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特集 「食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2008」 |
どうするのか日本の農業―日本農業の基本戦略を考える 愛媛県温州ミカン産地の危機 現地レポート(3) 温州みかん産地(愛媛県) |
外国産果汁の輸入増で大きく落ち込んだ生産 ◆かんきつ輸入自由化と需要減退に愛媛産地はどう対応してきたか
60年の栽培面積8520haが67年には1万7800ha(2.1倍)、72年には2万2800ha(2.7倍)、生産量は60年の12万9000トン(全国の14.4%)が72年には61万3000トン(4.8倍)となって、全国生産量の17.2%を占めるトップ産地としての地位を確立した。愛媛県が温州ミカンの全国第1位産地になったのは68年で、それは04年まで続くことになる。 戦後の愛媛ミカンの市場開発は、静岡ミカンに比較して年内の味で断然優位であったことを生かしての東京進出に全力をあげるものになり、果樹専門農協による計画的連続出荷方式による東京市場への安定供給戦略は、(1)コンビナート方式によるオートメーション選果場(共同選果・共同計算)、(2)ワックス処理、(3)段ボール出荷(段ボール製造)、(4)センサー開発などの革新技術開発によって支えられたのである。 温州ミカンは1968年には全国の生産量が200万トンに達し、第一次暴落、72年には300万トン台の大増産で第二次暴落となり、減反と品種更新が不可避となった。75年から97年までの6次にわたる温州ミカン減反の結果、74年に2万2000ha(全国16万300haの13.7%)であった愛媛県のミカン栽培面積は98年には8900ha(同6万600haの14.7%)にまで減少した。この面積はこの後も減少を続け、06年には7680ha(同5万300haの15.3%)になった。最盛期74年の栽培面積のわずか34.9%、すなわち3分の1になった。生産量も最大であった72年の61万3000トン(全国357万トンの17.2%)から、98年(裏年)には18万2000トン(全国119万トンの15.2%)、06年(裏年)には12万5000トン(同84.1万トンの14.9%)と72年対比で20.4%、すなわち、わずか5分の1の生産量に落ち込んだのである。
しかし、この激しくかつ混沌とした品種更新は、「ミカン危機突破の決定打」とされたものの、期待したほどの収益をもたらさなかった。そして、この後も進む品種更新によって、愛媛県内で、温州ミカンがかんきつ栽培の主幹を維持しているのは八幡浜市の一部の共同選果場管内にすぎず、その他地域は、伊予柑から、さらに清見オレンジ、デコポン、その他の中晩柑類産地化の動きを強めるとともに、島しょ部を先頭に、県内いたるところでかんきつ園の荒廃が目立つようになったのである。 ◆温州ミカン加工原料価格安定制度が必要
農水省は、07年2月に発表した「過去に行われた輸入自由化等の影響評価」において、下のような表を提示した。そして、かんきつについては、国内対策によって生産調整を行ない、95年には90年の8割まで生産量を落としたが、国産かんきつの需要量はオレンジ(生鮮)の輸入自由化以前から減少傾向にあったので、「輸入オレンジが国産柑橘生産量に与えた影響の程度は明らかでない」としている。他方で、国産温州ミカン果汁の生産量の大幅減少が外国産果汁の輸入増にともなうものであったとするとともに、それが果汁製造業の経営に深刻な影響を与えるとともに、生果の加工仕向けによる需給調整機能を低下させ、生果の価格形成に影響を与えたとしている。というのも表にみられるとおり、オレンジ果汁の輸入量は生果換算では90万トン台から100万トン台に達し、国産温州ミカン生産量を凌駕するまでになっているからである。 さて、愛媛県産温州ミカンの卸売価格(京浜市場)は、近年、1kg単価が200円を切るような低迷を続けてきた。これに加えて、加工原料仕向けのミカン価格は、2001年以降、1kg当たり10円を切って、4円、5円にまで落ち込んできた。平均的な加工比率は20%を超えるから、加工原料用価格のこのような落ち込みもまた生産農家の粗収益ダウンの大きな原因になっている。こうして、温州ミカンの10a当たり粗収益は平均で30万円台に下がっている。 温州ミカン加工事業は、1970年代にはミカン生産量の変動と価格暴落に対する需給調整機能の強化が求められ、ミカン缶詰・ジュース事業の拡充のための、農協による工場建設が進んだ。愛媛県では、愛媛青果連が52年に加工事業を開始し、69年に「100%ポンジュース」を発売している。しかし、85年のプラザ合意による円高転換によって、かつてドル箱であった缶詰ミカンの輸出がゼロになり、中近東に年間50〜60億円も輸出していた愛媛青果連の「ポンジュース」も価格競争力を失って、輸出は皆無となった。同時に、ブラジル産・米国産オレンジ果汁(5倍濃縮)の輸入価格が1リットル当たり200円前後にまで低下したことは、国産ミカンの加工仕向け価格の引き下げ圧力を加えたのである。これに対して1988年に開始された「果汁原料用柑橘価格安定対策事業」で、加工仕向け価格は91年までは1kgについて35円から40円、92年から00年までは18円から24円で支えられた。ところが、この加工用助成制度が廃止されて、生食用市場価格補てんの経営安定対策に一本化されて以降は、なんと上に見たように10円を切って、ミカン農家にとっては情けない水準に落ち込んだのである。 国はこれまでの需給調整対策への参加を前提にした市場価格補てん果樹経営安定対策が十分な成果を上げず、果樹経営の危機的状況を招いているなかで、本年度から「果樹経営支援・需給安定対策」を実施している。その要点は、「緊急需給調整特別対策事業」であって、一時的な出荷集中時に緊急的に生果を加工原料用に仕向ける措置を支援(温州ミカンとりんご)する―生食用果実を緊急的に加工原料用に仕向けた場合の掛かり増し経費の一部を支援するというもので、補給金単価は1kg当たり34円(国費1/2)とされている。しかし、通常の加工原料仕向けについての助成が復活したわけではなく、その効果についてはきわめて限定的である。緊急対策ではなく、きっちりとした温州ミカン加工原料価格安定制度が今こそ求められる。 |
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(2008.1.18) |
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