(社)家の光協会と家の光文化賞農協懇話会は「JAの強みを発揮するために〜地域に輝くJAづくりをめざす教育文化活動の役割〜」をテーマに8月6、7日東京都内で「家の光文化賞JAトップフォーラム2007」を開いた。全国のJA代表者ら280人が参加し、過去最多の規模となった。協会の江原正視会長はあいさつで「高齢化による組合員の世代交代が進む中で組合員の結集力を高める活動が急務」と訴え、懇話会の木村春雄会長は「全国のJA教育文化活動の活性化に貢献したい」と述べた。 |
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村田武氏 |
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増田佳昭氏 |
フォーラムの1日目は家の光文化賞受賞JAの実践報告などがあり、2日目は報告者たちのパネルディスカッションなどがあった。
1日目は愛媛大学農学部の村田武教授が問題提起をし、JAの教育文化活動を経済事業を支える視点や、地域循環型社会を構築する視点などを取り込んでいくものと指摘。
具体例では直売所の立地選択を挙げ、高速道路利用のリピーター顧客をねらうよりも、中心商店街の衰退を特徴とする地方都市の活性化と、高齢者が安心して中心部に集住できるまちづくりに貢献する選択が求められるなどとした。
次いで滋賀県立大学環境科学部の増田佳昭教授が「JA批判への対応と教育文化活動の役割」と題して特別報告し、JAに対する政府の規制改革会議の論調は、規制を強化するものであると指摘した。
またJAの縮小スパイラルにどう立ち向かうか、という課題を提起した。
JAは▽准組合員は増えるが正組合員は増えない▽貯金は伸びているが、貯貸率は上がらない▽共済も伸びない▽事業総利益が減っているといった状態だ。
どこかで、このスパイラルを断ち切らないといけないが、合併後約10年というJAが多く安定状況に入っており、もう一度、経営を見直す必要があるとした。
JAが株式会社と競争するためのキーポイントは(1)協同組織性(2)地域性(3)総合性の3点だが、総合性については支店が減少して金融に特化するなど事業の縦割りが進んでいることなどを指摘、組合員がJAを利用する意味を理解し身につけること、それが教育文化活動だなどと強調した。
続いて、こうした課題にいち早く取り組んで成果を挙げている先進のJA横浜、JA高岡、JAいずもの組合長が多彩な実践報告をした。
このあと家の光協会の柳楽節雄専務が「JAの教育文化活動に果たす家の光事業の役割〜文化と協同の力で元気なJAと地域づくりに貢献します〜」という提案をした。
2日目は村田教授をコーディネーターに増田教授、前日に実践報告をした組合長3氏、柳楽専務でパネルディスカッションをした。
その中では▽教育文化活動は組合員のしあわせづくり。これを盛んにしなければJAは衰退する▽食と農をベースに地域に貢献しているが、まつりなどの文化行事に加えて福祉や防災、健康、そして年金などにも幅を広げていきたい▽組合員ニーズに応えることが地域貢献になるのではないか。しかしニーズは変化するからJAのほうから働きかけ、掘り起こして応え続けることが大事などの意見が出た。
また直売店をめぐって農産物の市場価格は需要供給で決まらない、量販店の価格支配を打破できないものかとの訴えもあった。
村田教授はまとめ講演で「協同組合は経済的領域だけでなく教育の領域でも活動しなければならない」という農協運動の先人の言葉を引用したあと、市場主義、競争原理の小泉構造改革から今日、かつてない深刻な格差社会、そしてワーキングプアも生まれている。これらを正していかなければならない時代だ。ここにもJA教育文化活動の意義がある、と締めくくった。
このあと日本総合研究所所長の寺島実朗氏の記念講演があった。
【実践報告要約】
「地域社会に貢献する協同活動をめざして」
神奈川・JA横浜 志村善一組合長
大都市ながら横浜は野菜の産地。“畑の隣りに消費者がいる”ため流通市場に恵まれている。市場出荷するほどの量を作っていない組合員のためには「一括販売」制度も実施している。
これは“誰でも、何でも、いつでも”出荷できるという制度だ。ごく少量でもJAに持ち寄って市内の量販店に直接販売をするJA独自の流通だ。市内に約50店舗ある協力店は地場野菜のコーナーを設けている。
果物も含め地場産品には「ハマッ子」というマークをつけてブランド化している。農家の直売所(約1000ヵ所)も自家の作物以外の「ハマッ子」が品ぞろえができるように直売所のネットワーク化を進めていく考えだ。
こうした販売対策の充実を図って組合員のJAへの結集力を強めていきたい。
またJAは農業に携わる者を担い手と規定し、女性やUターン者向けなどの営農講習会を開いている。
「組合員の声が届くJAをめざして」
富山・JA高岡 穴田甚朗組合長
組合員がJAを利用しないのはJAに原因がある。そこで組合員はJAに何を求めているのか、など生の声を聞くため多様な機会を設定している。
まず総代会前には事前説明会を開催。その後11月には「組合員と語る夕べ」を支店単位で開く。上半期の事業実績や年度末に向けた取り組みを説明した後、懇談に入るといった内容だ。
集落座談会も2月と8月の年2回行う。280会場で営農指導方針などについて意見交換をする。
一方、平成17年度からは組織強化を図って年1回の「正組合員セミナー」を開設したが、今年度からは年2回に増やした。テーマは「協同組合とは?」など。最近は世代交代で年に200人ほどの正組合員後継者が出るが、今年度前期の受講者は62人だった。
中核となる人材育成を図る「JA協同大学」という講座も古くからある。
「『組合員が主人公』となる協同組合らしい事業展開と組織運営」
島根・JAいずも 萬代宣雄組合長
国の品目横断的政策から外れる農業者を支援して新たな担い手を創出しなければと16年4月に「出雲市農業支援センター」を設立。JAと行政の職員がワンフロアに結集して地域農業振興へ連携を強化した。
そして「21世紀出雲農業フロンティア・ファイティング・ファンド事業」(3F事業)という活動を始めた。最先端でたたかう出雲の農業を目指しての担い手づくりだ。
市とJAが半分ずつ拠出し初年度は1億3000万円、次年度は1億2000万円を積み立てた。これを基金に補助金を交付する。例えば作物転換をするとか新規就農者などが対象だ。
また「出雲市アグリビジネススクール」というのも開設した。これは「農家チャレンジ塾」ともいい、新規参入希望者らが年間15回の講習を受ける。JAとしては退職して専業農家を目指す職員に最大50万円を助成する就農支援制度もつくった。
【記念講演要約】
「世界潮流と日本農業再生への道」
(財)日本総合研究所 寺島実郎会長
日本農業再生の視点を挙げると1つは「2地域居住」だ。高齢の大都市住民は田舎に住みたい願望を持つ。しかし別荘を持つ余裕はない。就農も難しい。
しかし農業生産法人が増えれば経理とか販売などの働き口が田舎にできて、2つの地域に軸足を置ける。また滞在型市民農園の増加も都市住民の移動を促す。
移動人口を増やすことで地域を活性化するという方法論には期待してもよい。
2つ目はバイオマスエタノールだ。米国では食物から抽出するのでなく、人間が食べられない遺伝子組み換え作物から抽出するという考え方だ。バイオマスエネルギー活用の展開は新しい農業の地平を開くのではないか。
3つ目は日本の食料輸出と農業技術の海外展開だ。世界の人口は今後50年間に31億人も増えていく。その食料をまかなう日本の優れた農業技術に対する期待は大きいと思う。 |