農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 生産者と消費者の懸け橋になるために ―JA全農「3か年計画」のめざすもの―



 JA全農は「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になる」ことをメインテーマとした経営理念を掲げ、担い手支援などを柱とする「新生プラン」を策定し、18年からそれを前倒しで実行し着実にその成果をあげてきている。さらに19年度からは新たな「3か年計画」を策定しその実行に着手した。
 それらの実践を通じて、元気な産地づくりや安全・安心で新鮮な農畜産物の提供、JA経済事業改革の支援など、日本農業の活性化に貢献することが各方面から期待されている。
 そこで本紙では、「生産者と消費者の懸け橋になるために」をメインテーマに本特集を企画した。宮下弘理事長には、全農改革そして「3か年計画」に対する熱い“思い”を率直に語っていただいた。そして神出元一常務には、体制整備が進んだ担い手支援対策の現状とこれからの課題について語っていただくと同時に、その先進事例として岡山県に取材した。また、生産者から期待されている全農販売事業について大消費地販売推進部に取材した。さらに「全農に期待すること」を生産者やJAトップに聞いた。

◆何が大事かを現場にキチンと浸透させること

JA全農理事長 宮下 弘氏
JA全農理事長 宮下 弘氏

 ――理事長に就任され1か月近くが経ちましたが、いまどのような感想をおもちですか。

 宮下 いままでの全農には至らざる面もありましたし、そのことについては私も役員の一人として大きな責任を負っていると思っています。その反省にたって、理事長として、改革すべきことを全農グループの役職員に対する「理事長メッセージ」として伝えてきました。それをやりきるのは大変にシンドイ仕事ですが、2万人を超える全農グループの総括責任者として、自信をもって進めていかなくてはならないと思っています。

 ――先日記者会見で「内向きの組織となることを避け、自らが出向いて顔を合わせて協議をし、理解を得ることがすべての基本」であり、「たたかえる全農」にしていきたいという主旨のお話がありましたが、もう少し具体的にお話いただけますか。

 宮下 私自身が全農に入会して以来、一時期を除けば常に支所など現場で仕事をしてきましたので、現場の視点にたってものを考えるということを常々心がけてきました。
 全農は、それから、この5年くらいはいくつかの不祥事が重なったこともあって、内部の管理体制に重きをおかざるを得ませんでした。そのこと自体は必要不可欠なことですが、東京の机の上でものを考え過ぎて、現場のことがやや置き去りになっていたのではないかという反省があります。
 担当の部門は、一所懸命に文章を作り、ルールもつくるのですが、現場では消化しきれていないのではないか、という不安があります。私がJAの組合長と話をすると「やっぱり伝わっていない、浸透していない」という思いを強く感じていました。
 ですから、やるべきことはいろいろあるけれども「これが大事だ」ということに絞って、それをいかに全農グループやJAの現場段階にまで浸透させるかが大事なんです。

◆改革の第一歩は簡素化と効率化から

 ――それは全農内部でも同じことがいえますか。

 宮下 例えば全農には「経営理念」があります。そしてその下に「行動指針」があり、その解説書があります。さらに「環境方針」があります。私は、個々人のレベルですべてを消化しきれているのだろうか、という疑問があります。「経営理念」は、これは私たちが向こう10年はやるべきことです。その下の「行動指針」は、10項目くらいにまとめて、後は常識の範囲内で判断するというように簡素化しないと「そういうものがあったな」という程度のことになってしまうと思います。
 従来の経過や他の規定との整合性もありますから、課題はありますが、検討していきたいと考えています。

 ――仕事の「簡素化」とか「効率化」ということをキーワードとしてあげておられますね。

 宮下 書類や会議の時間など「何でも半分にしてください」と役職員にいっています。例えば、書類では、やること、やれること、やれないことを明確にすることですし、会議も集中して必要なことだけを議論することで時間を短縮することです。もう一つは、いま作成している書類、あるいは会議が何のためか、誰のためかを考え、不必要なものを省くことで合理化ができるはずです。そこが改革の一歩なのです。

 ――それでできた時間を使って現場へ、ですか。

 宮下 そういうことです。
 私自身もしっかりと時間を確保して、外に出ることにしています。
 改革をするといっているわけですから、職員の人たちからみて、具体的にこれが変わったということを一つずつ積み重ねていくことが、みんなの気持ちを一つにしていくために重要ではないかと考えています。

◆コアの事業に集中するべき時期に

 ――「新生プラン」を策定してそれを18年度に前倒しで実行し、19年度から新たな3か年計画に取組まれているわけですが、いま一番重要な課題は何だとお考えですか。

 宮下 事業の面でいえば、原料価格の高騰などがあり、収支面では厳しい影響が出ていますが、肥料、農薬や主要な生産資材、飼料では事業分量やシェアはけっして落ちていません。それは全農らしい仕事をしていて、良い品物があるからです。ただ、米については、制度や仕組が変わる時期で集荷率が落ちていますので、さらに改革をすすめ、新しい方向を定着させていかなければならないと思いますね。
 燃料事業も世の中の動きについていけなくなっている部分があって、曲がり角にきているのではないかと思います。生活事業、特に組織購買については、歴史的使命に照らしてどうか、という根源的な見直しをする必要があると思います。
 事業ごとに選択と集中をして、コアの事業に集中するべき時期にきていると思います。本当はもう少し早い時期にすべきだったのでしょうが、事業本来のあるべき姿を見つめ直し、シッカリ身の丈にあったものにする必要があると思います。
 「新生プラン」でお約束をしたことは必ず実行しますが、それができたからといって全農改革ができたかといえば、私はそうではないと考えています。もちろん「新生プラン」の成果は目に見えるようにしなければいけません。そうでなければ職員も納得できないですからね。

