JAグループは「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」をめざしている。そのためには農業や地域づくりに力を発揮している女性たちのJAへの参画が一層重要になる。JAとJA女性組織にとっての課題は何か。(社)農業開発研修センターの藤谷築次会長理事に提言をお願いした
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◆JAの現代的使命とは何か?
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ふじたに・ちくじ
昭和9年愛媛県生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。京都府立大学農学部教授を経て京都大学農学部教授、同大学院農学研究科教授を経て、京都大学名誉教授。
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まず何よりも、第53回JA全国女性大会の開催に祝意を表したい。そして大会の成果に大きな期待を寄せたい。というのも、“活力あるJAづくり”の成否の鍵を握っているのは、女性であり女性組織だ、と私は考えているからである。
“活力あるJAづくり”の重要性が強調されるのは、総じてJAに活力がない証左である。特に役職員に元気がないのである。何故なのか。確かに農業情勢は悪化の一途を辿っていると言っても過言ではないし、信・共をはじめとする多くの事業分野で、事業分量を確保することも、収益力を確保することも容易なことではなくなっている。役職員の皆さんが閉塞感に陥り、絶望感に嘖まれ、元気がなくなるのも分からないわけではない。
しかし、そのような厳しい状況の中でも、役職員が元気を出して頑張り切れるかどうかは、組合員の支えがあるかどうかだと私は考える。そして組合員の支えが得られるかどうかは、JAの組合員のニーズと願望を充足することをミッション(使命)として苦闘してくれていることを組合員が理解・認識し、実感できるかどうか、に掛かっている。私が一番心配していることは、JAが自己のミッションについて、迷いを深めているのではないか、ということだ。
そのことは、農水省が設置した「農協のあり方についての研究会」の報告書『農協改革の基本方向』(平成15年3月)をベースにする農水省の全中に対する強力な行政指導の下に策定されたと推察される『経済事業改革指針』(全中、平成15年12月)で、「生活その他事業」は「純損益段階において、原則として3年以内に収支均衡をはかる」という指針を打ち出したことに端的に表れている。しかも「生活その他事業」の中には、直接的にはほとんど一銭の収益も産まない生活指導事業が含まれているのである。JAは生活指導員の削減をはじめ生活面事業活動に大鉈を振るわざるを得なくなったのである。
私は、多くのJAの女性組織のリーダーや生活指導員の方々から、“私達は、今何故こんなに肩身の狭い思いをしなければならないのか”、“私達が取り組んで来た生活面活動はそんなに無意味なことだったのか”と、憤懣やる方ない気持ちを吐露されている。
◆重要になるJAの生活面事業
私は、平成9年に開催された第21回JA全国大会に全中が提案し採択された「JA綱領―わたしたちJAがめざすもの―」は、JAの現代的ミッションを的確に提示したものとして高く評価している。「農業と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たします」という前文の一文は、言うまでもなく、組合員の農業経営と地域農業を支え、振興することと、組合員の生活の場である地域社会を住みよい活力ある姿に育むこととが、共にJAのミッションであることを明示している。先の「生活その他事業」に関する改革指針は、JAにとってほとんど対応不可能な指針であり、生活面事業活動の自己否定に他ならない。
家族の生活問題を真剣に考え、また住みよい活力ある農村社会の建設に夢を抱いて来た組合員農家の女性の皆さんは、それ故にJAの生活面事業活動に多面的にかかわり、様々な取り組み成果を上げて来たはずである。JAの営農面事業活動がいよいよ重要性を増して来ていることは言うまでもないが、JAがそれだけの片肺飛行になってしまっては、JAの現代的ミッションは果たせないはずである。何よりも女性にとってJAへの期待・願望は、急速に萎んでしまうであろう。「JA綱領」を否定することになりかねない改革指針は早急に見直されるべきだ。
◆「JA綱領」実現に女性参画は不可欠
JAが「JA綱領」の理念に立ち返り、営農面、生活面の両面のミッションをしっかり果たすJAになるためには、生活面事業活動に関して、男性とは比べものにならないほどの期待と願望を持っている女性が立ち上がることが重要な決め手となる、と私は考える。そのためには、女性のJA運営への参加・参画が大切であり、それを支える女性組織の強化・活性化が不可欠である。しかし、女性のJA運営への参加状況は、女性理事数を見ても、府県単位でみて10名以下の府県が31もある始末だ(昨年12月現在、大会資料による)。
