国内の飲食費の最終消費額は、農水省によると約80兆円だという。そのなかでJA全農グループ(県本部・関連会社含む)の販売実績は表のように、18年度で4兆4000億円。そのうち卸売販売ではない直接販売(直販)は9700億円で、販売額に占める直販の割合は22%で、JA全農グループの消費者・取引先への直接的な販売はまだ多いとはいえない。この直販事業をいかに拡大するかがこれからの大きな課題となっている。
またJA全農が「新生プラン」で掲げた▽担い手対応の強化、▽生産者の手取りの最大化、▽消費者への安全・新鮮な国産農畜産物の提供を実現するためには、いままでの「農家がつくったものを仕入れて卸売を中心に販売する=プロダクトアウト」から、「消費者ニーズ・取引先ニーズに合致した商品づくりを行い、量販店・生協・中外食・食品メーカー等へ自ら販売する=マーケットイン」に、大きく事業方針を切り替える必要があると販推部では考え、そうした方向で今後の事業を展開していくことにしている。
具体的には、関係事業部門・県本部直販会社と連携して次の4つの取組みを進めている。
◆国産農畜産物の売場を確保 総合販売の推進
総合販売の推進としては、平成16年から独自に開催している「食と農の祭典」や今年8月27〜28日に日本生協連の「たべる・たいせつフェスティバル」とコラボレーションして開催する「つくる・たいせつフェスタ」など、直接消費者に国産農畜産物の良さをアピールする取組みを行うとともに、生協・量販店の店舗の売場で、国産農畜産物の消費拡大を促進する「全農フェア」を開催し一定の成果をあげてきている。
また、生協・量販店とともに取組んでいる「全農フェア」を今後も積極的に実施し、国産の単品フェアから複数品目による「全農総合販売フェア」に発展させていきたいと考えている。さらに未納入品目については、全農安心システムを切り口に新規口座の開設を目指していく。
新規取引や国産農畜産物の売場を確保するために、全農役員・担当部長等によるトップセールスを、生協・量販店・外食・CVS・食品メーカーなどを対象に18年度は57回実施してきたが、19年度は60回程度開催し、農家・組合員の負託に応えられるような商談を積極的に行っていくことにしている。
こうした商談では、担い手や集落営農組織を含めて「地域の特色ある農畜産物」の紹介がされたり、JAと全農が地元での「売場づくりの共同提案」をし、量販店のモデル店舗で検証試験が実施されるケースも生まれてきている。
◆国産飼料米などソーシャルインの取組みも
生協は全農直販事業にとって重要な取引先であり、生協産直事業を支える重要なイベントである産地交流会に、全農自らが積極的に参加したり、産地連絡協議会や青果物などの事業研究会など生協と産地との間の各種協議会にも参画し連携を強めてきている。そうした取組みをベースに、生協との合同提案会も開催している。
生協との取組みとして特筆すべきことは、飼料価格が高騰し生産者を直撃するなかで注目されている国産飼料米への取組みがある。すでに生活クラブ連合会とは、山形県庄内での飼料米の取組みが開始され、飼料問題を検討する飼料対策会議の設置などの取組みが行われている。さらにパルシステム生活協同組合連合会とも岩手県のJA北いわておよび秋田県のJAかづのにおける国産飼料米の取組みが今年から開始された。
こうした取組みは「マーケットイン」からさらに進んだ「社会的課題を自らの事業展開に取入れて、社会的責任、使命を果たし実践する」という「ソーシャルイン」というべきもので、協同組合らしい取組みだといえる。
そのほか、中外食や食品メーカーに国産の優位性をアピールする提案を行い、また加工食品の原産地表示義務化を踏まえ、輸入原料使用商品や売場を国産原料商品に置換える取組みを行い、いくつかの成果をあげてきている。
◆全農安心システムを活用した販・生・購一貫した事業構築
いままでの全農の事業は、販売・生産・購買の各部門別にバラバラに事業を進めてきたきらいがある。しかし、消費者ニーズ・取引先ニーズにもとづいた農畜産物づくりを進めていくためには、販売・生産・購買までの一貫した事業構築が必要となる。もう少し具体的にいえば、販売部門・直販会社がニーズを把握し、生産・購買部署や研究開発部署(営農・技術センターなど)と一体となって、担い手農家を中心に「売れる農畜産物」をつくり、提供していくことがきわめて重要になっている。
そうした販生購一貫事業を進める切り口として、販推部では関係事業部門・県本部・直販会社と連携し全農安心システムを活用した事業構築を推進していくことにしている。
全農安心システムは平成12年にスタートしたが、取引先の評価も高く、取組む産地が年々増加し、今年6月末現在で、197産地、76加工場が認証され(図参照)、93の取引先で安心認証商品が販売されている。
顧客ニーズにあった魅力ある商品づくりで
◆魅力ある認証商品づくりや地産地消の取組み
