農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「食と農を結ぶ活力あるJAづくりと女性達の役割2008」


JA女性 かわろう かえよう 未来のために

08・1・15講演(JA三次女性部大会)

我は我 されどなお問う 女性部活動
―JA女性部活性化への私の10の提言―

東京大学名誉教授・JA総合研究所所長 今村奈良臣


提言1
Challenge at your own risk/Boys be aggressive!

講演をする今村奈良臣氏
講演をする今村奈良臣氏

 「challenge at your own risk」を私は「挑戦と自己責任の原則」と訳している。24年前から指導してきた全国各地の農民塾生たちに最も胸に残っている言葉は何かと聞いたらいずれもこの言葉だと言った。この言葉を最初に聞いたのは25年前にアメリカ、ウィスコンシン大学客員研究員に行っていた時、中西部の農民から聞き胸にぐっときた。アメリカでは農場主の父が引退する時、子供(長男ではなくても次男でも三男でも、次女でもよい)が「私が農場を買って経営主になります」と言った子供に継承される。その時、発せられた言葉であり、重い。
 「Boys be aggressive!」これは「自らの新路線を切り拓き積極果敢に実践せよ」と私は訳している。明らかに、明治の初め札幌農学校を辞するに当たり発したクラーク先生の「Boys be ambitious」(青年よ大志を抱け)をもじったものである(なお、Boysは一般名詞であり女性も指す。男女差別語ではない)。今から45年前、私が東大大学院を修了し(財)農政調査委員会という研究所に研究職員で入った折、理事長の故・東畑四郎氏(農林事務次官、日銀政策委員等を歴任、私の先生であった故・東畑精一東大名誉教授の実弟)が言われた言葉。この言葉を胸に農政改革の基本課題を私は積極果敢に追求・提言してきた。皆さんもこの2つの言葉の持つ路線を実践していただきたい。

提言2
農業ほど男女差のない産業はない

JA三次女性部大会・家の光大会

 この言葉は、青森、JA田子町の常務理事佐野房(さの・ふさ)さんから聞き胸にずしんときた。「農業ほど人材を必要とする産業はない」「JAほど人材を必要とする組織はない」と私はこれまで言ってきたが、この佐野さんの言葉は核心をついている。これまでの日本農業の6割は女性が支えており、他のどの産業分野を見ても、女性が半ばを占める産業はない。JAも女性の正組合員化を進め、理事等役員も女性比率を高めていかないと弱体化していく。

提言3
「多様性の中にこそ、真に強靱な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない」「多様性を活かすのが、ネットワークである」
 JA女性部の皆さんは、多様な個性に富み、多様なかたちで農業や農産物加工に携わり、地域コミュニティの活動を推進していると思う。その多様な個性をいかに活かすか、そのネットワーク作りが重要になってくる。個性を殺す画一化路線は駄目だ。JA女性部は色々なネットワークの拠点である。

提言4
ChangeをChanceに
 農業・農村そして社会経済の激変(Change)をただ嘆くのではなく、Chanceが来た(好機到来)と受け止め、新たな飛躍の路線を考え実践に移す。“g”を“c”に変えるという発想で、常に前向きに考え新しい方向を切り拓こう。

提言5
ピンピンコロリ路線の推進を
 いま、農村では農村人口の高齢化が急速に進んでいる。しかし、私は農村の高齢者を「高齢者」と決して呼ばずに「高齢技能者」と呼んできた。農村の高齢者は単に年齢を重ねてきたのではなく、智恵と技能・技術などを頭から足先までの五体に摺り込ませて生きてきた人達である。その持てる智恵と技能を、地域興しに、とりわけ農業生産活動に活かしてもらいたい。そのためには、若い女性、中堅の女性たちの多面的なリーダーシップが高齢技能者に必要不可欠である。高齢技能者を老人ホームなどに送り込むのではなく、直売活動、コミュニティ活動など、消費者や地域住民との接点を求める活動に、その持てる技能を活かしてもらいたい。それが、元気回復の源泉になる。そういう活動を行う中で、ある日、皆にたたえられて大往生を遂げていただくようにしてもらいたい。

