イネを原料としたバイオエタノール製造と利用の事業化をめざして、JA全農が新潟県下JAと連携して取り組んできた原料イネの生産とバイオエタノール製造の実証事業は、今年度、農水省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」に採択された。JA全農のこの事業の特徴は(1)原料イネの生産、(2)バイオエタノール製造、(3)エタノール3%混合ガソリン(E3)製造、(4)E3の県下JA―SSでの販売までを一貫して行う事業を構築しようとしている点だ。
県内で原料イネの生産からE3の製造・販売まで一貫して行おうというこの事業は、エネルギーの地産地消をめざす取り組みでもある。これまでの経過と今後の予定などを改めて整理してみた。 |
◆水田保全に着目した3つの目的
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イネを原料としたバイオエタノール製造・利用事業についてJA全農では3つの目的を掲げている。
ひとつは、米の消費減退で主食用の米の生産目標数量が減少していくなかで、地域の水田農業の振興に寄与するということだ。とくに大豆など畑作物への転換が困難な地域の、水田の有効活用をはかるということも目的としている。
そしてバイオ燃料の原料イネではあっても、その作付けは「水田を水田として活用する」ことになる。それによって地域の農地・水・環境を将来にわたって良好な状態で保全しようということも、大きな目的のひとつだ。こうすることでいざというときに、原料イネ栽培の水田を主食用米の水田として活用することも可能になる。
こうした目的のもと、JA全農では17年度から「コメを原料とするバイオエタノール製造・利用等に関する調査」の事業に着手した。
調査の内容のひとつは、バイオエタノール原料イネについて生産者が生産に合意するかどうか。また、地域で製造されたエタノール3%混合ガソリンを使う意向があるかどうかだった。
調査は農産物からエネルギーを取り出すことに関心の高かったJAにいがた南蒲で実施された。当時の小川政範組合長は、管内が水田単作地域で畑作物への転換がなかなか難しいことから、水田をきちんと保全するためにこうした事業の可能性に積極的で、JA全農と連携して取り組むことになった。
バイオエタノール原料イネとして北陸農研センターが推薦したのは「北陸193号」というインディカ系米。同センターの試験栽培で10アールあたり800キロを超える多収穫米であることが確かめられていた。コシヒカリにくらべて田植え、稲刈りなどの作期が遅く、農機具は同じものが使えるし、開花期、受粉期もずれるため交雑の心配もない。
ただし、こうした超多収穫米とはいえ、バイオエタノールの海外価格との比較や製造コストを計算すると原料イネとしては1キロ20円程度、1俵1200円と試算された。意向調査では生産組織の代表者21人に聞くと、多くは生産コストをカバーする補助金などが措置されれば、原料イネを栽培してもいいと回答。「新たな転作作物として位置づけてほしい」という声もあった。
また、エタノール混合ガソリンの利用についても、市販のガソリンと同じ価格であれば「環境を汚染しないエネルギーだから利用したい」という声が多く、そのほかガソリンよりも多少割高であっても「地球温暖化防止になれば」と事業の意義を認める声もあった。
一方、バイオエタノール製造工場の設立要件も調査し、プラント規模を玄米使用量1万5000トン(年)としてエタノール製造量6700キロリットルの場合の収支を試算した。
試算の結果、プラント建設への補助や、原料籾の低コスト乾燥・保管、熱源用となる籾などのバイオマスの効率的な収集・利用などの仕組みが整えば、エタノール生産原価は1リットルあたり114円となることなどが分かった。
◆300ha確保をめざす
調査事業の結果を受けて、18年度からはJAにいがた南蒲の2名の生産組織代表者が「北陸193号」の栽培実証調査に取り組んだ。栽培面積は合計で83アール。収穫の結果、反収は880キロだった。主食用の県平均は508キロだから超多収穫米であることが分かる。
収穫後は生籾の長期保管試験として、屋外保管で低コスト保管を試みた。しかし、水分が多く発芽や腐敗などが発生したため、コストをかけない生籾の乾燥と保管が課題となることも分かった。
そして、19年度には栽培面積を拡大した。
JAにいがた南蒲では31名の生産者が取り組み、栽培面積は26haになった。また、JAえちご上越でも11名の生産者が栽培し11haで作付けをした。19年度は合計で37haとなった。
収量の正確な結果はまだまとまっていないが、今年は収穫量のばらつきがあり、全体としては700キロ弱にとどまりそうだという。超多収穫米ではあるが、インディカ系のため寒さには弱く、今年は穂の長さや数が決まる最高分けつ期に低温に見舞われたほ場では収量が落ちたのではないかとみられている。
プラントが稼働し、エタノールの製造を順調に行っていくには、栽培面積が280haは必要と試算されているが、収量の変動をふまえると330ha程度の確保が必要になるとも考えられている。
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JAにいがた南蒲管内のほ場で行われた
19年度「北陸193号」の刈り取り |
計画ではエタノール製造のためには
300ha作付けが必要になる |
◆事業成功の課題は?
JA全農が取り組むエタノール製造・利用事業は、製造規模は年間1000キロリットル。プラント建設は新潟市のコープケミカル新潟工場内を予定している。着工は20年3月。また、製造されたエタノールは、全農新潟石油基地でガソリンと混合し、E3としては3万3000キロリットルの販売をめざす。販売は県内のJA―SS40か所を予定している。
原料イネとしては、年間に約2250トンが必要で、栽培面積としては280ha以上が必要となる。
原料イネのコスト補てんは産地づくり交付金を活用して行っている。20年産に向けて原料イネの作付けが大きく増えることが期待されるが、そのためには地域で産地づくり交付金の活用など、バイオ原料イネ生産への理解と合意が進むことが必要になる。
また、この事業を成功させるための政策支援も必要だ。JA全農では、「バイオマス資源作物」としての交付金制度の制定や、E10を視野に入れたバイオエタノール混合方式の統一、さらにバイオエタノール分に対しては、ガソリン税を免税して普及を促すことなどの政策が必要だとしている。
一方、JAグループとしての課題としては、低コスト栽培と主食用と区別した栽培の仕組みづくりがある。反収の増加のほか、施肥・防除体系づくり、直播によるコスト削減の追求もある。また、生産者個々が取り組めば、ほ場が点在することになるため、生産者の理解を広め団地化を進めることも課題となってくる。
そのほか現在は、主食用を乾燥したあとのカントリーエレベーターで乾燥し、プラント建設予定地に運搬しているが、独立した施設と低コスト・長期保管の仕組みづくりもめざしている。
21年1月にはプラントの試運転が開始され、同年3月以降に本格稼働になる見込み。「水田を水田として活用・保全」し、食料だけではなくクリーンエネルギーも作りだし、地域で利用するというこの事業は、JAグループならではの事業として期待されている。
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