農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007



 本特集号では「JAの現場から『JAのビジョン』づくりに向けた戦略を考える」を企画の柱とした。そのため本紙では農業、農協研究者ら7人に今年6月から7月にかけて全国20JAを訪問してもらい組合長をはじめJAトップ層に現場の課題、今後の運動・事業の展開方向などを伺ってきた。本紙では次号から、20JAのレポートを掲載していくが、その皮切りとして今号では総括的な座談会を企画した。
 「JAのビジョンづくり」は第24回JA全国大会決議に盛り込まれた大きなテーマ。農業と地域社会を取り巻く環境は厳しいが、JAの役割は一層重要になる。本特集が力強いJAのビジョンづくりに役立てば幸いである。

 

座談会


農村不況のなかで奮闘するJA

◆農産物価格下落が地域全体に陰

梶井 功氏
梶井 功氏

 ――第24回JA全国大会では「JAのビジョンづくり」が決議されました。かつてない厳しい情勢のなか、地域の実態や消費動向を分析して地域農業戦略を見直し、農業と地域社会に根ざした協同組合として、地域実態に即した担い手の育成やブランド化などの販売戦略づくりのほか、組合員へのメリット還元、組合員組織の活性化と地域貢献などの取り組みを明確にしていこうということです。
 今回は全国20JAを訪問してJAのビジョンづくりについてお話を伺ってきました。まず最初にJAを訪問した感想からお願いします。

 梶井 訪問したのは4JA(JA相馬村、JA新ふくしま、JA富里市、JA大潟村)ですが、このうち3JAは未合併JAで、そのなかで、JA大潟村はやや特殊なJAだといえると思います。全体の印象としては、今の米問題に象徴されるような農村不況がもろに出ているなと感じました。とくに大潟村は大規模農家を育成するはずだったわけですが、米価下落の影響をいちばん受けていてJA自体も非常に四苦八苦しているという印象でしたね。もちろん一方でずいぶん販売努力をしているJAもありました。
 JA相馬村やJA富里市は未合併JAですが、周辺のJAの販売戦略のお手本となっており感銘を受けました。またJA相馬村では直売所開設によって、お年寄りを心身ともに健康にしているという。弘前大の調査では直売所活動によって医療費が減っていると報告されています。
 訪問したJAのなかで合併JAはJA新ふくしまで、ここは2段階の合併をやっています。最初は94年に福島市内8JAが合併し、今年2月に山間部のJAと合併した。第一段階の合併では赤字スタートでしたが、99年ぐらいまでに信用事業の伸びとリストラでプラスにもってきた。そういうなか今年新たな合併をしたわけで新発足といっていいと思います。印象的だったのは今まで実施したことがないJAの役職員大会を開催したこと。当面する問題などを役職員みんなで大討論をして方向性を確認したという話でしたね。

◆生産者の期待をいかに受け止めるか

藤島廣二氏
藤島廣二氏

 村田 みかんの主産地形成が進んだ地域のJA(JAえひめ南)を訪問しましたが、高度成長期以降の重点品目のひとつである果樹に、米の問題と同様、矛盾が集中的に出ているのではないかと思いました。価格低迷でJAと中核的な農家との緊張感が非常に高まっている。JAが本当に地域農業を支える頼りになるかどうか、組合員から厳しく問われる時代になった。それに応えられるかどうかということをJAのトップに理解されているのか、そこが重要ではないかと感じました。
 北出 訪問した東北地方のJA(JA東西しらかわ、JA新いわて)では農業生産が確かに厳しいけれども、その状況のなかでさまざまな智恵を出しているという印象を受けました。
 ひとつは地域に応じた作物選択をすること。それもブランド化をめざした努力です。もうひとつは肥料などの生産資材も自分たちで開発しそれをできるだけ地域で使いながら産地を作るという努力もみられました。
 また東海地方のJAも訪問しましたが(JAみっかび、JAあいち知多)、JAみっかびで感じたのは、未合併ですがみかんという一作物に特化して組合員の結束も非常に強く、やはりJAが地域の組織として受け入れられているという印象です。
 JAあいち知多は知多半島全域を管内とする大規模なJAでしかも都市地域を抱えています。問題になっているのは組合員のJA離れ。そこでJAでは第3次中期計画で、『原点回帰と新たな挑戦』を打ち出した。原点とは農業を基軸とした協同活動だという。都市化も進む地域でどう協同組合としての特徴を発揮していくか、苦労がそのスローガンに表れていると思います。