直近では、さらに「消費者ニーズ・取引先ニーズに合致した魅力ある安心システム認証商品づくり」をめざして、次のような取組みを進めている。
一つは、JA・生産者と連携し、取引先ニーズに合致した商品づくりで、IPM(総合的病害虫・雑草管理)技術を導入した減農薬栽培のJA伊万里・梨を、首都圏量販店で8月1日から試験販売を開始した。また、首都圏量販店向けに、新規品目として「安心システム鶏肉」を開発中だ。あわせて、取引先との個別飼育用件等も整理しており、今秋に販売する予定にしている。
二つ目は、安心システムを活用した新たな事業の展開で、取引先ごとの安心システム取扱品目の拡大とリレー出荷を関係事業部門・直販会社ならびに対象認証産地(JAいずも等)を検討している。さらに、ニンジンなどの付加価値のある特長野菜を安心システム認証産地・JA美馬で試作し、来季での販売開始をめざしている。
地産地消の取組みとしては、茨城県本部が運営する「ポケットファームどきどき」というファーム型直販施設を展開し、県内JAの産直品の直売やレストランにおける地元農畜産物を原料としたメニューの提供などに取組んでいる。このような取組みは、現在、宮城・大阪・岐阜・福岡県本部でも検討中であり、販推部としてはノウハウの提供などの支援を行っている。
また、販推部では「JA全農のお店」という直売店を展開し、国産品のみの商品展開や近隣JAからの地元農産物を中心とした産直商品の販売も行っている。
◆加工品に焦点をあてた高付加価値商品の開発
消費者や取引先のニーズやウォンツに合致した商品開発も販推部の重要な仕事だ。なかでも、各単独部門ではなかなか開発に取組むことが難しい加工品を中心とした、高付加価値商品や部門横断型開発商品の開発がいま一番求められているといえる。
新商品の開発体制については、販推部の事業開発グループが窓口となり、マーケットニーズなどの情報収集や開発対象の決定、開発業務の進行管理を行っている。開発にあたっては、基本的な検査・分析機能が不可欠なことや相手先との技術的対応が必要となることから、営農・技術センターの農産物商品開発室と連携して開発業務に取組んでいる。
さらに、加工品などの高付加価値商品の開発にあたっては、全農のノウハウだけではなく、共同開発パートナーである相手先のノウハウを有効に活用していくことが重要であり、その方が、より迅速・効率的だといえる。そのため開発商品によっては、パートナー企業とのアライアンス体制の構築も視野に入れた対応をしていきたいと考えている。
◆業務用需要への対応 “前処理”が課題に
業務用需要への対応については、長年にわたって提起されてきた課題だが、なかなか大きな進捗が見られなかったのが現実だ。その一番の要因は、コストもあるが、「泥付の野菜を食品加工工場に持ち込まれても困るよ」といわれるように、泥などを洗浄したり、カットし必要に応じて凍結するなど前処理が不可欠であるにもかかわらず、それができる施設がないことだといえる。いくつかの産地ではそうした前処理が可能だが、年間通して安定的に量を確保して提供するためには、ある産地はできるが他の産地に移ったらできないでは取引きが成立しないことになる。
食品加工メーカーでも国産原料に対するニーズはあるが、前処理ができないために外国産原料に頼っているところもある。これを国産に切り替えるために、前処理の問題をどう解決するかが大きな課題だといえる。
◆急成長するJAタウン JA直売所を支援する仕組も
平成13年に開設されたインターネット通販「JAタウン」は。現在、会員数13万人を超え、全国80か所のJAやJAグループから、旬の果物や商品を産地直送で提供している。その販売高は年々上昇し、18年度は前年度対比128%の伸長となった。4月に画面を一新するとともにシステム機能の向上をはかり、19年度は18年度対比145%アップと5億円達成に向けて取組んでいる。
また、販売促進のために、母の日特集や北海道特集などモール(JAタウン商店街)の特集の実施、県行政・県漁連と共催した県産フェアの開催、米・果物・野菜ボックスの頒布会の実施など、商品企画、アイテム数の拡大などを積極的に進めている。消費者向けの販売の他、JA共済連のキャンペーンにもJAタウン商品が採用されている。
さらに事業を拡大するために、BtoB(ネットを活用した企業間取引)についても取組みを開始し、JA直売所間の品揃えを支援する仕組をJAタウンシステムに付加して、現在、推進をはかっている。また民間最大の食品BtoBサイトであるフーズ・インフォマートにも参画し、取引先の拡大にも努めていくことにしている。
このように販推部は直販事業を「マーケットイン」という基本的な考え方にもとづいて、積極的に進めていこうとしている。業務用需要への対応のように前処理機能をどう持つかなど課題もあるが、JAや生産者がこれからの販売事業を考えるときに、積極的に活用できるノウハウが蓄積されていることは間違いない。それをどう引き出し活用するかを検討してみる必要があるのではないだろうか。