女性のJA運営参加促進に限らず、“活力あるJAづくり”の立役者は、本来組合長をはじめとする常勤役員であるはずだ。ところが、広域合併JAづくりの中で、高い識見を持ち強力なリーダーシップを発揮できるトップ層が少しずつ出て来るようになったとは言え、JAのトップ層の質は、大変失礼だが、率直に申し上げて必ずしもよろしくない。“実務に精通した理事”と言った、極めて曖昧な常勤理事の選任基準が禍しているようで、農水省は、JAの事業活動のあり方に事細かに口出しするくらいなら、常勤役員の資格要件についてこそ行政指導力を発揮すべきであったと思われる。
◆女性の鋭い生活感覚を活かす
今回の女性大会のメインのスローガンは、「かえよう…行動力で」であり、力強い。サブスローガンは、「地域温暖化防止など環境問題に取り組もう」(A)、「子育てを家族・地域で取り組もう」(B)、「女性組織・仲間づくりに大きく一歩を踏み出そう」(C)の3点で、説得力がある。(A)は国際性を備えたテーマであり、(B)は女性組織ならではのテーマであり、(C)は自らの組織問題に着眼したテーマで、その実践に注目してゆきたい。特に(B)への取り組みは、フレッシュミズの活動の場を広げ、(C)の取り組みにも大きな効果を発揮するだろう。
“活力あるJAづくり”は、女性の鋭い生活感覚を世間の柵に捕らわれない自由で新鮮な発想を活かすことなしにはなしえない。そのためには、先述したように女性のJA運営への参加・参画が不可欠である。そんな思いを強く持っている府県中央会のスタッフを私は何人も知っているが、多くのJAの実情は、トップ層の逡巡もさることながら、組織代表理事の無理解も女性の運営参加の前進を阻んでいると見ておられるようだ。
東北地方を中心に男性理事には、“女が理事になって何ができるか”という思い込みが強いように私には思われる。そういう男性の固定観念を打ち破る特効薬は、“女性の目を見張る実践力”を見せ付けることだ、と私は考えている。それは女性組織の具体的な活動成果を明示することに他ならない。
◆活力あるJAづくりは女性組織の強化から
そのためには、女性組織の強化・活性化が不可欠である。前記した「女性組織・仲間づくりに大きく一歩踏みだそう」という大会スローガンの重要性が分かろうというものだ。
大会資料によると、女性組織のメンバー数は81.8万人(昨年12月現在)、対前年比4万8569人の減(減少率5.6%)となっている。正組合員戸数対比でみた加入率は18.8%まで低下している。メンバーの減少は組織の端的な危険信号である。女性組織のメンバー減少の要因が、フレッシュミズ層の新規加入の不振にあることは言うまでもない。フレッシュミズ・メンバー(一般に45才未満)は2万83名で、女性組織メンバーのわずか2.4%に過ぎない。
都道府県別の平成19年度の“女性組織重点活動”を見ると、多くの県で組織の強化や活性化が取り上げられている。また、大会のメイン行事であるパネルディスカッションのテーマとして、「JA女性組織の活性化について―私たち自身のために、子供・孫・次世代のためにすべきこと」が取り上げられていることも、女性及び女性組織の問題意識の確かさを示している。パネルディスカッションの成果を大いに期待したい。
ここでは、女性組織の強化・活性化のあり方に関して私の所見を述べ、結びに代えたい。
◆自主的・主体的な協同活動を
女性組織強化・活性化の第1の課題は、組織メンバーの減少に歯止めを掛け、さらに増勢に転じさせることである。言うまでもなく、焦点はフレッシュミズ層のメンバーをどう拡大するかである。そのためには2つの点に工夫を凝らす必要がある。1つは、フレッシュミズ層の期待・関心を見極め、そのニーズに明確に応えられる活動への取り組みに力を入れることである。2つは、その取り組みを徹底するためにも、フレッシュミズ組織の自主的で自由な活動ができる組織運営条件を確保することである。農家の嫁・姑の関係は大きく変わって来ているとは言え、女性組織の中でも姑層に遠慮しなければならないのでは、嫁層が女性組織を敬遠することになるのは当然であろう。
第2の課題は、女性組織の基本的役割を明確に認識し、着実に実践することである。そのことなしに組織の存立も維持も発展もあり得ない。その点は組織の綱領や原則で明確にされていると言えばその通りだが、端的に自己認識すべきは、次の3点ではないか。1つは、男組織から脱却できていないJAの組織運営と事業活動と経営管理に女性層の思いを注入し、男組織からの脱却を促す役割(女性層の意思反映機能)であり、2つは、女性達の自主的、主体的な様々な協同活動組織としての役割であり、3つは、右の2つの役割発揮の基礎ともなる女性の自主的な生涯学習組織としての役割である。女性組織に期待される役割はきわめて大きいのである。
最後に第3の課題として強調しておきたいのは、組織運営の工夫と魅力的活動企画についてしっかりした助言と補佐機能を発揮できる事務局担当者の確保と育成である。その意味で生活指導員の確保が決定的に重要であることをJAのトップ層は肝に銘ずべきである。
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