農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える

「JAのビジョン」づくり―全国20JAの挑戦 その4

JA三次・JAえひめ南・JA福岡市・JAくるめ・JAさが


3年間で組合員4000名増 営農振興で求心力高める
JA三次(広島県)

桑原謹二副組合長
桑原謹二副組合長

 営農振興を中心にして、いかに組合員に必要なJA、地域に貢献するJAになるかを追求している。
 担い手の育成・法人化を目指し、2004年に営農振興課を設立。現在18法人の設立を手がけている。またJAは法人への出資も行うほか、大型経営に対するライスセンターの利用料金の割引、米出荷助成、資材の大口利用割引等をしている。また、5つの地域営農集団協議会を組織し、集落営農の立ち上げと法人間の連携も模索している。
 「米以外は知らない地域」だったが、最近ではアスパラに取り組み、現在は関西一の産地になった。また生きがい対策と所得増をめざして広島市へのアンテナショップ出店を契機にその後、スーパー、デパートのインショップも開拓した。現在は12店舗で5・5億円の売り上げがある。関連する部会員は一挙に増えて950名になっている。
 ただ、中山間の高齢化地域であるため91年の合併から04年までに組合員が1800人も減少。危機感を持ったJAは05年度から組合員拡大運動に取り組んだ。後継者や女性の複数組合員化、准組合員の拡大を、職員1人当たり10人を目標に推進。初年度には1752名増え06年度も1139名増と全国からも注目されている。女性部も1600人減ったが、アンテナショップや組合員拡大運動で盛り返した。組合員意識が高く結集力も高い。
(正)1万3374人(准)7132人(販)40億1100万円(購)18億6300万円(貯)899億9900万円(貸)201億400万円(共)6750億8100万円(19年3月末)

営農ヘルパー導入とワンフロア化でみかん産地守る
JAえひめ南(愛媛県)

林 正照組合長
林 正照組合長

 宇和島市を中心に県西南部南予地域の南半分、旧北宇和郡と西宇和郡の1市3町7JAが合併。管内は宇和海沿岸の柑橘主産地のほか宇和海島嶼部、高知県境の中山間地域まで広域だ。誕生から10年を迎えた今、専門農協・JA宇和青果との合併が2年後に控える。主産品である柑橘類の担い手対策をしっかり実践しないとお互いが沈んでしまうという危機感が合併を促進させた。
 一方、管内が広域のため行政・JA一体での地域ごとの農業振興が重要になっており、愛南町、鬼北町、宇和島市に農業支援センターが設置され管内全域でのワンフロア化が実現した。
 沿岸域では荒廃が進みかねないみかん傾斜畑への重点的な対応がJAに求められており営農ヘルパー制度を充実させた。集落単位で園地荒廃度調査を実施し、労働力不足の農家への営農ヘルパーの派遣やスピードスプレイヤーの共同管理、若い経営者への園地斡旋を進めている。また、園地荒廃を防ぐためJA出資の農作業受託会社の設立も検討している。
 農産物販売の革新にも本格的に取り組み、管内10店舗の直売所で多品目の地産地消型販売を実践。JAいわて中央との提携も同JAからみかん、たけのこなどを送りJAいわて中央からはりんごが届く。林正照組合長は「地域に貢献し地域の人たちに頼ってもらえるJA」がJA運営の基本だと語っている。
(正)1万4341人(准)7866人(販)22億7600万円(購)95億6800万円(貯)1597億3500万円(貸)382億2400万円(共)8220億3900万円(19年3月末)

「地消地産」をキーワードに地域の農地を生かす
JA福岡市(福岡県)

