いま全国には青年部の盟友が約7万1000人おり、大きく転換しようとする農政課題に取り組むと同時に、それぞれの地域づくりや地域農業の課題に取り組んでいる。
そうしたなかで、自らの将来的な経営課題の解決や食農教育などによる地域密着型活動を展開しているJA山形おきたま青年部に取材した。 |
地域に密着した多彩な活動を展開する
◆盟友820名若い新規就農者も加盟
山形県の南端、南の吾妻連峰、西の飯豊・朝日の山並み、東の奥羽山脈に抱かれた盆地形の平野が広がる置賜地方の3市5町(米沢市・南陽市・長井市・高畠町・川西町・白鷹町・飯豊町・小国町)がJA山形おきたまの管内だ。この地方は山形県総面積の27%を占めるが、平野部から中山間部、山間部にいたる耕作面積は約2万ha、農業センサス上の集落は1000を超えるという。さくらんぼや洋梨のラ・フランスなどの果物、米沢牛に代表される畜産、そして花卉類など多彩な農畜産物が生産されているが、なんといっても置賜地方の農業の基盤は、一面に広がる水田をみれば分かるように「米」だ。
JA山形おきたま青年部(以下、青年部)は、この広い地域を米沢・高畠・南陽・川西・長井・西根・白鷹・飯豊・小国の9地区に分け、各地区に地区委員長をはじめとする役員を置いている。そして各地区の下に旧村程度を単位にした支部がある。支部の数は全部で41あり、これに加盟する盟友は820名。第53回JA全国青年大会の資料によれば、山形県全体の盟友数は1959名(18年5月現在)となっているから、その4割強を占めるという全国でも有数な青年部だ。しかもIターンも含めて、若い新規就農者の加盟も多いという。
青年部の役割としてはさまざまなものがあげられるが、「戦後農政の大転換」といわれる「品目横断的経営安定対策」などの諸施策が実施されるなかで、「今後、継続的に農業経営を安定させるには担い手を中心とした集落営農などへの取り組みが急務となっており、青年部の地域における役割は大変大きなものとなっている」と、戸田雄市青年部委員長は18年3月の通常総会で選任されたときに語っている
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若い盟友にも門戸を開いたJA役員との懇談会 |
◆農業経営を発展させるプロジェクト「ユース塾」
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戸田雄市青年部委員長 |
盟友は、農薬散布用無人ヘリコプターや大型農機のオペレーターなど農作業などの受託組織の柱として活躍したり、くず米集荷に取り組んだり、品質を重視した米づくりを推進するための「良質米コンクール」など、地域農業を振興するための活動を各地区で行っている。
そのうえで青年部としては、地域農業の担い手として現状の課題を把握し、その解決に向けた意見交換と学習会を通して、将来の農業経営発展をめざすプロジェクト会議である「おきたまユース塾」を17年度から開催している。
このユース塾での主なテーマを17年度からみてみると、JAの生産資材やグリーンセンターについてJAと意見交換したり、新たな経営安定対策と集落営農について学習し地域の現状や将来のあるべき姿について討論。「カメムシ防除とポジティブリストについて」では、農家アンケート調査からカメムシ被害の軽減や増えた要因を紹介。雑草対策と効果的な防除について指導。さらにポジティブリスト制度の仕組みと農薬の適正使用、飛散防止を呼びかけた。
また、日本食味鑑定士協会のコンテストで優勝したり入賞した人が多いので、そういう人を講師に「美味しい米をどうつくるか」というテーマで開催されたこともある。
◆相互理解を深める「JA常勤役員との懇談会」
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安達一良農業支援課長 |
役員との懇談会は例年実施していたが、昨年からユース塾共催として若い盟友への門戸を開いた。戸田委員長は「将来を担うのは自分たちだから、JAを批判するだけではなく、JA経営を良い方向にもっていくためには、若い人もJAに興味と関心をもってもらう必要がある。そのためにはJAの経営システムを学ばなければならない」からだと、その意義を語ってくれた。
この懇談会では、おきたま米のPRの仕方やグリーンセンターに営農指導員を常駐させ、どんな資材を使ってどんな栽培をするのか即対応できる拠点とできないのか。そうすればグリーンセンターで相談ができ必要な資材が購入できて生産者にとっては効率がよくなるなど、今後のJA事業の発展につながる活発な意見が数多くだされたという。JA常勤役員もそうした意見に回答したり、即対応できない問題については検討を約束するなど、相互の理解を深める場となっていると、安達一良生産販売部農業支援課長は評価する。
「担い手問題」についてJAでは管内を935のエリアに分けて集落営農組織づくりなどの話し合いを進めているが「専業農家である担い手と兼業農家が共生できるような組織づくりをしていきたい」と考えている。しかし戸田委員長は、自身も含めて「(盟友は)農業者として自立していこうという人が多い。個々が経営を安定させ、自分の後継者を育てる農業者になりたいと考えている」。そして、高齢者が多いなかで集落営農組織をつくっても将来的にその組織で農業が続けていけるのか疑問があるともいう。
◆子どもたちと収穫の喜びを分かち合う食農教育
