JA全農は「新生プラン」のなかで使命の第一に「担い手への対応強化」を掲げている。それにもとづき県域ごとに担い手への個別事業対応体制などのマスタープランを作成、一定の基準を満たす担い手をリストアップし、JAと一体となって担い手に「出向く」体制で、きめ細かい支援策を実施することにした。
この個別事業対応の決め手となるのが担い手を登録するだけでなく、JA・全農に対する要望など生の声を渉外報告として記録し具体的な支援に結びつけることができる「担い手対応支援システム」だ。JA全農岡山県本部では、このシステムの導入と活用こそ担い手対応の「第一歩」と位置づけJAのシステム導入支援に力を入れている。
「担い手の声を『記憶』ではなく『記録』に残さなければ前に進まない」(岡政男同県本部営農・担い手対策部部長)という同県本部と2JAの現場を訪ねた。 |
情報を共有し的確な対応につなげる
JA倉敷かさや
◆情報の「提供」と「収集」
JA倉敷かさや(三宅通代表理事組合長)は、今年4月に担い手対応専任の「担い手相談員」を設置した。
全部で3名。営農部長直轄の部署で担い手への巡回訪問によるJAに対する要望など情報収集をすることが業務だ。
同JAがリストアップした担い手は約600人。担い手相談員はあくまで恒常的な訪問活動が目的で生産資材供給など業務目標はない。
担い手への訪問活動をスタートさせて気づいたのは、農家に関心があるのは、なにより管内の作柄や天候などの概況だということ。担い手の声を聞くには、まずは情報提供が必要ということだった。
そこで、訪問の際の提供情報や提案事項などを月ごとに決めることにした。たとえば、雑草・害虫発生情報や県全体で取り組みを進めている水稲種子の温湯消毒のメリット、肥料の値上がりについての説明などだ。逆にこうしたテーマを設けることで会話の糸口にもなる。
巡回活動を始めて4カ月。担い手からはどんな要望が上がってきているのだろうか。一部を紹介すると「JAの肥料は高いが効果がある。しかし低米価のなかではどうしても安いものを求める」、「もっと品揃えを豊富にしてほしい」、「青色申告をJAの指導でできないか」などである。
こうした担い手の声を同JAでは「担い手対応支援システム」に確実に書き込むことにしている。
入力された情報は「日報」であり「渉外報告」として記録される。さらに同JAの山部慎一営農部長はパソコンで毎日チェック、要望やクレームなどに対する対応を相談員に向け即座にメールで返信するため、次にとるべき行動の指示にも活用されている。
担い手相談員のミーティングは週1回行っているが、この担い手対応支援システムの活用で会議の質も変わった。
「普通なら一週間の渉外報告を相談員が私に提出する場になるのでしょうが、その作業は一日単位で終わっているわけです。むしろ担い手からさらに聞き出すべき内容の確認や、寄せられた要望に対してJAはどう処理、検討したかを私から報告する場になっています」と山部部長。
◆スピーディな対応も可能に
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山部部長(前列右)と
「営農担い手相談員」の
みなさん |
また、このシステムには相談員全員がアクセスできる。だから日報に記されたある相談員の対応を他の相談員が活用することもできる。
たとえば、ある肥料について散布しにくいという苦情が出たため、その相談員は粉剤から粒剤へ剤型の変更をアドバイスしたところ非常に喜ばれたという。
こうした事例はこれまでならミーティングの席で情報交換するところだろうが、山部部長が直ちにメールで相談員に情報を配信、ミーティングを待つまでもなく同じ苦情を受けていた別の相談員が迅速に対応して評価されたという。システムには携帯電話でもアクセスできるから訪問後すぐに担い手の声を記録することも可能だ。
同JAでは現在、これまでの巡回訪問の結果を踏まえて担い手の本登録作業に入りJA独自の農家台帳として整備し的確な担い手支援を充実させていく方針。
山部部長は「担い手対応支援システムが事業の鍵を握っている。導入した以上、その徹底した活用が大事だと思う」と話す。
担い手優遇措置を明確に打ち出す
JA勝英
◆営農・信用でメリット措置
JA勝英(村上吏代表理事組合長)は担い手に対する優遇措置を7月末に打ち出した。同JAでは約150人を担い手としてリストアップ。地域農業の実態に合わせて面積要件では2.6ha以上としている。
今回の優遇措置は「2.6ha以上」と「4ha以上」の2階層に分けて打ち出し、具体的な中身に違いはあるもののいずれも営農、信用、経済までにわたるトータルな支援措置だ。
4ha以上層についてはJA利用を促進するのが狙いで、米または黒大豆を一定量以上JAに出荷する場合、CE・RCの平日搬入料金の値引きと米60kg100円の出荷奨励金の加算を行う。また、委託販売だけでなくJAの資金で買取販売も実施することを決めた。