 ――それでは、改革のポイントは何ですか。

 宮下 すべての事業において方向が定まっているわけではありません。
 米穀事業は既に改革の方向を出していますから、これはこれでやっていきます。
 畜産事業の場合は、飼料原料が高騰して、まさに畜産農家が死ぬか生きるかの瀬戸際にきていますから、生産性向上対策が必要ですし、原料の安定供給対策をしなければなりません。また、国と一緒になって国内原料の比率を上げることも必要だといえます。そういう方向を出しています。
 肥料や農薬、生産資材、生活関連事業については、どこに絞って集中していくかを早急に決め、それにふさわしい体制を整えていくことです。
 つまり、それぞれの事業が選択と集中をして、方向を明確にして事業基盤を築いていく。そうすることで、事業収益をあげ、出資配当も従来通りにできるような経営構造にしていくことが、私の役目だと考えています。

◆現場に出向き自分たちの“思い”を伝えること

 ――コアの事業に集中することでそこを伸ばしていくわけですね。

 宮下 コアの事業で、1%でもシェアを上げる努力をしていくことです。自由な競争のなかで売り買いしているわけですから、シェア100%なんてありえないことですし、われわれだって高いものはあります。なぜ高いのかという理由をJAに納得できるように説明する必要があります。

 ――JAにキチンと説明をしに行く…

 宮下 単に説明しに行くのではなくて、“私たちの思い”を伝えに行くことです。かつてはそれが実行されていたと思います。ところが最近の地区別総代会議や総代JA巡回をみていると、私たちの思いまで含めて説明していないのではないかと思われる意見が、総代JAから出されることが多くなってきていると思います。
 「高い」といわれたときに、現場に飛んでいって、“思い”も含めて説明しきって「それなら仕方がないですね」と互いに納得するような作業が、本所も県本部もできていないからだと思いますね。

 ――「全農も選択肢の一つだ」というJAのトップもおられますが……。

 宮下 JAは担い手や大型農家から厳しいご意見をいただいて、ホームセンターに負けないような価格を出せるようにするために、仕方なしに入札などを行っているわけですから、そのことを一方的に責めるようなことは言えないと思います。

 ――全農としてはそれにどう対応していくのですか。

 宮下 全農として精一杯努力をし、その代り買取などのリスクをお願いするなど、そのJAにふさわしいやり方を提案していけば、すべてとはいいませんが納得していただけるということもあると思います。

 ――そういう意味でも、もっと出向いて顔を合わせて理解をしてもらうことが大事だということですね。

 宮下 「東京の全農が来るようになったな。動くようになったな」という現場からの評価が出るまで、私自ら出て行くと役員にもいっています。

◆いま販売事業には追い風が吹いている

 ――農家の所得確保という面で生産者が全農に期待することは、生産資材の価格もありますが、やはり自分たちがつくった農畜産物を適正な価格で安定的に販売して欲しいということではないでしょうか。

 宮下 全農グループの直販事業で考えると、東西のパールライスで1000億円強、全農青果センターで1400億円、畜産関係が全農ミートフーズ、全農チキンフーズ、全農たまごで約3000億円あり、生協や量販店を中心に販売をしています。この力をどんどんつけることが大事だと私は考えています。
 いまの状況は、JAグループにとって追い風だと思います。全国的にボランタリーチェーンを展開している取引先のトップからは「全農は少しとろいけれど、嘘をいわないからいい」と評価していただいているように、全農グループを評価し取引きをいただいている生協や量販店があります。そのことをシッカリと捉えて、事業を進めていくことです。必要な場合には私自身が出向いていきます。

 ――販売面では、米や和牛の輸出にも取り組まれていますが、今後についてはどうお考えですか。

 宮下 先日、中国に米を輸出しましたが、小売価格がかなり高いにもかかわらず完売しました。「日本のモノは良い」という評価をし、求める購買層があるわけですから、中国を含めて相手国の事情をよく確認して、受け入れ先を探して、シッカリ売る体制を整えればもう少し増えると思います。

◆全農を引っ張り出して活用して欲しい

 ――最後にJAや生産者そして生協や量販店など取引先の方々へのメッセージをお願いします。

 宮下 私たちは、取引先にどんどん提案していきますし、JAや生産者へ出向いていかなければいけないと考えています。そして、それを実行します。
 と同時に、取引先のみなさんやJAや生産者の方々も、大いに全農を引っ張り出して、いっぱい指示をしていただければと思います。全農には、いままで蓄積してきた知識や価値がそれなりにあると思いますから、それを引っ張り出して活用していただければと思います。自分の部署で分からなければ他の部署につないで対応することもできますから、大いに使いまくっていただきたいと思います。

 ――今日はありがとうございました。

(2007.8.29)


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