◆合併JAの「次の課題」も浮上

田代洋一氏
田代洋一氏

 田代 4つの合併JA(JAはが野、JAえちご上越、JAいずも、JA三次)を訪問しました。どのJAもトップマネジメントがしっかりしておりがんばっているなと感じましたね。印象としてはJA合併や経済事業改革は一段落し、すでに次のステップに移っている、ということです。
 ただし、合併のあり方や組織、事業の組み立て方は極めて多様で、たとえば、支店を統合したJAと統合していないJAがあるし、子会社化などへのアウトソーシングをしたJAもあればしてないJAもある。これが合併JAのパターンだということはいえないのではないか。
 多様性のひとつに全農とのつき合い方もあります。とくに配送部門をどうするのか、価格設定をどうするのかという点でさまざまな対応がみられました。
 今後何が問題になるかということですが、どのJAも米主軸から何とか園芸作にシフトしたいという点でJAが努力しています。実際に米の販売額は半分近くまで大きく落ち込み、それを園芸作でカバーしようとしている。しかし、そうなればまた過剰問題や産地間の過当競争が始まるなど、果たしてこの方向でいいのかということが次の段階の問題ではないかと思います。

◆コメから園芸作物へのシフト

 白石 北海道(JAふらの)と神奈川(JA三浦市、JA横浜)のJAを訪問しましたが、共通する点は農地を中心とした地元の地域資源をきちんと見つめてそれを活用し、最終消費者やユーザーにつないでいくという役割を果たしていることです。消費者のニーズにあった地域資源の活用ということですが、そこをつなぐのはやはりJAしかない。
 一言でいえば高付加価値化だと思いますが、個々ばらばらの資源を一定の地域の特徴としてまとめて提供する。そこを消費者が評価していると思います。そういう消費者の満足度を上げる取り組みがあれば、JAが供給するものを繰り返し利用してくれるようになる。結果としてそれなりの価格にもつながるということだと思いましたね。
 藤島 JAちばみどりを訪問しましたが、東京に近い園芸作物産地であることから、JAのビジョンづくりを考える場合もやはり生鮮の園芸作物中心でいくのだろうと思います。園芸作物生産を拡大するための営農指導などを進めることによって、地域貢献も可能になってくるでしょうし、組合員数の維持ということにもつながるのではないかと感じました。
  九州ブロックを担当しました(JAさが、JAくるめ、JA福岡市)。
 JAさがは、単協段階に経済連の事業を取り入れたというのが大きな特徴です。県内3JAを除いて合併したわけですが、経済事業を取り込んだ理由は、単協と組合員が築き上げてきたハード事業とソフト事業を生産現場に置いておきたい、ということです。これが農協のいちばんの基本のあり方だ、という野口組合長の言葉が印象的でした。
 採算性を継続するために加工事業、レストランを含めて全部JA段階に取り込んでいます。農業の6次産業化の必要性がしばしば指摘されますが、付加価値事業をJA段階で経営の一環にしたということです。
 それから九州地区で大きな問題となっているのは担い手問題です。東北・北陸は米中心ですから品目横断政策が導入されても当面は死活問題は起こらないと思います。ところが福岡、佐賀は麦、大豆で全国でも上位を占めているわけです。
 そこでJAさがも徹底して担い手対策に取り組んだ。その結果、対策に加入した面積カバー率(対前年比)は麦が102%、大豆で105%となった。水稲でも61%ですから農水省の当初計画を大幅に上回っています。特徴はカントリーエレベーター(CE)を組合員中心で運営してきたことからCEを中心とした集落営農がまとりやすかったということです。
 JAくるめは、他のJAと同様、米から高収益の園芸作物にかなりシフトしてきたということが特徴です。合併当初は米、麦、大豆が販売高の半分を占めたということでしたが、現在は園芸がほとんど半分です。
 それでもやはり米、麦、大豆は土地利用型農業を維持するための大事な装置ですから、麦と大豆の担い手育成対応には相当力を入れていて、素晴らしいのは麦と大豆はカバー率100%、米は自家用米を除けば92%のカバー率だという点です。
 ただし、JAグループ福岡の場合は、国の言う担い手がすべての担い手だというような位置づけはしていません。4ヘクタール以上等+一定の要件を備えた担い手というのはJAグループ福岡では「政策支援対象担い手」と言っています。一方、高齢者、女性農業者など直売所に出荷する人が主ですが、この人たちも大切な「地域担い手」だというように両輪として位置づけていて、JAはどちらも大切だというスタンスです。
 それからJA福岡市の特徴は地産地消ではなく「地消地産」を掲げていることです。消費者が求めているものを作るというのがJAのコンセプトで、地消地産の安全・安心な農産物を供給するというのがJAの基本的な方針です。生協との協同組合間協同も早い時期からやっており、25年ほど前から「赤トンボ米」という取り組みを進め、無農薬、減農薬の栽培に取り組んでいます。都市型のJAですが、残された農地をしっかり維持し地域の消費者に目を向けて農業振興を図っているといえます。

