農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


特別対談 その2
解決策は地産地消


◆食料自給率向上に向けて「緑提灯」と五つ星

 加藤 わが国の食料自給率は40%を切りました。食料自給率の向上に向けて何をすべきか。興味深い取り組みがあります。地場産品を食材に使う率が高い飲食店に「緑提灯」を贈り、赤提灯ならぬ「緑提灯」を店先にぶら下げるのです。
 提灯には「地場産品応援の店」という文字と星印がついています。国産品使用つまり自給率が50%なら星1つというのが基準で、10%刻みに星が増え、90%以上なら5つ星となります。
 贈呈しているのは「緑提灯応援団」というボランタリーグループです。店のほうでは「日本の農林水産物をこよなく愛でる粋なお客様」にふさわしい店であることをアピールしています。2年前に小樽に一号店が登場して以来、徐々に贈呈先が増えているそうです。
 自給率向上対策には、こうしたわかりやすさが必要です。
 榊原 「緑提灯」は全く面白いアイディアだと思いますし、JAグループの取り組みにしたら良いですね。
 地元でとれた食材でレストランを経営する動きが出てきました。欧州型の宿泊できるレストランもありますしね。新鮮でおいしいものを追求するには、やはり地場産品を生かす地産地消が大事です。
 今はどちらかというと都市に良いレストランが集中してしまっていますから、そうではなくて各地域にそれぞれの地場産品を使ったレストランが展開される必要があります。
 フランスのミシュランですが、あれはタイヤの会社が地方のレストランを評価するために星をつけたわけです。「緑提灯」の場合も農畜産物と水産物をうまく組み合わせながら食を提供するということを基準にして星をつけるということで私は大変良い試みだと思います。
 加藤 地産地消を推進することが、地球温暖化対策とか地域の食文化を見直すきっかけになればよいと思います。榊原さんは農業界と産業界などのトップの方々が入るネットワークを企画されているということですが、お話できる範囲でその企画についておうかがいできればと思います。
 榊原 製造業なんかもそうですが、生産者と消費者をいかにつなぐかが重要なキーワードになっています。消費者の志向や好みは早く変化しますから、それを生産者が敏感にとらえて、作るものを変えたり、あるいはブランド化したりすることが非常に重要です。

◆「食」「農業」をどうつなげるか

 これまでの農業政策はどちらかというと生産者に注力して、消費者とのコミュニケーションが少し軽視されていた感じがあるため消費者と生産者をもっと結びつける必要があります。
 農業も漁業にしても食べ物を作るわけだから「食」を中心に据えた考え方が大事です。終戦直後は食べられればよいということでしたが、今や成熟した社会として安全、新鮮、おいしいものが求められています。生産者も、それを意識しています。
 もう1つは情報社会だから生産者と消費者がコミュニケートしていく手段が多様化しており、インターネットその他いろんなタイプのコミュニケーションが可能になっています。
 そういう中で食を通じて農業、そして地域を活性化することが大事です。消費者にも、いったいどういう人がどういう形でどういう苦労をして食料を作っているんだということをわかってもらわなくてはいけません。
 そこで消費者に農村にきてもらうとか農業体験をしてもらうとか物理的に交流することが大変重要です。
 スーパーで食料を買うだけでは農業の実態は必ずしも見えてきません。かつては町の八百屋や魚屋は生産現場を知っていてお客に情報が入ったのですが、今は状況が違っています。
 こういったような生産者と消費者が相互に見えるようにするというのがネットワークの趣旨です。
 加藤 八百屋がなくなってしまったのは私たち全農グループの責任でもあるのかなという思いがします。子どものころは八百屋のおやじさんが「このダイコンはそんじょそこらのものとは違うよ」などと特徴を説明する風景が見られました。農家がこのようにして作ったんだという、いわば口上≠述べる八百屋が消費者と生産者のつなぎ役になっていました。
 スーパーにはそんなコミュニケーションはありません。インターネットで履歴を見ることはできるのですが、そんなことをやる人はめったにいません。
 榊原 そりゃいませんよ。毎日のように買う商品の履歴を調べる暇はありませんからね。

