第53回JA全国女性大会では地球温暖化防止をテーマに「JA女性 エコライフ宣言」を行い、83万人の統一行動として各地で地球環境問題に取り組む方針を確認する。「温暖化は喫緊の課題」だが、農村ではどのような取り組みを進めればいいのか。今回はJA総合研究所主席研究員の山本雅之理事に提案してもらった。 |
次世代につなごう!エコライフとエコ農業
◆農村に迫る「成長の限界」
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山本雅之氏 |
アメリカの女性科学者ドネラ・メドウズが1972年に出版した「成長の限界」は、世界に大きな衝撃を与えた。そのなかでメドウズは、このままの経済成長が続けば、100年後には制御不能な生態系破壊、異常気象が発生し、農業と工業の生産量は激減し、人口も減少すると警告している。
それからわずか35年、すでにその徴候は地球上の至るところに現れている。急速に進む温暖化、海面上昇、干ばつ、山火事、集中豪雨、大型ハリケーン、大気汚染、水質汚濁、酸性雨、飢餓などである。
これらの現象を「遠い世界の話」と片づけられないほど身近で深刻な影響が、日本の農業・農村にも迫りつつある。たとえば、樹木の立ち枯れ、鳥獣害の増加、用水の枯渇、害虫の大発生、米の乳白化、ミカンの浮皮症、ブドウの着色障害など。最近の原油高騰による燃料代・資材費・運賃などの値上がりも、農業・農村と無縁ではない。
◆「できること」から行動する
農村の暮らしと農業を担っているJA女性部としては、この問題にどのように取り組んでいけばいいのだろうか。
日々の家事や子育てに追われて、昔ながらの農業を続けているだけでは、農村の暮らしと農業はますます窮地に追い込まれていく。そうかといって、大上段に構えて、地球温暖化や石油資源問題をまともに取り上げても、目に見える成果は期待できないだろうし、女性部員もついては来てくれないだろう。
先の本のなかでメドウズが提案しているのは、「持続可能な道」への軌道修正。そのために、「地球規模で考え、足元から行動を!」と呼びかけている。
つまり、次世代に大きなツケを残さないように、広い視野、長期的な視点で世の中全体の動きを見つめ、将来の見通しを立てることだ。といっても、それだけでは何も変わらないから、自分でできること、家庭でできること、仲間でできること、地域でできることを考えて、やれることから行動に移していこうというのである。
実際、2001年に急逝するまで、メドウズは環境保護運動の支援のために世界中を飛び回る一方、バーモント州に約100haの土地を購入して仲間と一緒に「カブ・ヒル村」を建設し、有機農業とエコライフをみずから実践してきた。
◆農村の「資源」を見直そう
この言葉をよく噛みしめてみると、JA女性部として環境問題に取り組むべきスタンスがはっきり見えてくるはずだ。
まず、農業・農村が抱えている問題と農村が持っている主な資源の現状を、環境全体の視点から見直すことから始めよう。
たとえば水資源。日本の年間降水量は1700oで世界平均の約2倍だが、人口1人当たりにすれば4分の1に過ぎない。これまでは全使用水量の約7割を農業で使ってきたが、地球温暖化によって水不足が深刻化すれば、生活用水や工業用水との熾烈な水争いが始まるだろう。これからは、限られた水資源を繰り返し有効に使う「節水型農業」の時代になるだろう。
エネルギー資源に目を向けると、肥料・農薬・資材から加温ハウス・農機具・保冷庫に至るまで、いまや石油なしに農業は成り立たない。しかし、今後原油価格が下がる見込みはほとんどないし、再生不能な化石燃料だからいずれ尽きる。農業においても、再生可能な資源への切り替えを進めていくことは避けられない課題なのだ。
◆暮らしと農業の無駄を省く
このような農業・農村の環境問題を解決する突破口としては、まず、無駄をなくし、繰り返し使い、リサイクルをすることだ。
たとえば、Aコープや直売所で使うレジ袋は、マイバッグやマイカゴを用意すればすぐにも削減できる。大量の生ゴミを堆肥化して農地に戻すには大型プラントが必要だが、家庭の生ゴミや落ち葉を小型コンポスターで家庭菜園向けの堆肥にするのは簡単に始められる。水路にたまった汚泥や水草などを集めて、有機肥料にしてもいい。
石油依存の農業から脱却するには、土づくりから始めて、化学肥料・農薬を減らし、無加温施設を活用しながら季節に合った旬の農産物を栽培することだ。特定品目の大量生産より、少量多品目の通年生産を考えよう。品目選びでは、食べきりサイズのミニ野菜もお勧め。少子高齢化のいまは世帯人数の平均が2.6人だから、調理しやすくて食べ残しが少ないミニ野菜はこれからの売れ筋だ。
収穫した農産物は、ファーマーズマーケットや直売所に出荷しよう。「フード・マイレージ」(食料品の重量に輸送距離を掛けた数値)の圧倒的に少ない「地産地消」の販路だから、環境への負荷もきわめて小さい。包装資材はポリフィルムをできるだけ避け、テープや紙による簡易包装を心がけよう。