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農業支援課の
佐藤和寛さん |
青年部の活動のもう一つの柱が「食農教育」だ。
これはJAの「食農教育実践活動支援事業」を活用し、米や野菜づくりなどの農業体験を通して、次世代を担う子どもたちに普段何気なく食べている「食」の大切さ、さらには農村文化、農業のすばらしさを土にふれながら伝え、それが子どもから親へと伝わり、地域全体に広げていければという思いで、各地区各支部で工夫し取り組まれている。
そうした取組みの一つである青年部飯豊地区添川支部の「東京米物語」が、今年度のJA青年組織活動実績発表全国大会で最優秀賞(千石興太郎記念賞)に選ばれた。
添川支部では地元の小中学生を対象に食育活動を行っていたが、活動がマンネリ化、組織の求心力にも低下が見られるようになる。それを打ち破るために、東京で稲作をすることが提案され実施することに。県産主力品種の『はえぬき』を都内で栽培し、食と農業に関心を持ってもらおうと学校探しから始めた。まずは新宿区内の2つの小学校で実現し18年度には4校に広がり、脱退した若い盟友が復帰したり、Iターン就農者が加盟するなどし、活動が活性化したことなどが評価されたからだ。
このほかにも、学校田や盟友が提供した水田で、田植えから除草、脱穀までの農業体験指導をし、収穫後は収穫感謝祭を行い、餅つきをしたりして子どもたちと収穫の喜びを共有する活動が多くの地域で取り組まれていると、JAの農業支援課で青年部を担当する佐藤和寛さん。
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第53回JA全国青年大会で千石興太郎記念賞を受賞した添川支部の野立て看板 |
◆いじめ問題を未然に防ぐ「青年部版地域みまもり隊」
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田植えから収穫まで農業を体験 |
戸田委員長の地元である高畠地区糠野目支部では、糠野目小学校の全校生366人と約15アールの畑に種をまき育て、児童たちが泥まみれになって約4000本の大根を収穫したが、稲作だけではなく、大根やジャガイモなど畑作の農業体験指導をする支部もある。
また、地区の「地産地消まつり」で「創作ごはん料理コンテスト」を企画(長井地区)するなど、地区のイベントに積極的に参加し食と農の大切さをアピールするなど、食農教育はさまざまな形をとって強力に進められている。
農作業体験指導を進めるとどうしても「子どもたちに失敗させるわけにはいかない」と力が入り、「資材や機械を入れるので、JAの支援だけではまかないきれず持ち出しになってしまいますよ」と戸田委員長は微苦笑する。「だけど、それで子どもたちが農業のすばらしさを感じてくれれば、将来のためになる」ので、がんばっていくという。
食農教育を続けるなかで、いじめや犯罪の問題も話題になり、こうした問題を未然に防ぐために19年度から「青年部版地域みまもり隊」という地域パトロールを青年部でやることにした。専業農家である彼らは、毎日必ずほ場を見にいったり農作業をしに行くのだから「地域内を一番まわっているのは俺たち」だと、そのときにパトロールもしようという発想から生まれたものだ。
このほか、野立て看板の作製と設置、直売所の開設、消費者との交流など、「地元を大切にし、地元に愛される青年部」をめざした地域密着型の多彩な活動が各地区・各支部で展開されている。
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(左)泥まみれになり4000本の大根を収穫・(右)子どもたちと喜びを分かち合う |
◆変えようという意識をもつことが大事
これからの青年部活動について戸田委員長は「将来に向けてどんな政策を実現して欲しいのか、JAや行政に提案しないと、自分たちが思い描くものが実現しない。そうしたことができる人づくりをしたい」。
そして「就農したばかりの若い人は何も変わらないと思っているが、言わなければ変わらない。変えようという意識をもって提言していけば変わっていくのだから、“変えようという意識”を持つこと」が大事だと強調した。
安達課長は「自分の経営を将来的にいい方向にもっていくために、政策提案集団として期待したい。JAは生産者が希望するように生産された農畜産物を安定的に継続して販売するために、青年部とタイアップして、消費地での交流や販促イベントに取り組むなど、“おきたま”を消費地に発信していきたい」と語った。
そして取材の最後に戸田委員長は「農業は人間の基本だから、みんなで考えてよりよくしていきたい」と語った。
取材を終えた帰り道、2月中旬なのに3月半ばように雪が少ない田んぼの風景を見ながら考えた。
これからおきたまの農業を支えていく青年部のみなさん、自分たちの意見をキチンとJAに言っている。それは単なる批判ではなく、JAの現状を理解したうえでのものであり、JAもそれをシッカリと受け止めできること、できないこと、時間をかければできることをはっきりいい、互いに分かり合う努力が積み重ねられている。そうした協力しあう関係のなかから、これからのこの地方の農業のあり方が見えてくるのではないだろうかと。
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