばれると思いますね。

 野村 いまの日本の若者たちに、そういうことをシッカリ伝えていかなければいけないですね。

座談会

◆一番大事なことを忘れている都会の主婦

 坂田 日本では食べることが命を継続していくという意識がありますかね。

 野村 コンビニ弁当だけで命をつないでいる人が、かなりの人数いるんだと思います。私の息子も大学に入ったころはそれでできると思っていたようですが、最近は家で食べるようになりました。やはり家で食べる食事が美味しいということが分かったんだと思いますね。

 坂田 それは小さいころにキチンとした食生活をしていたからでしょうね。

 野村 そうでしょうね。ただ、それを知らずに大きくなってしまったら、子どもはもう戻ってこないと思いますね。

 坂田 若い奥さんは忙しいんですか。

 高岡 昔は夕方でも子どもを1人で外に出しておけたんです。子どもが自分でコントロールして夕方の時間を過ごしていてくれたんだけど、いまは誘拐とか事故があると心配性になって友だちの家に行くにも1人で行かせないとか、すごく母親が忙しくしていますね。だから料理にかける時間がなくなった…

 野村 食べることが一番大事だという意識が欠けてきてしまっているんですね。

 坂田 簡単に惣菜とか買えますからね。

 野村 そのことで大事なものをポロポロ落としていることに気がついていないんですね。

 高岡 その前に、いまは子どもが誘拐されたり殺されてしまってはと心配が先にたってしまうわけです。「子どもは社会の宝」といわれても信じられないから、小さい子を安心して外に出せないんですよ。
 食べ物も「みのもんた現象」といわれるように、これが良いといわれるとスーパーの売場からすぐになくなってしまう。それはみんな自信がないからだと思いますね。子育ても含めて。

  食べることの重要性について認識が足りなくて、ただ食べていれば生きられるという程度で考えるからではないですか。

 坂田 「国家の品格」という本が売れていますが、この本で美しい田園があれば情緒が養われる。田んぼが荒れて情緒が失われれば、いろいろなものの基礎がなくなり、安いものだけを食べる国になってしまうといっていますが、農業は大切ですよね。

 高岡 もちろんです。

 野村 国産のものを食べ続けることは大事なことです。食べることで田んぼや畑を守れる、美しい田園があれば心を養える。日本がもし自給できなくなった時、果たして輸入に頼れるでしょうか。地球環境の悪化を考えると、その時よその国は自国をまかなうだけで手いっぱいになっているかもしれません。

  韓国では主婦連合のような団体があって、そのパワーがすごく選挙を左右するほどです。韓国では食品表示が日本より進んでいて、インスタントラーメンでも最終チェックをした人の名前が表示されていますし、調味料まで産地表示がされています。そして農産物品質管理士という国家資格があり、品質検定などチェックをしています。そういう意味では、消費者や主婦のパワーが、日本ではまだまだ足りないのではないかと思いますね。

 高岡 日本ではまだそこまでは難しいとは思いますが、生産者が自分の作ったものをどういうものか分かるようにしてもらい、消費者もその価値を理解し気持ちよくお金が払えるようにしたいですね。

◆これからも良い野菜を作って欲しい

 坂田 命の大切さとか、食べるものの価値を伝えていくことは、すぐに成果が見えませんし、社会的な問題も多々あると思いますね。
 最後に生産者である全国の農村女性へのメッセージをお願いいたします。

 野村 土づくりからキチンとやってできた美味しい野菜は、消費者にも分かると思いますので、ぜひがんばって作っていただきたいと思います。

 高岡 命をいただいているので、ありがとうございますとまずいいたいです。もっと食べる力を育てたいし、食べる力のある子どもたちを東京で育てるので、力の基になるような農産物を作り続けてください。

 秋 日本産の野菜を信じて食べていますから、良い野菜をこれからも作ってください。

 坂田 ありがとうございました。

座談会を終えて
 都市の生活様式は多様で、その中から消費者代表を探し出すのは難しい。
 秋さんは、韓国から日本に留学、専門は源氏物語の研究、結婚して東京に住み続け、毎朝5時に起きて出勤する夫の弁当を作る。高岡さんは、世田谷の広い敷地で、近所の主婦を集めて微生物を使って生ごみを土に埋める講習会や趣味で藍を育てて藍染の実習、都会の子供たちと田んぼの生き物調査など地域活動を行っている。野村さんは、子育ての間に、食べ物の安全性に疑問を抱き、品質的に安心できる生協から食材を買うことにした。以来生協組合員歴20年、現在地方に住む両親の介護のため帰省を繰り返している。
 3人とも食は命の源、日本の農村・農業は大切ですと東京からエールを送る。(坂田)

(2007.1.29)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。