増え続ける遊休農地も、農村資源の大きな無駄である。これを解消する決め手は「セミプロ農家」の育成。大量定年期を迎えた団塊世代のリタイア層などを農村に呼び込んで、JAが主催する体験農園や農業塾を通じて「セミプロ農家」に育て、遊休農地を斡旋しよう。収穫した農産物はファーマーズマーケットや直売所に出してもらう。これで、遊休農地問題は解決し、高齢化と過疎化に悩む農村に活気が戻ってくるはずだ。
◆再生可能な資源を活かす
農村には再生可能な資源がいっぱいあるから、これを最大限に活用して、暮らしと農業に役立てよう。
化石燃料に代わるエネルギー資源として、水や太陽光や風を利用した発電を考えてみよう。そのひとつが、農業用水や生活用水を利用した小水力発電。大きな電力需要には無理だが、天候に左右されることが少ないから、家庭内の照明や外灯、鳥獣害から農産物を守る電気牧柵にはうってつけだ。
太陽光発電や風力発電は高価で天候に左右されやすいが、最近は小型で高性能のものが増えてきた。このほかに、畜産ふん尿から発生するメタンガスを使って発電するもの、おがくずや間伐材を燃料として発電するものもある。
最近話題のバイオディーゼル燃料は、植物性油脂を加工したもの。大気中の二酸化炭素を増やさない燃料として期待されている。日本では、家庭や飲食店などから出る食用廃油を原料とするものが多いが、遊休農地で栽培する菜の花を使うものも増えてきた。今後は、稲わらやもみ殻も原料として活用できるだろう。
山間部の農村では、木くずや間伐材をペレット化した燃料が使える。これまでは家庭用ストーブでの利用が中心だったが、園芸用ハウスの暖房用として活用できるものも出てきた。
一方、寒冷地の農村では、やっかいもの扱いの雪を活かした貯蔵庫などで、越冬野菜としてブランド化するところが登場してきた。
◆持続可能な暮らしと農業を
こうしてみると、農村には農地、樹木、生物、水路、太陽光、風、雪など、これまで注目されることのなかった隠れた資源が、身近なところにたくさんあることに気がつく。そのなかから持続可能な暮らしや農業にすぐ使えそうなもの、簡単にできそうなことを見つけだし、そこから一歩を踏み出すことが大切だ。
1999年の「持続型農業促進法」以来、これまでに約13万人が「エコファーマー」に認定されている。これからは、「エコライフ」と「エコ農業」をみずから実践し、持続可能な農業・農村を次世代に継承していくために、JA女性部員が率先して取り組もうではないか。
エコライフの知恵(事例)
・廃材やおがくずをペレット化して暖房に利用(北海道足寄町)
・風力発電・太陽光発電などで町内電力を自給(岩手県葛巻町)
・菜の花栽培でバイオディーゼル燃料を製造(秋田県秋田市ほか)
・屋根に設置した太陽光発電を井戸ポンプに利用(埼玉県小川町ほか)
・生ゴミを培養土にして家庭菜園に供給(新潟県長岡市)
・間伐材や木くずをバイオマス燃料発電に利用(岐阜県白川町ほか)
・お茶殻を利用して消臭剤や入浴剤に再生(静岡県川根本町)
・古新聞を回収して断熱材に利用(山口県下関市)
・食用廃油をバイオディーゼル燃料に精製(佐賀県伊万里市ほか)
・家庭菜園で作った大豆で伝統の豆腐を製造(沖縄県那覇市)
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エコ農業の知恵(事例)
・貯雪庫で貯蔵した米や野菜をブランド商品化(北海道沼田町)
・畜産ふん尿をメタンガス発電と施設農業の液肥に利用(岩手県藤沢町)
・木質ペレットを園芸用ハウスの暖房装置に利用(山形県酒田市)
・食品残さを発酵ペレット肥料にして有機稲作(山梨県北杜市)
・用水利用の小水力発電を鳥獣害除けの電柵に利用(長野県中川村)
・雪下に保存した「越冬キャベツ」を特産品化(長野県小谷村)
・水車を利用した製茶工場で無農薬紅茶を製造(静岡県藤枝市)
・量販店の食品残さを堆肥化して「エコ野菜」を栽培(愛知県稲沢市ほか)
・豆腐製造で出るおからを堆肥化して農家に供給(京都府加悦町)
・用水路の汚泥や水草を有機肥料として活用(佐賀県佐賀市)
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「風をつかんだ町」北緯40度ミルクとワインとクリーンエネルギーの町
岩手県岩手郡葛巻町
岩手県北部、四方を1000m級の山々に囲まれた葛巻町は、人口8000人に対して乳牛が1万2000頭という東北一の酪農の郷だ。いまこの葛巻町がクリーンエネルギーの町として注目されている。風力をはじめバイオマスや太陽光など「再生可能エネルギー」(クリーンエネルギー)を積極的に導入し、エネルギー自給率が約8割という驚異的な数字を達成しているからだ。
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グリーンパワーくずまき風力発電所 |
葛巻中学校太陽光発電 |
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畜ふんバイオマスシステム
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木質バイオマスガス化発電設備 |
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