JA全中はこのほど女性担い手が農業経営に参画しパートナーとともに地域農業、家族経営の主役として活躍している先進事例を紹介するDVDを制作した。「生産」だけにかたよりがちだった農業が女性の担い手の参画によって、マーケティングや生活の視点を取り込み、楽しい農業、消費者とのふれあいのある農業、そして経営的にも魅力ある農業を実現している姿が描かれている。 |
販売は女性にお任せ
このDVDには本号のフレッシュミズの座談会(記事参照)に参加してもらった埼玉県鴻巣市の小林町子さんも登場する。小林さんは夫の洋一さんとともに水田農業を営むほか、ハウスで花の栽培をしている。田植機やトラクターなどを自在に乗りこなす町子さんの姿や、体験農業で田んぼにやってきた子どもたちに「この田んぼがおばちゃんの職場」などと語りかける様子も紹介される。
洋一さんは集落営農を組織して米、麦の大規模生産をめざしたいと語るが、町子さんは花の直売の経験をふまえて、消費者が求める品質を重視するなら「面積を広げて目が行き届くだろうか」と話す。
「人間の目の数には限りがある。粗悪な商品になれば単価は下がる。安いものをたくさん作って倍働いてどうするの? と思うんです。それよりも自分のところにしかない特徴あるものを少量生産したほうがいい」
DVDでは女性たちが販売部を作り、生協の店舗で作ったコメを消費者に宣伝する活動も紹介される。「女性は消費者と生産者の(立場の)バランスが分かる。消費者の気持ちをつかめないと販売はうまくいかない。女性のほうがうまくいく」と町子さん。夫の洋一さんも「一級品を作れば生き残れる」と話し、そのためには「こっち(町子さん)は販売係、こっち(洋一さん)が生産係」と高品質なコメづくりに向けてきちんと役割分担するようになったと強調する。
将来は地域の食と農に関連する農産物や加工品、工芸品などさまざまなものを扱う直売所の開設が夢。「60歳からでも夢に向かってスタートできる」と農業の魅力を語る。
100ha経営めざすサユリ・プロジェクト
滋賀県の湖北町で法人の共同経営者として活躍する田中小百合さんも登場する。田中さんは大学卒業後に法人に参画した。前身は2つの集落をまとめて組織されていた木津農園。代表の木津治さんは「若い人を思いきって抜擢し後継者を育てることで日本農業は大きく変わる」との考えから、母とともに中学のときから農園でときどきアルバイトをしていた小百合さんに地域農業の将来を託し、信用を得るためには法人化が必要と(有)ニューファームSAYURIを設立した。
現在は80ヘクタールでコメ、麦、大豆を作る。ラジコンヘリを自在に操作する姿に今では「誰もが認める中核農家」だという。
小百合さんの指示で農作業をするのは60代、70代の男性たち。環境に優しくおいしい米づくりをめざし「土に生きるさゆり米」として湖北をピーアールするブランドに育てることをめざしている。
「普通のどこにでもいる女の子がバリバリと農機に乗っていれば、私でもやれるんじゃないかという人が増えると思う。地域に密着し地域の人に信頼される農園づくりが目標です」と語る。木津代表も農地の環境を守り大事に扱っているため、地域の地権者も「この子に任せれば大丈夫だ」という気持ちになっているという。木津さんは近江商人の考え方「三方良し」を引き合い出し「相手良し、自分良し、地域良し」ができあがってきたと語る。
夢は100ヘクタール経営。「生涯続けられる仕事として成功することが目標。日本農業を背負う一員になりたい」と小百合さんは語る。
子どもたちの未来のために
福岡県宗像市の福岡県稲作経営者会議パートナーの会では、子どもたちにおいしいご飯を食べてもらおうと「みそ汁キャラバン隊」をつくって活動している。
活動のきっかけは女性たちがさまざまな研修に参加したことだった。自分たちでコメの消費を拡大する消費者との交流活動が大事との自覚が生まれた。
パートナーとともに取り組む交流活動で顔の見える農業を展開、「やりがいがある。自分が社会の一員として認められたという実感が出てきた」という。
今ではJAへの出荷とともに直売も経営の大きな柱となっているが、販売、配送や経理は女性の仕事。販売で接した消費者の要望をコメづくりをする男性に伝えるのも大きな役割だと話す。
グループの一人、瀧口玉代さんは農業経営に必要なのは「心の健康、体の健康、経営の健康」の「3つの健康」がそろうことだと語る。このどれかひとつが先行するのではなく、それぞれ並行して進んでいないと「一歩も前には進まない」。
心の健康のなかには農業を続ける意味をしっかりと考えることも含まれる。瀧口さん夫婦は「子どもたちの未来のために」農業を維持していくことだと考え、消費者との田んぼの生き物調査など「農の応援団」を育てる活動にも取り組んでいる様子が紹介される。
DVDではこうした活きいきと活躍している女性農業者を紹介し「あなたは誰とどのような農業をしていきますか。子どもたちの未来にどのような農業をつないでいきますか」と問いかけている。
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