JA福光の集落営農組織づくりは昨日今日に始まったものではない。そして農地の多くを営農組合に集積し「一町一農場=一JA一農場」構想を実現してきた。そして全国的にも高く評価されている営農組合もある。だがいまその営農組合から悲鳴が上がっている。
その実状に迫ってきた。 |
|
5基のCEを核とした「ライスコンビナート」
|
知恵を寄せ合い地域に合わせて築いてきた営農組合
◆7割の農地を営農組合に集積
「いままで築き上げてきたものが崩壊するかもしれない」。1年半ぶりにあった山田幹夫さんはいう。山田さんは19年春まで営農部長としてJA福光の農業を牽引していたが、定年で退職、現在はJAの嘱託〈審議役〉として営農部を手助けている。JA福光には平成13年と18年に取材で訪れ山田さんと話をしてきたが、こんなに深刻な顔を見るのは初めてだ。
JA福光では「中山間地域を抱えているところでは、集落営農でやらなければ成立たない」(斉田一除専務)と考え、早くから集落営農の組織化に取組んできた。その集落営農組織(営農組合とJAでは呼んでいる)を基盤に、あたかも地域全体が一つの農場のように運営・機能し、地域の特性を活かした「受注生産的かつ効率的な生産・販売」に「自然環境と調和した暮らしやすい理想郷を築く」ことを融合させた独自の地域農業システムである「一町一農場=一JA一農場」(地域農場システムづくり)をすすめてきた。
その拠点がカントリーエレベーター(CE)を中核施設とする「ライスコンビナート」だ。昨年1基増設して5基となったCEは1万1000トンの規模となった。5つのCEはコンタミ防止対策はもとより、各施設がコンベアで連結され、4号機と5号機は冷却装置をつけ食味が落ちないようにしている。ほぼ100%の米がJAに集荷され、CEで乾燥調製されているように、JAへの結集率は高い。
表1は、19年度のJA管内の農業経営形態を見たものだが、7割の農地が認定農業者を含めた営農組合(集落営農組織)に集積されていることがわかる。表2は集計方法がやや異なるが12年における集積状況だ。12年の段階ですでに1戸当たり所有農地が1〜1.1haと小さいこと、兼業農家が多いことを背景に「集落で20台ある農業機械を、2台にして50町歩やろうよ」と組織化していることが分かる。組織形態としては、▽全面協業プール方式▽部分協業方式▽転作協業方式など、その集落にあった形態からはじめ、徐々に全面協業方式に移行するように指導していこうとしていた。
◆条件が異なる集落を同じ規格で組織できるのか
営農組合をつくるときに10の要件があれば「どこの組織でも守ってもらわなければいけない基本的な要件はその通りやってもらうけれど、後の部分については集落の状況に合わせてアレンジしていい」ことにしていると前田俊営農部集落営農・新農政推進課長。
基本的な部分以外は集落ごとに議論をして「俺たちはこうやろう」と決める。だからJA福光の営農組合は「丸いのもあれば、少し歪んだとか、とんがったのとか、いろいろな形のがある」。それで経営が成立ってきたし、集落におけるムラの機能も向上してきた。だが、品目横断的経営安定対策で集落営農を担い手とするようになって「様子が変わってきた」(前田課長)。
いままでは農家が自分たちの集落の農業をどうしようかとみんなで考え、知恵を寄せ合って営農組合をつくってきた。だから「丸いのもあれば、少し歪んだとか、とんがった」のもあるというように、集落に合わせたものだった。だがいまは補助金をもらうために、国がいう「一辺が何メートルの箱」という基準に合わせて組織をつくっている。本来、同じJA管内であっても集落ごとに条件が異なっており、「同じ規格の箱に収めるのはムリがある」。ムリヤリ同じ箱にいれれば「農家の主体性をなくす」ことになり、そうした組織の仕方で地域の農業が将来ともに本当に成立っていくのだろうかという疑問があり、不安があるということだ。
「営農組合をつくってもすぐには楽にはなりませんよ。ノウハウを蓄積して軌道に乗るには最低5年はかかります」と前田課長。その間は「我慢の塊」なのだとも。そうしたことを知らずに、「飴玉」をぶら下げて組織をつくっても本当に機能するのだろうか。これは、長年にわたって農家と一緒になって、集落に合わせた農業のあり方を考え、組織をつくってきたJAならではの当然の危惧だといえる。
|