◆田んぼの生き物調査と生物多様性国家戦略

 加藤 生産現場と消費者をどう結びつけるかということとからんで全農は1999年から「田んぼの生き物調査」という市民参加型の取り組みを続けています。生物多様性を豊かにする農業を支援する取り組みでもあります。
 最初は田んぼのイトミミズを数えて何になるのかなどという批判的な声もありましたが、今年は100近い産地での取り組みになろうとしています。東北の農協青年部はほとんど全県で、この調査に取り組み、消費者との交流を広げています。
 小学生たちははだしであぜ道を歩き、田んぼに入って日本人が忘れていた五感をよみがえらせたり、田んぼの生物の多様性に驚き、環境保全の重要性を実感しています。
 こうして自然循環の中で作られるお米が見直され、生協が環境保全米を提供する動きともつながりました。さらに、トキ、コウノトリの野生復帰を応援する運動にも連動しています。
 この取り組みは国が進める「生物多様性国家戦略」の核になると思います。
 子どもたちの多くは農作物がどのようにしてできるかを知りません。ましてや農業のことはわかりません。それを体験学習させることも協同組合としての大きな使命だと思います。
 榊原 確かに田んぼの生き物調査は非常に重要な教育です。
今の子どもたちはゲームの中のバーチャルな世界で生きていますから、ゲーム機の中で簡単に人を殺してしまいます。陰惨な事件が次々に起こるのも、命がどれだけ大切かわからない部分があるからだと思います。
 田んぼに入って、その中の生き物を1つ1つ見せてやれば命の大切さが実感できると思います。デパートでカブトムシを買うのとはまた違いますからね。
 多くの子どもたちは森や田に入った経験がない。だから泥田に足を踏み込むことによって日本人の感性というか伝統的に持っていた美意識とか自然に対する愛着とかが戻ってくると思います。今はバーチャルの世界が広がりすぎて、ある意味では日本人が日本人でなくなっちゃっているのです。
 本来、日本人は非常に繊細な美意識、あるいは自然や生き物に対する畏敬の念を持っており、それが日本文化の特徴です。そこが失われてきたわけですから、子どもたちと生物、自然、また農業をどうやってつなげるかがとても大事です。それが長い目で見れば農業・農村の活性化につながってくると思います。

◆異業種との連携

 加藤 全農は今まで、自らの経営資源だけで考える「自賄主義」で事業展開してきました。そのことが、目的の早期達成を考えると限界にきているのかなとも思います。そこで全農としては異業種からノウハウを学ぶことも重要だと考えます。特に製造業とアライアンスを組んで新規事業に乗り出す時期だと思います。
 最近、全農は元気がなくなったとよくいわれます。しかし振り返れば1980年代は元気でした。例えば海外プロジェクトを相次いで立ち上げました。
 飼料部では米国のニューオリンズに回転率では世界1になるカントリーエレベーターを建設し操業を始めました。
 私の場合は肥料農薬部時代、非常に先見性のある上司から、これからは資源が重要になるとして「リン鉱石の鉱山を買収しろ」と命じられ、米国のジョイントベンチャーと一緒になって鉱区を買収しました。商社の仲介は求めませんでした。
 今でこそ当たり前の手法であるDCFやプロジェクトファイナンスで交渉に当たりましたが、当時はパソコンなんかありませんでしたので、現在価値(NPV)を計算するのに電卓を使いました。こうして日本企業では初めてリン鉱石の採掘事業をフロリダ州で開始しました。
 もちろん、それまで鉱山事業とは無縁の全農だけで、そんな仕事をやれるはずはなく三菱化学と組んで、技術的には米国の企業とは違ったノウハウを導入しました。
 向こうの鉱山はキャタピラー社のトラクターを使うのが当たり前でしたが、我々はもっと性能の良い日本製のコマツを導入し、また自動車もジープではなく、故障率の低いトヨタのランドクルーザーを使いました。また、日本企業が持つ品質向上運動を導入することでジョイントを組んだ米国企業から高く評価されました。
 この海外展開のノウハウが、後で中東のヨルダン王国に肥料工場を建設し、操業するという開発輸入の事業につながりました。
 現在は、天然資源そのものを買収することが極めて困難な状況になりましたが、国内の農業情勢の厳しさに翻弄され、海外に打って出る気概が乏しくなっているように感じます。

