農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 全農燃料事業の19年度重点課題


組合員・利用者から信頼される事業基盤を確立
JA全農燃料部長 永井 滋氏に聞く


 原油価格の高騰と高値のなかでの乱高下など石油事業を取り巻く状況は依然として厳しいものがある。また、LPガス事業は「オール電化住宅」など他エネルギーとの競合が日増しに強まり、事業そのものを圧迫してきている。そうしたなかで全農の燃料事業はどういう展開をしていくのか。19年度からの3か年計画と合わせてその重点課題を永井滋燃料部長に聞いた。

マスタープラン・エリア戦略の計画的な実行でJA―SSの収支を改善

永井 滋氏
永井 滋氏

◆引き続き厳しい事業環境

 ――19年度からの「3か年計画」がスタートしましたが、まず石油については原油価格が高騰していますが、これからの見通しについてお聞かせください。

 永井 50ドルの後半から60ドル半ばのゾーンで乱高下していくのではないでしょうか。その理由の一つは、中国やインドの需要増による逼迫、そしてアメリカのWTIの先物取引市場がどう動くかです。もう一つは、地政学的リスクといわれているイラン・イラクの動向によって動いていくと考えています。もう一つは、バイオエタノール関係の動向で需要がどう変化していくのかということがあります。
 全体的な需給としては、いまはバランスがとれているのではないかと思います。
 
 ――小売価格についてはどうですか。

 永井 昨年下期から原油価格が下がったことで、元売よりも市場がそのことを先に読んで小売価格を下げました。そのため系統としても、JAの価格修正を含めて対応してきましたので、18年度としてはJAの収支も少し悪くなってきているのではないかと見ています。
 価格の変動はありますが、全体としてガソリン需要がピークアウトしたのかなと思います。

 ――それはなぜですか?

 永井 自動車の販売動向を見ると、軽自動車が伸びていますね。ガソリン価格が一定程度超えると燃費が高くつく普通自動車が買い控えられるのかなと思いますね。そして、ガソリン価格が高く抑えられコストが上がってくると、収益がますますなくなってくるのではないかと思います。
 
 ――環境としては引き続き厳しいわけですね。

 永井 セルフも増えていますし、厳しい状況がまだまだ続くと思います。

◆着実に増えていくセルフSS

 ――そうしたなかで、JA―SSでは収支改善などに取り組まれてきているわけですね。

 永井 18年度は全農として新生プランを策定しましたし、昨年3月の総代会で新たな事業体制と経営管理を決め、事業部制を取り入れて県本部と本所(全国本部)が一体となって取り組んでいくことにしました。
 そうしたなかで石油事業をみてみると、第23回JA全国大会で決まった経済事業改革の一環として、拠点型事業の収支改善があります。現在、全国に約4000のJA―SSがありますが、その半数が赤字というのが実態です。
 これを解消するために、県域マスタープランを策定したうえで、JAごとのエリア戦略をたて、統廃合をしたり新規出店については投資をしていきましょうとこの3年間進めてきました。そうしたなかでセルフSSも全国で230を超えるところまできました。これからの3年間で500SSにまで拡大したいと考えています。

 ――セルフ化については着実に増えてきていますね。

 永井 赤字SSの要因は、燃料油粗収益が落ち油外収益が伸びず、人件費コストが変わらないと収支が悪くなります。そうすると、組合員から理解されればセルフ化は大きな方向ではないかと思います。そしてサービス面などで最初は不慣れな面もあるとは思いますが、赤字にならないようにセルフ化してSSを残していくことも必要ではないのでしょうか。

 ――セルフ化には投資が必要ですが、JAの経営も厳しいので大変では…

 永井 そうです。そのため補完機能として経営受託とか、投資に対する助成を準備して進めています。
 もう一つの大きな問題は地下タンクの老朽化による漏洩問題があります。このことについてもJAと話合い、全農の経営理念の一つである「地球の環境保全に積極的に取り組む」ことをご理解いただき、最適な場所にローコストで施設を統廃合していくことにこの3か年は全力で取り組んでいきます。

◆JA合併や道路事情の変化でエリア戦略を見直す

 ――エリア戦略を進めて3年後にはどれくらいのSS数を考えているのですか。

 永井 21年目標で2900SSを考えています。ここ数年エリア戦略をたて統廃合などを進めてきましたが、この間にJA合併も進んでいますし、道路事情も変わってきているので、19年度のスタートにあたってその点をもう一度再点検し、重点ポイントを含めてJAと協議できるようにしたいと考えています。
 
 ――JA―SSネットの進捗状況はどうですか。


 永井 現在は200SSで、19年度で累計280SS、21年度までに450SSを目標にしています。これまでは施設助成とセットで進めてきましたので、セルフSSが多くなっています。これからはフルサービスSSを含めてネットワーク育成していきたいと考えています。

 ――それが19年度の重点課題となるわけですね。

 永井 県域マスタープランの計画的実行による収支の確立、それと地下タンク漏洩リスクへの対応。そしてJA―SSネットワークを展開して競争力を強化していくことです。それから、物流コストの削減にも取り組んでいきます。

