農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 家の光文化賞農協懇話会特集



 「家の光文化賞」受賞JAが会員となって構成している「家の光文化賞農協懇話会」は昨年2月の総会で、18年度からの第9次3か年活動計画を策定するとともに、「文化と協同の力で地域に輝くJAをめざす特別決議」を採択した。そこでは協同組合としてのJAが役割を発揮するため、JAの求心力、組合員の結集力の強化が喫緊の課題になっているとして、教育文化活動への取り組みと、会員相互の交流、連携を強めていく方針を打ち出し、同懇話会は活動を強化している。
 また、第24回JA全国大会決議「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」では、JAが組合員と地域社会に向けて教育文化活動を積極的に実践していくことを盛り込んだ。この決議実践に向けて、今や、教育文化活動はJAにとって「必須の事業活動」になっているといえる。 第57回家の光文化賞を受賞した高岡(富山県)の取り組みを取材するとともに、福井県立大学の北川太一助教授にこれからの教育文化活動の位置づけなどを聞いた。


組合員が求める事業活動の実現がJAの進むべき道
富山県・JA高岡
協同大学公開講座
協同大学公開講座

◆JAは組合員が作った「船」

穴田組合長
穴田組合長
 第57回「家の光文化賞」を受賞したJA高岡(高岡市農業協同組合)は平成17年3月に4JAが合併して誕生した。正組合員数6800人、准組合員数8300人で正・准組合員戸数は1万3400戸になる。
 平成13年に就任した穴田甚朗代表理事組合長(写真)は「JAは、たとえれば『組合員が作った船』。船長は私だが、どこに向けて船を進めるかは船を作った組合員の意見を聞いて決めなければならない。つまり、組合員の求めている事業活動を実現することがJAの道、基本だと考えている」と強調する。
 その組合員の声を聞く機会を多様な形でつくっているのがJA高岡の特徴だ。
 たとえば、総代会前の事前説明会、総代会、年に2回開催の集落座談会は「当たり前のこと」として、17年度からは、これとは別に年1回「組合員と語る夕べ」を実施している。24ある支店単位で開く地区別懇談会で、穴田組合長を含め3人の常勤役員が10日間ほどかけて手分けして出席、今後、JAが展開しようとしている事業、組織づくりなどについて説明し意見を聞いている。
 18年度は女性総代の1割実現を呼びかけた。総代数は500名だから50名である。実は3年前にも支店単位で複数の女性総代を、と提起したが17名にとどまった。当時は否定的な意見もあったが、今回は「女性の意見を聞きたい。JAに参画してもらえればより意見を運営に反映できる。複数組合員運動も展開したい」と粘り強く話して回ったところ、批判的な声もなく十分に理解が得られたという。この夏の改選で女性理事2名を増員する方針も説明した。
 また、青年部、女性部とはテーマを決めないフリートーキングの場を設けている。意見交換の場は10年以上も前からあったが、穴田組合長が就任する前には、事前の質問に対して職員が答弁を用意しておくという形式的な場になりつつあったという。それを「常勤役員間で意見調整ができていなくてもかまわないじゃないか。役員が自分の言葉で語ることが大事」(穴田組合長)とフリートーキングに変えた。

◆目線を合わせて声を聞く  

青年部と女性部が開く体験農園
青年部と女性部が開く体験農園
  旧高岡市農協は昭和61年度に第36回家の光文化賞を受賞している。活発な青年部、女性部活動と、先に触れたJAトップ層との意見交換への取り組みや、後述する「協同大学」開催などが評価されてのことだった。
 しかし、その後、経済環境が厳しくなるなか、JAも経営維持が優先課題となり、教育文化活動の取り組みも低下、それが形式的な意見交換の場への変質にもつながった。青年部、女性部からの不満も生じ始めており、「もっと目線を合わせてトップが組合員と自由に語る。そこから組合員の求めるものをすくい上げる」というのが就任時の穴田組合長の思いだった。そのひとつがフリートーキングの実施だったのである。その意味で現在の同JAの取り組みは、教育文化活動の再生の姿ともいえるかもしれない。