◆全農が攻めの段階に入る基盤ができた

 今後は、異業種のノウハウに学んで新規事業に飛び込んでいくかつてのような勇気が再び必要ではないかと思います。
 榊原 全農が攻めの体制に入っていく基盤はすでにできていると思います。だから当然、製造業と組むということがあっていいし、海外展開もいいんじゃないですか。攻めに入っていく時代にきていると思います。
 それから製造業のノウハウは今の日本農業にも生かせます。例えば在庫管理などです。トヨタのそれは実に見事です。一方、トヨタのほうも全農から学ぶべきところがあると思います。そういう異業種交流は非常に重要です。
 また米の輸出についても、もっと攻めに出てはどうですか。世界的に日本食ブームですから必ず売れるはずです。
 私はニューヨークでもすしを食べますが、一人前2万円も3万円もします。それにネタの魚は良いのですが、しゃりがまずい。外国で食べるすしがどこへいってもまずいのはお米がまずいからです。それで「日本産米を使いなさい」といっています。
 そんなことは、すし職人にはわかっています。それに世界的なすしブームになっているのだから、それが日本米ブーム≠ノなってもよいはずです。その基盤はできていると思います。
 小泉首相がやめる直前に訪米した時、ホワイトハウスの晩餐会のメインディッシュは神戸牛のビーフステーキでした。ところが記者に「どこの神戸ビーフですか」と質問された大統領夫人は「もちろんテキサス産の神戸ビーフです」と答えたのです(笑)。
 これはブランドを盗むようなもんですよ。小泉さんなり農水省はただちに抗議しなければいけなかったんです(笑)。だってフランス政府などはシャンパーニュでつくられたもの以外はシャンパンと呼ばせない、それほど厳しくブランドを守っています。
 まあ、それはそれとして日本の特産物はいろんなものがブランド化され、神戸ビーフなどはその典型です。だから日本農業が攻めに出る国際的基盤はあると思います。

◆全農は変わってきた新しい時代に対応を

 日本の農畜産物は品質の高さ、あるいはトレサビリティがしっかりしていて安全だと世界的に高く評価されています。イタリアやフランスのファッションが世界を制覇していますが、日本の場合、農畜産物で世界的に売り≠広げる基盤ができています。
 全農も製造業なんかとうまく連携して世界的に影響力を強めていけば良いと思います。
 加藤 榊原さんといえばどうしても国際金融、“ミスター円”というイメージが強いのですが、その人に食≠語っていただいたことに非常に新鮮な思いがしています。
 JAグループとは接触がなかった方ですが、大変よく全農のことを見ていただいております。最後に外部から見た全農についてお話下さい。
 榊原 改革を志向する全農の方向がはっきり見えてきています。その方向は正しいと思います。
 異業種交流や国際化などをどんどん進めるべきです。その方向へ向かっているのですから、後退しないで加速することが重要です。
 私も全農との付き合いがだいぶできてきましたが、今は付き合う前の全農のイメージとは全く違います。以前は古いところ≠ニいったイメージでした。今は新しい時代に対応しようという試みがいろんなところでなされています。
 しかし、それをもっとうまくPRする必要があります。全農が何をしているか、私は知らなかったのですが、多くの国民はもっと知らないはずです。また農協が何をしているか知られていません。特に過去のイメージが良くなかっただけに広報活動は非常に重要です。

(2007.10.16)


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