◆県本部・本所が一体となりJAを支援

 ――事業部制が導入され本所と県本部が一体となった事業運営が求められていますね。

 永井 県本部と本所が一体となって同じ目線で、JAや各SSに対応していこうということで以前から取り組んでいます。まだまだ十分だとはいえませんが、意識改革が進んできていると思っています。例えば、県本部職員として採用された人が、入ったその日から本所石油事業所の職員として働いている人が8名ほどいます。

  ――そうした一体的な取り組みによってどうJAなりJA―SSを支援していくかですね。

 永井 一つはオペレーティング・リースとか物的な支援もありますが、日々の運営指導としてSV(スーパーバイザー)を現場まで入り込ませて、計画の策定段階とその進捗状況を月次を含めて一緒に点検し、なにが課題なのかを同じ土俵に立って考えていけるような体制をつくりたいと考えていますし、着実にその方向に進んでいると思います。

 ――JAへの支援策の一つとして受託がありますが、これはいま何件くらいになっていますか。

 永井 石油事業は基本的にJAの事業ですから、経済事業改革の一環として収支改善取り組んだうえで、どうしても難しいときに全農が受託するというのが基本的な考え方です。現在の状況は160SS強を受託しています。そのうちセルフSSが45で、第1段階は終わったと思っています。
 現在の状況は全農エネルギーが投資をして運営していますから、収支的には必ずしも良いとはいえませんが、人の体制もできましたので今後は効率化とローコスト運営によって早く収支がとれるようにしていきたいと考えています。
 受託については、1SSごとに受けますと管理がしにくいので、JAとも協議をしてできるだけ面で受託したいと考えています。

保安・価格・サービスで他エネルギーに負けないLPガス事業を

◆「保安なくしてガス事業はない」の原点に戻って

 ――LPガス事業の19年度の重点課題はなんでしょうか。
 永井 18年度は県本部と一緒になって保安の問題に取り組んできましたが、19年度以降も、保安、価格、サービスの3つの視点で、他のエネルギーに負けないように取り組みたいと考えています。
 とくにガス事業の原点ともいえる「保安なくしてガス事業なし」という意識でこれからの3年間を取り組んでいきます。18年度にはマニュアルの整備と保安の標準化に取り組んできましたが、これからは県本部子会社、本所子会社を含めて子会社を中心に保安指導・査察を徹底的に行い、信頼される保安体制を築くことに傾注していきたいと考えています。

 ――事業体制の再構築が大きな柱となっていると思いますが、具体的にはどういうことを考えているのでしょうか。

 永井 1県単位ではガス事業は限界があると思っています。最近のLPガス業界をみても「オール電化」との戦いとか天然ガスとの戦いということがいわれています。とくに電力には押されています。このままでは先行きが不安ですから、JAとも一体となって反転していきたいと思います。そのためにガス事業のSV制度(GSV)を導入し県本部段階で育成し、JA段階の販売指導ができる人を育てたいと考えています。

◆県域を超えた広域的な展開も

 永井 それから、ガス事業の場合には、県別格差がかなりあります。それを解消するためにいまから充填所のない県にそれを設置するより、県内の業者とのアライアンスをすることでコストを下げ、JA渡し価格や組合員渡し価格を下げていくという、コスト削減と効率化をはかることが一つの柱になっています。
 そしてそれを進め、県のレベルが上がってきた段階で、県と県の垣根を超えた広域会社化によってスケールを大きくして、次のステージのメリット還元をしていこうというのが事業体制の再構築ということです。

 ――物流については、県域を超えてやった方が効率的な場合がありますよね。

 永井 当面は上流のアライアンスと下流で商系会社と共同して配送することなどを考えています。昔は自分のところだけで充填所を使っていましたが、いまは互いの充填所を相互利用することが当たり前の時代になっていますから、そうした方法も利用して効率化合理化をはかっていきたいと考えています。

 ――物流ではバルク供給の拡大も掲げていますね。

 永井 物流コストの削減のために毎年度500基づつ拡大していって、21年度末には8500基を目標に取り組んでいきます。

 ――LPガス事業では、保安を中心にしていまお話にあったような施策を展開していくということですね。

◆組合員・利用者から信頼される「くみあいプロパン」に

 永井 とくに本所の場合は輸入と卸業務が中心でしたが、もう一度「保安なくしてガス事業はない」という原点に戻って燃料部内に保安対策室を設置(17年12月)し子会社を含めて査察などを徹底してきましたから、みんなも自信をもってきましたし着実にレベルは上がってきています。そういう評価もいただいていますから、保安体制をさらにしっかり構築して、それを推進とかに活かせれば、組合員・利用者から「くみあいプロパンは安心だ」と信頼されるようになると思っています。

 ――「あんしんキャッチ24」の普及状況はどうですか。

 永井 供給戸数300万戸のうち140万戸に普及しています。これについては通信回線がアナログからデジタルになりさらに光ファイバーへと変わってきています。そのたびに機器を変えていったのでは費用がかかるとか問題がでるので、無線型の機器の開発を進めています。

 ――ありがとうございました。

(2007.4.20)


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