◆担い手育成とJAの課題

 ――それではまずJAの担い手育成・支援問題について議論をしていただきたいと思います。今、西日本の取り組みを紹介していただきましたが、東日本ではいかがでしょうか。

 田代 代表的な取り組みはJAえちご上越だと思いますが、ひとつは行政と一体となって担い手育成総合支援協議会を設置し、JAからも職員が出向して実働部隊が一体となって集落営農法人を70ほど立ち上げるという取り組みをしています。政策支援対策は特定農業団体だと20ヘクタール以上ですが、法人化するなら4ヘクタール以上ですので、そこをきちんと努力しようということです。
 とは言いながらもすべての集落でそれが可能になるわけではないため、JAがJA出資法人・アグリパートナーをつくって、農家はその作業班になるかたちで政策対象になるような努力もしています。
 最初は協議会とアグリパートナーはぶつかるのではないか、つまり、法人をつくる努力をしないで多くがアグリパートナーにいってしまうのではないかという懸念もありましたが、実際にはうまく棲み分けができていると感じました。ポイントは自分たちで経理ができるところは法人化していくが、そこが難しい集落ではアグリパートナーに参加するということです。
 梶井 今、4ヘクタール以上に面積を集積して担い手を育成するというのが政策の方向ですが、実はそれで本当に担い手ができるのか、と思いますね。そのことを私が訪ねた大潟村の実態は示しているのではないか。
 大潟村は平均15ヘクタールですが、それでもこの40年間に50戸近くが離農せざるを得ないという事態も起きている。担い手政策で面積の集積効果ということを言うのなら大潟村の実態をよく調査してから考えたほうがいいのではないかという気が現地でしましたね。
 JA大潟村が当面している課題は、下手をするとかなり急激に農地を処分する経営も出てくる危険性があるということでした。今はまだ大潟村の農地価格は10アールあたり100万円を超えていますが周辺は60万円に下がっている。ここでもし売却が増えると農地価格も暴落しかねないということがJAの悩みにもなっているわけですよ。
 北出 担い手問題でいえば、さっき九州の報告であったように政策支援対象担い手と地域の担い手に分けて対応しているというのは、やはり現場の智恵ということではないか。
 藤島 関連づけていうと、それは園芸作物産地の課題でもあります。今、野菜の輸入量は400万トン程度ありますが、そのうち300万トンは加工品。消費側が加工品にシフトしているということですから加工品対応が課題です。しかし、加工品となると生産者の収益は半分程度になってしまう。そうすると従来のような規模では経営が成り立たないから大規模経営が必要になる。
 しかし、一方で、ブランド化を考えると小規模なほうが生産物に目が届きやすく品質のいいものを作り出せる可能性がある。そう考えると地域全体として発展していくためには小規模な農家も活用して両方をどうまとめていくか重要になるし、それが担い手を育てることにもなると思います。

◆地域の担い手も重視

   それから今の担い手育成問題はJAの組織基盤に関わることでもあることを指摘しておきたい。農地を担い手に集積する場合、農地保有合理化法人を通じた利用権設定であれば土地持ち非農家になっても正組合員資格に触れることはありません。しかし、認められるのは1世代限りでいずれ正組合員資格がなくなることになる。
 JAグループ福岡で政策支援対象担い手と地域担い手に分けたのはJAが正組合員資格を剥奪することに加担していることになるのではないかという問題意識からです。
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(2007.10.24)

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