農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 微小害虫の物理的防除が産地に活力「サンクリスタル乳剤」



 消費者の「食の安全・安心」への関心が高まるなか、農薬のラベル表記の再確認、生産履歴の記帳など「食の安全・安心」に向けた生産者の取組みが確実に高まりつつある。と同時に、生産者は安全・安心な農産物生産はもとより、食味や形状を重要視し取組んでいる。本紙では、消費者の信頼に応える安全・安心な農産物づくりを支える資材およびそれによる産地形成、地域の活性化などを一貫して見ているが、今回は植物性油脂を基幹防除剤とし化学合成農薬とのローテーション散布を含め、確かな実績を上げている愛知県と茨城県の優良事例を紹介する。

生産者の意識と行動を変える活力に貢献
愛知県豊川市・JAひまわり管内

◆大葉の国内大産地の信頼を支える

JAひまわり・地図
 愛知県東三河地方は日本を代表する大葉の産地。豊川市などを管内とするJAひまわりでは、年間420万パックを出荷、販売額は約13億円になる。
 JAには大葉の生産者23戸で組織するつまもの部会がある。同部会は共同の「種どりほ場」を持ち、そこで採取した専用種子で栽培、部会として一定の品質を維持しようとしているのが特徴だ。
 部会メンバーの大須賀正佳さんは2000坪のハウスで大葉を栽培している。苗の定植時期をずらして周年での収穫、出荷に取り組んできた。
 「昔は生産増が目標だったが、最近では安全・安心はもちろん、食味と形状を重視しています」。
 日本を代表する産地とはいえ、国内だけではなく中国産の輸入増など競争は厳しくなっている。大須賀さんは「品質で勝負」の時代になったという。
 きれいな緑色の良質の大葉づくりのためには適切な病害虫防除は欠かせない。一方、改正農薬取締法の施行で使用薬剤や回数の制限が厳格になり新たな問題も出てきた。
 「かつてはコナジラミなどほとんど気になりませんでしたが、農薬使用の制限で予防的な防除も難しくなり、最近では大発生を防ぐことができずに収穫途中ですべての苗の植え替えを余儀なくされたハウスもありました」。以前は、収穫が終わった順に新たに苗を植え替えていったが、今では天候によっては「とくに真夏を過ぎたころ、コナジラミがみるみるうちに増えてくる」こともあるため、ハウス丸ごと植え替えるようにしているという。そのほか、アブラムシ、ハダニも悩みの種で、大須賀さんは「一度、害虫を確実に絶してしまう、というハウス内環境対策が重要になっている」と話す。
 土壌診断に基づく土づくりにも力を入れ、そのうえで使用可能な化学合成農薬のほか、天敵昆虫も導入した病害虫防除の戦略を立てている。そこに加え3年前に使用を始めたサンクリスタル乳剤が有効性を発揮しているという。
 「大葉の収穫は3、4日ごと。使用可能な農薬があっても収穫7日前までの散布という規制があればコナジラミが増えていても使えない。そんなときにサンクリスタル乳剤が役に立つということが分かった」。
 植物性油脂(天然ヤシ油)を原料としたサンクリスタル乳剤は、うどんこ病やコナジラミ類などの微小害虫を物理的作用で防除する。微小害虫であれば気門を封鎖、すなわち“窒息”させる。あるいはうどんこ病であれば菌糸の生育を阻止するという。物理的作用のため、病害虫に抵抗性がつくことはほとんどない。また使用回数に制限はなく収穫前日まで使えるほか、ポジティブリスト制度の対象外の物質となっている。
大須賀さんと大葉のハウス。緑色で良質がきわだつ
大須賀さんと大葉のハウス。
緑色で良質がきわだつ
 大須賀さんは今、3回の農薬散布のうち1回はサン クリ スタル乳剤(600倍希釈)の 散布をするようにして いるという。 「定期的に使用しているとかなり抑制効果が得られる」といい、部会のメンバーでも使用する生産者が多くなっている。
 大葉の最需要期はお盆と正月。品質はもちろんだが大産地として確実な量の供給も求められる。
 「必要な時期に必要な量を供給、というのも市場のニーズ。やはり数量確保には病害虫防除が重要で、サンクリスタル乳剤のような防除剤は産地の信頼を支える基礎固めとして期待できます」と大須賀さんは話す。

◆いちご栽培にも威力を発揮

贄さんといちごのハウス
贄さんといちごのハウス
 JAひまわり管内ではいちごの生産も盛んで190人の生産者がいちご部会を組織している。
 地域では親株をハウス内の高設施設に定植して採苗するナイアガラ育苗を行い、他に土耕栽培もあるが高設栽培が中心になっている。また、苗を夜間に冷却し開花を早める夜冷栽培も行っており、9月中旬に定植したものは11月から出荷できる。「七五三」の需要向けだ。その後、クリスマス、年末年始の最需要期を経て翌年の6月まで出荷が続く。
 高設栽培は、採苗やその後の栽培、収穫が立ったまま作業できるため作業効率もよく、また、土耕栽培のような炭疽病の発生は少ないとされる。
 ただ、高設栽培ではどうしても乾燥するためハダニの発生が問題になるという。現地で話を聞かせていただいたいちご生産者の近藤透さんによると、親株から採苗したものにもハダニが発生してしまい、それがさらに本ほ場での定植後にも残っているようだという。
 ただし、既存の化学合成農薬の散布回数には制限があるため、採苗から定植、収穫まで長期間にわたる栽培期間中に既存の農薬では防除ができない可能性もある。そこで3年前にサンクリスタル乳剤の使用を始めたが、一定の成果が上がった。使用回数に制限がないことから丁寧に散布することで効果が実感できたという。
 「最近では予防と初期防除のためにサンクリスタル乳剤を使っています。苗生産の初期、4月ごろのまだ気温の低い時期に早めに使うことを心がけている」と近藤さん。その後にハダニが発生した場合には、殺ダニ効果のある農薬とサンクリスタル乳剤との混用で防除しているという。
株が大事。近藤さんのいちごハウスで
株が大事。
近藤さんのいちごハウスで
 同地区のいちご生産者、贄(にえ)明さんも「早めにしっかり散布すればしっかり効く。既存の農薬使用が厳格になるなか、現場にとっては安全・安心と収量を確保するために非常に便利な資材」と話す。
 近藤さんは「適正な農薬使用と生産履歴記帳運動は当たり前のことになり、安全・安心な農産物が供給できていると思う」としながらも、「ただ、生産者に意識を変えなくてはだめだと強調するだけでなく、こうした現場に役立つ資材があると具体的にどう対応すればいいのかが見えてくる。化学合成農薬と天敵昆虫、そしてサンクリスタル乳剤などをうまく組み合わせていけばきちんと規制も守れて消費者ニーズにも応えるいちごができる、と生産者が納得できることが大きい」と話している。

「現地レポート 茨城県神栖市・JAしおさおい管内」へ)

(2007.11.7)

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