また、肥料・農薬・生産資材について、年間利用決済金額に応じて奨励金を支払い、実質的な値引きを行う。
信用関係では農業関連資金、トータルプランを活用して限度額3000万円の資金貸し付けを行う。このうち500万円までは無担保とするほか、利子助成を行って借り手の金利負担を実質ゼロにする措置をとる。
◆県本部と連携で担い手支援
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定森課長 |
リストアップされた担い手を対象に先頃説明会を開いたところ、約100人がこの優遇措置を申請する意向を示したという。反響の大きさが分かる。
「担い手支援は、やはり分かりやすい具体策が必要だと実感した。今後は担い手からの相談にも県本部の支援策に加えてJAの対策も組み合わせて示せる。県本部と連携し役割分担をしながら担い手への訪問活動を強化したい」と営農生活部営農担い手対策課の定森久芳担い手対策課長は話す。
担い手対策課は今年4月から本格稼働。8人のスタッフが配置された。同JAでもスタッフに求められる業務は「とにかく担い手を回り、クレームでも何でも聞いてくること」だ。同JAがリストアップした担い手にはJA利用率が低い農家もある。いわゆるJAには少し距離を置いている農家だが、そこへの訪問を重視、それだけに今回打ち出した具体的な優遇策の説明はスタッフにとって重要になりそうだ。
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定森課長と(右)担い手支援の課題などを話す県本部営農担い手対策部の岡部長(中央)と橋本担い手推進室長代理 |
担い手担当者は3つの営農センターに各地区担当として配置されているが毎朝、本店でミーティングを行う。同JAも担い手対応支援システムを導入している。
「農家の生の声を聞くというのはこれまでになかったこと。JAにとって宝だと思う。その担い手の声をきちんと記録するなど、今後、支援システムの活用を充実させていきたい」と定森課長は話す。
JAの担い手対応を強力にバックアップ
JA全農岡山県本部
◆JAとデータを共有
岡山県では県下10JAすべてに担い手対応部署が設置された。ただ、県本部では実質的な力を発揮するためにはここで紹介した2JAのように担い手対応支援システムの導入と活用が不可欠と考え、システム操作の説明や、JAがリストアップした担い手情報の登録作業受託など支援策に力を入れてきた。
また、JA段階で更新された「渉外報告」のデータは県本部も共有できる。そのためシステム導入後もJAに寄せられた担い手の声を県本部段階でチェックし、対応に関するアドバイスや、事例によっては同行訪問をする活動につなげている。
「最終的にはJAや県本部がどう具体的に担い手の要望に個別に応えられるかが問われる」と岡政男営農・担い手対策部長は強調する。
◆目に見える支援を実施
その具体的な例として県本部が先行的に取り組んでいるもののひとつが、米のフレコン出荷の推進である。
大規模な担い手であれば自ら乾燥調製をして出荷する例も多い。しかし、大量の米を30kg袋に詰めるのは大変な労力。労力軽減のためのフレコン出荷は担い手農家だけでなく卸業者からも要望があった。そこで計量器購入の助成とフレコンの無料貸出しを実施、18年度までに131名の担い手がこの事業を利用し、今年度もこれまでに5名が導入したという。JAへの出荷率向上にもつながる取り組みだ。
また、大規模経営が増えるにつれて「畦畔の草刈り作業が軽減できないだろうか」という声に応えてスタートさせたのが畔畦に芝の一種、センチピードグラスを植え付ける事業だ。活着すれば雑草がはえにくいため、除草作業は大きく軽減する。取り組みは今年度で3年目で今年も大規模農家・集落営農組織・基盤整備組合などの要望に応えて実施、県内の畔畦面積のうち約30haがセンチピードグラスに置き換わっている。
もうひとつが温湯消毒した水稲種子の供給だ。18年産からスタートさせ7JAで30の担い手や部会に18トンを供給した。
売れる米づくりが求められるなか、農薬の使用成分の削減による特別栽培米づくりを実現し、実需者との結びつきを強めるという販売力強化のための支援策でもある。また、種子消毒後の廃液処理の解消、労力軽減などのメリットもある。今後も県本部として取り扱い量を増やし県全体で安全・安心な米づくりを進めることをめざしている。
「私たちがめざしているのは、モデル的な事業をつくって担い手に支援策を納得してもらうこと。現場に新たな動きを作り出しJAと一体となって担い手支援を強化していきたい」と岡部長は話している。
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畦畔の草刈り作業を軽減させる『センチピードグラス』 |
担い手の要望に応えて普及をすすめている
フレコン出荷 |
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