農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 19年度畜産・酪農対策とJAグループの対応



 3月8日、政府・与党は19年度畜産・酪農政策価格と関連対策を決めた。高騰した配合飼料価格の影響をどう反映させるかが焦点となっていた加工原料乳生産者補給金単価は、直近の飼料価格もふまえて算定し、1kg15銭引き上げ10.55円とした。また、生乳の需要構造改革事業では19年度から3年間でチーズ、生クリームなど向けの生乳を42万トン拡大する支援策を打ち出した。

加工原料乳補給金単価引き上げ10.55円/kgに

◆チーズ向けなどを支援を充実

 加工原料乳生産者補給金単価の引き上げは14年度以来。一方、補給金の対象となる限度数量は、脱脂粉乳やバターの在庫削減の必要があることから、前年度より5万トン削減して198万トンとした。指定食肉の安定価格と指定肉用牛の保証基準価格、合理化目標価格は据え置きとなった。
 加工原料乳の限度数量は削減されたが、一方で生乳需要構造改革事業を3年間に拡大し、チーズ、生クリーム、発酵乳向けの生乳の供給数量を、北海道のチーズ向け供給拡大30万トンを含め42万トンに拡大する支援策として総額237億円の事業を決めた。牛乳の消費が低下する一方で、チーズや生クリームなど需要の伸びが見込める分野へ供給を増やすことが求めれている。その支援策として同事業でチーズ用ではキロ40円という低単価を補う奨励金を措置しているが、その枠を拡大することなった。
 また、都府県の生乳需給改善対策としては、19年度は発酵乳と乳飲料向けに供給を拡大した場合に1kgあたり6円を交付することも決まった。

生乳需要構造改革事業

◆飼料対策で新規融資も

 高騰する飼料対策としては今回は「二段構え」の対策を導入する。
 単収の多い青刈りトウモロコシの作付や、耕作放棄地への牧草作付を促進するなどの“粗飼料自給率向上総合対策”と、食品残さの飼料化やDDGSなど新たな飼料原料、飼料米の利用検討や家畜飼養技術の普及拡大などを盛り込んだ“畜産生産性向上等促進総合対策”を柱とした「国産飼料資源活用促進総合対策」を実施する。
 また、配合飼料価格の上昇に対応して、生産者に飼料購入に必要な資金を融資するJAなどの機関に、利子補給を行う「家畜飼料特別支援資金」も導入する。
 配合飼料の農家実質負担価格が上昇し、畜産経営の努力をふまえても生産費が収益を上回るような水準となった場合が対象となる。
 そのほか肉用牛繁殖基盤強化総合対策の創設やBSE関連対策など主要な関連対策も決まった。
 JAグループは3月1日の全国代表者集会から特別運動を展開、「飼料価格の高騰など生産者は大きな不安を抱いている。安全な国産農畜産物の生産に意欲的に取り組んでいる生産者が報われ、将来展望がもてる万全な対策を」(宮田JA全中会長)と要望してきた。
 8日の決定を受けて川井田幸一JA全中畜産・酪農対策本部畜産委員長は「生産者の不安に対応する決定。将来展望が持てる」と話した。

高騰する飼料原料の背景と今後を探る

 19年度の畜産・酪農対策の議論で焦点となった飼料価格の高騰。背景には米国のエタノール生産拡大によるトウモロコシ価格の上昇がある。今後もエタノール需要の拡大は続くと見られることから、原料供給の見通しや飼料価格の動向が注視される。今後の見通しとJAグループが検討している対応などを取材した。

◆史上2番目の低在庫率

 国内の畜産で使用されている配合飼料原料の約半分はトウモロコシ。その量は年間約1200万トンになる。国内生産は少ないため、そのうち94%を米国産に頼っている。
 その米国のトウモロコシ生産量は約2億6000万トン。これまではその約6割は米国内で飼料として使われ、24%がエタノール用を含めた工業用・種子用に回り、18%が輸出向けとなっていた。
 しかし、米国は原油高騰を背景にエタノール生産に力を入れはじめたことから、トウモロコシのエタノール需要が増大。昨年1月にブッシュ大統領は演説で「石油依存」から脱却し2012年までにエタノールなど自動車燃料用に再生可能燃料を2800万kl供給する目標を掲げた。さらに今年1月の演説では2017年までに1億3000万klと大幅増に言及した。
 こうした流れのなかでエタノール向けの需要量は01年の1800万トンから06年には5000万トンに拡大し、輸出向けと同程度の量になったのではないかと見られている。これにともなって在庫が大きく減少すると見込まれたことから、トウモロコシのシカゴ相場は昨年初めには1ブッシェル(25kg)あたり2.1ドルだったのが、7月には2.4ドル、12月には3.7ドルにまで上昇し年明け以降は4ドルを超える水準が続いている。(下のグラフ)
 米国農務省が2月9日に発表した需給見通しによると、トウモロコシの期末在庫率(8月末)は6.4%と予測している。これは1か月の需要量にも満たない在庫量で、適正とされる在庫率17%(2か月分)を大きく下回ることになる。
 実は米国の06/07年期(06年9月〜07年8月)のトウモロコシ生産は2億2800万トンと史上3番目の豊作だった。しかし、エタノール需要が増大したことから期末在庫率は95年度の5%に次ぐ史上2番目の低さとなる見通しとなった。