CEで保管する今摺り米として販売する「う米蔵」
|
◆設立10周年を迎えた先見性のある法人組織
そしてそれよりも今は大きな問題がある。それが冒頭の山田さんの「いままで築いてきたものが崩壊する」かもしれないということの原因だ。
それは米の価格だ。
山田さんは、地元の「農事組合法人 小山」(以下、小山という)のメンバーでもある。小山は平成8年11月に設立され昨年10周年を迎えた営農組合で優れた経営体として表彰されるなど、JA管内だけではなく全国的にも知られた組織だ。
小山地区は石川県境にある医王山の東山ろくの扇状地に開けた純農村集落で、昭和時代は全戸数47戸ですべて兼業農家だったが、平成に入って非農家4戸が転入、1戸が離農し、現在は全戸数51戸の集落だ。そのうち第2種兼業農家が46戸で、45戸が小山の組合員農家となっている。水田面積は55.65ha(1戸当たり平均1.13ha)。自家菜園などを除いた営農組合の経営面積は50ha。19年の作付は水稲が38ha、麦・大豆など転作作物が12haとなっている。
耕地は標高110〜150mにあり、土壌条件が洪積粘土質のため収量は町の平均を下回るが、水質がよいのと昼夜の適度な寒暖差などからコシヒカリの食味は魚沼産と変わらないと人気が高い。
昨年の10周年記念では、今日の品目横断的経営安定対策を享受できる組合として「先見の明がある」「先進的な法人組織」として、行政や農業関係機関から高い評価を得た。
◆売上が900万円減少「赤字をどう分配すればいいのか」
それからわずか1年。富山県の米の概算金は1万2000円となった。18年産は1万5300円/60kgだったから3000円以上安くなったことになる。小山では、米価が下がることを予測して、19年産は1万4000円で経営計画をたてていた。小山の10a当たり収量は7.5俵から8俵だという。
7.5俵で計算すると、予測より2000円安くなったために米の売上げは計画を570万円を下回ることになる。しかも19年産米の作況は90だという。価格が15%下がり、収量が10%落ちたため、実際には900万円強も計画より売上げが減少することが予測される。
小山のこの10年の歩みをみると、麦・大豆に不適な土質のため、売上げの92%は水稲ということもあって、売上高から製造原価を差し引いた売上総利益は大豆・大麦が良かった11年、水稲が豊作だった14年、前年が全国的に不作で米価高騰の清算金が入ってきた16年の3期を除けば赤字だ。
実際には、恒常的な交付金・補助金・助成金を「みなし売上高」として「売上総利益(営農総利益)」を確保しているのが実態だ。だが、900万円売上が減少すると、製造原価に大きな変化はないので、「みなし売上高」を計上しても19年度は赤字になる可能性が高い。
「赤字をどう分配すればいいのか」頭が痛い。
◆価格を下げて自然淘汰させる政策なのか
19年度は何とかなったにしても、20年以降はどうなるのか。米価が上がるとは考えにくいし、できることは多くはない。自主的な努力で米の販売価格を上げられるか、高く売れる作物を生産することが考えられる。
しかし、JA抜きでいますぐ米の販売ルートができるわけがないし、新たな作物をつくるには時間がかかる。ましてやここの土地にあった作物がすぐにあるとも考えにくいから、実現の可能性はきわめて低いだろう。
後は、組合員への土地代を下げるとか、オペレーター代などの人件費を下げる「蛸足経営」をするしかない。それが続けば、組織が崩壊する危険性は高くなるだろう。
これは小山だけの問題ではない。「組織化して規模を大きくすれば、価格が下がったときのダメージも大きくなる」(前田課長)ということだ。あるところで「価格を下げて自然淘汰させる政策ではないか」という意見を聞いたが、JA福光を取材して、そういう意見を否定することはできないと思った。
JAでは、「せっかく築いてきた営農組合を崩壊させることはできない。JAとしてできる限りのことをする」ことにし、JA独自で低金利融資をすることを決めている。
国や全農が動いて米価の下落には一応の歯止めがかかったように見える。19年産米はこれで落ち着いたとして、20年産米ではどうなるのだろうか。国は19年産米と同じような対応をとり続けることができるのか。それができないならば「単なる付け刃」でしかないと現場の生産者がみていることを最後に付け加えておきたいと思う。
|