提言6
計画責任、実行責任、結果責任
 どういう仕事や事業、経営などを行っても、この3つが基本原則である。「絵に描いた餅は食えない」と昔から言われてきたが、JA関係の分野では一般的に絵に描いた餅が多すぎたと思う。いまこそ、この3つの原則をきちんと実現するような体制と活動スタイルを実現しなくてはならない。

提言7
皆さん、全員、名刺を持とう。

JA三次女性部大会様子

 日本の農家で名刺を持っている人はこれまでほとんどいなかった。他の産業分野と決定的に異なった日本農村の特徴であった。名刺を作り、持つ必要がなかったからだが、これからは違う。名刺は情報発信の基本であり原点である。自らの行っている仕事や活動に誇りを持ち、世の中すべてに語りかけ働きかけるためには、手作りでよい、名刺を持とうではありませんか。しかし、名刺を作るには肩書きが要る。自らの活動を示す肩書きを書いた美しい名刺を作りましょう。

提言8
農業の6次産業化 ネットワークを推進しよう
 かねてより私は農業の6次産業化(1次×2次×3次=6次産業)を提唱してきたが、多様な部門でそれを推進してもらいたい。食の分野では、(1)大豆の本作化と非遺伝子組み換え大豆(Non−GMO大豆)による多彩な大豆食品の開発、(2)多様な米粉加工品(パン、メン、非常食、防災食、老人食など)の開発、(3)ペットボトルで米(精白、7分づき、5分づき、玄米)を売る、そのラベルになるポスターを児童、生徒から募集する、(4)野菜や果実の販売と多彩な加工、全利用の開発、(5)山菜等林産物の多面的活用と販売、などの他に、(6)農家住宅を活用した修学旅行の受け入れと食農教育の拠点づくりなど多彩なグリーンツーリズムの展開、(7)特に中山間地域の多面的活性化、(8)耕作放棄地、里山への放牧活用による牛の「舌刈り」の実施による景観の回復と「景観動物」による豊かな農山村の実現(そのためには県・市による「Rent A Cow」システムの設置)など新基軸を創造しよう。

提言9
平等原則から公平原則へ
 地域農業の発展と農村の活性化のためには、真に努力し汗を流して頑張っている方々に報いるために、公平原則を徹底し、平等主義の弊害を徹底的に改めることがきわめて重要である。農政のあり方も、またJAの路線も、公平性、公正性、透明性、公開性を堅持し、そのための改革を推進することが基本課題である。

提言10
次代を背負う人材をいかに増やすか
 中学校の進路相談(2年生の秋から冬)では、圧倒的に「士」のつく職業(例えば、建築士、設計士、管理栄養士、保育士等々)を求めているというのが実情である。農家の子弟でも農業経営者志望はきわめて稀であると中学校の進路指導担当の先生は言う。また農業関係機関(市町村農林課、JA、普及所など)は中学校を訪ねて来ないと言う。中学2年で進路は決まる。
 5年後、10年後の地域を担うたくましい農業経営者をいかに創造するかは、日本農業、農政の最大の課題である。この課題については女性の果たす役割がきわめて重要である。
 日本の農村のきわだった特質は「長男集団」「長男社会」というところにある(企業や大都市は高度経済成長期、農村出身の「次三男社会」で維持、発展してきた)。
 農村では、長男が(1)家督、(2)家産(田畑山林家屋敷)、(3)家業(としての農業)の3つを継ぐものと歴史的にされてきた。長男は責任感、義務感等々すぐれた点が多いが、最大の欠点は、先例重視で新しい事態への「改革」に一歩踏み出したがらないことである。つまり、保守的、守旧的である。
 他方、女性は他所者(他地域から嫁に来た)で、固有の価値観、行動規範をもっている。状況変化の中で、独創性に富んだ行動や活動をする。女性が元気なところは、地域全体に活力と活気がみなぎっているところが多い。JA三次管内でも一層の活躍を期待したい。

むすび
 「時間軸」と「空間軸」という2つの基本視点に立ち、近未来(5年、10年先)を正確に射程にとらえつつ、一層の活力ある女性部活動を期待したい。

(2008.1.28)

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