◆組合員活動から事業を

 こうした教育文化活動を基盤に、今年4月に新たな事業としてスタートさせるのがデイサービスセンター「JA高岡『もえぎの里』」である。施設の周辺には畑を整備し、利用者には野菜づくりを行ってもらい、昼食の材料として提供する方針だ。
 福祉施設で農業を、という発想には、今は直売事業に結実した「畑でパート50万円運動」も背景にある。
 この運動はキャッチフレーズが示すとおり、自分たちの畑での多彩な野菜づくりと直売で収入をあげようという女性部活動として始まった。活動の発展にともなってJAが直売所を開設し現在は5か所(常設3)が販売拠点になっている。また同時に県内スーパー16店でのインショップ販売も行っている。現在、出荷登録者は660名で年20回ほども営農指導員による栽培講習会も開かれている。
 スタート当初の14年度は販売総額は2000万円だったが、現在は10倍の2億円になった。今やキャッチフレーズも「畑が職場で200万円運動」にグレードアップしている。
 こうした活動のなかから、「野菜づくりでうちのじいちゃん、ばあちゃんが生き生き元気になってきた」という声もしばしば聞かれるようになった。それがデイサービスセンターでも農作業を、というJAらしい福祉活動につながったのである。
 また、高齢者福祉活動自体、女性部のホームヘルパー資格者たちの「萌ぎの会」を中心に取り組んできたという実績もある。
 8支店で「ふれあいホーム」と呼んでいるミニ託老所を月に1回開いている。20人ほどの女性が運営にあたり、自分たちのつくった野菜などで昼食をつくっている。デイサービスセンターの開設はこうした女性部活動が下地になって実現したものである。

◆農協とは何かを発信

フレッシュミセスリーダー研修風景
フレッシュミセスリーダー研修風景
 長年取り組んできた「協同大学」は今年度で24期を迎えた。協同組合理解とJAとの結びつきを強化するために、青年部員、女性部員、フレッシュミセスを対象に年7回程度の講座を開催。このうち1回は公開とし地域住民にも参加を呼びかけている。テーマは食、健康、JA、介護、税務など。毎年50人ほどが参加し修了書も渡す。
 また、新規加入組合員を対象にした「あなたが主役、みんなが主役、新規加入セミナー」も2年前から年に1回開催している。正組合員の世代交代が進み、最近では年に200人ほど代替わりするという。10年もすれば半数の正組合員は、農協を作り支えてきた親の代から、時代も大きく変化した子どもの代へと入れ替わることになる。そんな世代に、農協とは何か、をしっかり理解してもらう活動として重視している。
 「JAを理解してもらうことももちろんだが、なぜ正組合員に加入したのか、加入した以上は何か期待や願いがあるはず、それを私たちが聞きたいのです」。
 農協である以上、農業支援は当然と、生産資材価格などの引き下げは徹底した内部合理化で追求してきた。その一方で不要な購買事業などは見直し「組合員に求めるものを提供する」ことに徹してきた。
 組合員の求めるものを探るには組合員の率直な声を聞くしかないが、それはもちろん対話であり、地域や組合員の「願いを引き出すこと」でもある。
 それを象徴する話として穴田組合長のこんな指摘が印象に残った。
 「葬祭会館を、という声も聞きます。しかし、参列する人たちもすでに超高齢者。遠くの葬祭会館に無理に集まってもらうより、昔のように自宅で葬式を出し地域の人に送り出してもらう仕組みを考えませんか、そのお手伝いをJAが考えます、と言いたいんです」。
 自分たちの地域社会の暮らしをどう描くのか、教育文化活動とはそのことに組合員も役職員も気づくことでもあるのではないか。いいかえればJAの活動とはつねに「教育文化活動的」でなければならないのかもしれない。

(2007.2.8)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。