木正夫常務
木正夫常務

 人口133万人の政令指定都市福岡市中心部に本店を置く典型的な金融都市型JAだが、西区、早良区などで農業はしっかり維持されておりJAも本店の指導部・経済部と地域拠点の3グリーンセンターが連携して生産・販売対策に取り組む。
 コンセプトは「地消地産」。「地域の消費者が求める安全・安心な農産物、新鮮で品質の良い農産物をJA福岡市で安定的に生産・供給するという農業振興・販売戦略を示すもの」と木正夫常務はいう。
 とくに米づくりでは無農薬・減農薬栽培への取り組みをいち早く進めてきた。栽培された米を「赤とんぼ米」として販売している。赤とんぼ米づくりのために、独自に開発した水稲専用の有機・苦土入り肥料「赤とんぼの里」を普及推進している。
 地元生協と提携し毎年、
栽培基準を確認しあいながら販売予約契約しているほか、不作時の生産者手取り確保のために生協組合員が積立金などを行っている。また、消費者が家族づれで田んぼを訪れたり児童が作った案山子を立てるなどさまざまな交流もある。
 「地消地産」運動の合言葉は「博多じょうもんさんブランド」の確立。「上物」のなまり言葉だがJAでは「生産履歴、防除記録等を徹底した農家が生産した青果物の愛称」とし常設市で販売する計画で21年度までに6カ所まで増やす。
(正)7151人(准)1万6744人(販)33億7900万円(購)31億800万円(貯)2419億6500万円(貸)1575億4600万円(共)8136億9900万円(18年度)

女性農業者など「地域の担い手」も重視し事業展開
JAくるめ(福岡県)

平田幸治組合長
平田幸治組合長

 昭和55年の合併当時、農業生産額は99・7億円でうち米・麦・大豆が49・7億円でほぼ半分を占めていた。農産物価格が低迷しているが近年でも97・6億円と同水準を維持。米・麦・大豆は25億円と全体の約25%まで落ち込んだが、これを施設を中心とする園芸作物でカバーしてきた。園芸作物は41・5億円と合併当時の2倍以上に成長、管内の中心作物となっている。約98億円の農業生産額のうちJAの販売高ほぼ50億円。
 JAでは昨年4月に営農経済事業部のなかに「担い手課」を新設。米のナラシ対策加入にも力を入れ作付面積(1700ha)対比81・2%のカバー率となった。麦・大豆は100%のカバー率。米については突出した成果を上げている。
 6月の総代会では「JAくるめ農業ビジョン」を提示、担い手育成指導員を18年度の11人から22年度までに21人まで育成する。
 一方でJAの理念・存立基盤から「JAとしては女性農業者など地域担い手もまた必要。いかに共存を図るか今後の大きな課題だ」と平田幸治組合長は語る。
 女性部・青年部活動が活発で「地産地消」や「食育」などの地域に密着した活動に積極的な役割を果たしている。特徴的なのは「食材センター」。組合員のニーズに応え理想的な献立に基づいた食事の素材を家庭まで届ける。利用者は1700戸で組合員の評価も高い。
(正)5513人(准)3298人(18年9月)(販)49億6700万円(購)42億8400万円(貯)937億8100万円(貸)425億8600万円(共)5280億7900万円(18年度)

加工事業など付加価値部門を取り込み8JAが合併
JAさが(佐賀県)

野口好啓組合長
野口好啓組合長

 今年4月1日、県内11JAのうち8JAが合併して誕生した。経済連をJAに取り込むという組織2段制を選択したところに大きな特徴がある。組合員とJA、経済連が築き上げてきたソフト、ハード両面の資産が失われることへの危機感が背景にある。野口好啓組合長はその狙いを「経済連の事業は生産者から近いところに置く」と語る。それがJAの基本だという。
 営農・経済事業は営農事業本部(6部16課)と加工事業本部(2部5課)が担う。加工事業本部の農畜産加工部は、加工企画課、品質保証課、農産加工課(ピラフ工場含む)、食鳥事業課(チキンフーズ工場、食品工場含む)の4課で構成。農畜産物価格低迷のなか「加工部門を取り込んだことが経営的に将来大きな強みになる」(野口好啓代組合長)としている。
 品目横断対策の対象農業者の育成ではすでに大きな成果を上げている。18年産作付面積対比でのカバー率は、麦類100・2%、大豆105・4%、水稲61%である。管内には共乾施設が38カ所存在するが運営は利用する生産者(共乾施設利用組合)が行っているため、集落営農の組織化が進んだことも大きい。
 また、JAは地区営農センターに「担い手対策室」を設置し本所と連携して、経理の一元化や法人化のは支援や農家経営コンサルタント事業として個別指導も計画している。
(正)4万9520人(准)3万3406人(19年5月)(合併初年度のため事業実績は未確定)

(2007.10.23)

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