とうもろこしのシカゴ相場の推移

◆一定の輸出量は確保の見込み

 史上2番目の低在庫率の見込み、と聞くと輸出向けへの影響が懸念されるが、米農務省の需給見通しでは06/07年期の輸出量は5000万トン以上を見込んでいる。(下の表)JA全農畜産生産部でも今期の作柄が平年作であれば「ひっぱく感はあるものの量の確保は問題はない」とみている。
 また、JA全農は今年の端境期対策(6〜8月)として、40年以上前から業務提携をしているアルゼンチンの農協連合会を活用して原料の安定供給に努める方針だ。
 中期的にみても、米国農務省の2016年に向けた計画ではトウモロコシの生産量は3億5800万トンに拡大し輸出量は5700万トンと見込んでいる。また、米国のリサーチ会社の予測でも今後、輸出用は横ばいで推移し、エタノール需要の増大の反面で、米国内の飼料需要量は次第に落ちていくと見通している。これはエタノール製造の副産物であるDDGS(搾りかす)が飼料として代替されていくからだ。
 一方、配合飼料価格に影響を与えるトウモロコシの価格は当面、どうなるのか。
 農水省は今回、価格上げ要因としてエタノール向け需要の増加(07年度に2700万トン増)在庫率の低下(中国の需要増など)気象要因(夏季の高温干ばつ)を上げた。
 一方、価格下げの要因も示した。作付面積と単収の増加(米国07年度に4200万トン増)原油価格の低下南米の生産量増などである。
 実際、3月のシカゴ定期の動向をみると5月限1ブッシェル(25kg)4.2ドルが7月限同4.28ドルへと上昇するが、新穀が出回る12月限では4.05ドルとなっている。昨年7月には一時、4.5ドルまで高騰したことを考えると、端境期にかけて上昇傾向にはあるものの新穀が出れば相場はやや落ち着くという見通しも出ているようだ。
 ただ、在庫率が史上最低となった95年はトウモロコシ価格は1ブッシェル5ドルまで高騰したものの、翌年の豊作が見込まれたとたん、一気に2ドル台まで下落。その後、昨年までほぼ2ドル台で推移してきた。 今後のトウモロコシ価格動向を見通すことは非常に難しいが、エタノール需要の増大という、トウモロコシの需要構造にこれまでにない変化が起きていることを考えると価格水準の高止まりが懸念される。

米国農務省2016年に向けた農業計画(2007年2月)

◆生産者負担対策も課題

 今年1月〜3月の配合飼料価格はトウモロコシ相場高騰の影響で全国全畜種平均で約5500円(平均10%)値上がりした。これにともなう生産者の負担増は配合飼料価格安定制度からの補てんがあるためトンあたり600円に抑えられている。
 しかし、制度上、補てん額は直前1年間の平均価格との比較で算定されることから、かりに4月以降の配合飼料価格が据え置きになったとしても、ベースとなる平均価格が上がるため、補てん額は次第に減り、その分、生産者負担が増えていくことになる。今年末まで据え置かれた場合、1年後の生産者負担は1トンあたり約7100円になる。
 JAグループはそのコスト負担額を畜産物価格に換算した場合を試算した。それによると鶏卵1kgあたり16円、養豚経営で枝肉同39円、肥育牛経営で枝肉同69円などとなっている。直近1年間の平均相場より8〜9%高い水準だという。どの程度の小売価格の上昇となるかといえば、卵では1個あたり2円程度だ。
 飼料の原料となるトウモロコシ価格は市場原理で決まるものであることから、今回の畜・酪対策の議論では生産者のコスト削減努力などは前提だとしつつも、加工・流通業者、消費者への理解を求めコスト増を小売価格へ反映することも必要だとされた。農水省は生産者、加工・流通業者、消費者の3者協議会などを開催して認識を共有する取り組みを推進することにしている。
 一方で生産者の負担増をふまえて、政府・与党は配合飼料価格安定制度の運用についても今後検討する方針としている。

自給飼料の増大と経営体質の強化が課題

◆自給飼料の増大と経営体質の強化へ

 また、粗飼料自給率の向上も課題となる。8日に畜産物価格を答申した審議会畜産部会も、青刈りトウモロコシなど高栄養作物や耕畜連携によるホールクロップサイレージなどの生産拡大、放牧の推進や食品残さなど未利用・低利用資源の飼料化などを建議として提出した。
 JA全農は、飼料価格は4月以降もさらに値上がりとなる恐れもあるとしている。需要構造の変化は少なくとも数年は続くとみており、日本の畜産の存亡に関わる事態と受け止め、飼料原料の確保と生産性向上への取り組みを進める。
 飼料原料の確保では、米国での集荷力の強化と調達産地の多元化を図るほか、トウモロコシの代替原料・有効原料の活用を図っていく。
 生産性向上対策では、畜種別経営規模別に、飼料要求率の改善、育成率の向上、疾病対策の徹底などメニューを提示して生産者・産地の経営体質強化を図っていくという。

(2007.3.14)


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