いま都会で暮らす消費者は、食や農についてどのように考え、何を思っているのか。そのことを知ることは、生産者にとってもこれからの農を考えるうえで大切なことではないだろうか。そう考えて本紙では、消費者である4人の女性にお集まりいただき、食と農について忌憚なく話し合っていただいた。 |
生産者の思い、消費者の感謝の気持ちが伝わる交流を
◆生産者から教えられた野菜の見方
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石井和子さん(いしい・かずこ)
お茶の水女子大卒。敗戦2年前、両親の待つ満州へ祖母と行く。僅か2年間の満州生活を経て、敗戦1年後に引揚者として帰国。TBSテレビに入社、番組制作プロデューサーとして定年まで勤務。
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秋 まず初めに食とか農について日ごろどう思っているかからお話ください。
土肥 いまは長野県の飯田に住んでいます。名古屋から引越して10年以上経ちます。住んでみると、季節や気候など知らないことがよく見えてきます。とくに養豚、野菜、果樹の生産者が身近にいますから、食への関心が高くなりましたね。
秋 都会から農業が周りで行わている所に移ると見方が変わりますか。
土肥 すごく変わりました。都会に住んでいたときは情報や知識を基本に考えていたのが、実際に農業が営まれている所に住むと直に触れるので考え方は大きく変わりましたね。
秋 石井さんは東京でずっと生活されているわけですね。
石井 私は東京に生まれて東京で育ってきて、東京以外は知らないという生活ですね。ただ、まだ会社勤めをしているときに、八ヶ岳山ろくに家を建て、週1回はそこに通うという生活を20年ほど続けました。そのときには野菜とか牛乳はご近所の農家から買っていました。キャベツって採ると下から水がぽとぽと滴るということを初めて発見しました。それは新鮮な驚きでしたし、野菜に対する見方を教えられましたね。
定年を迎えたら八ヶ岳で晴耕雨読と思っていましたが、ここでは何をするにも車がなければ生活できないので、いまでも東京に住んでいます。(笑)
◆旬のものを食べるのが一番おいしい
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土肥千恵子さん(どい・ちえこ)
三重県出身。現在、夫の仕事で、飯田市に在住、主婦業と障害者の自立支援の仕事に関わっている。
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秋 一番若い奈緒さんはどうですか…
仲代 私も生まれたときから東京です。ただ、私が住んでいる世田谷は緑が多く、周りにはまだ畑があって採れたての野菜を売っています。母も自然食が好きで食べていたので、私もそういうことを気にします。生きていく上で源になるのは食べ物なので、変なものは食べたくないし、飲みたくないですね。だから、子どもの頃からファストフードは嫌いで、なるべくなら自分でつくって食べたいなと思っています。
秋 野菜は農家から買うわけですね。
仲代 スーパーもありますけど、美味しさがまるで違います。そのときの旬のものになりますから、夏だとキュウリばっかりになったりしますけど、食べ比べてみると美味しさが分かりますし季節のものは体にもいいものですネ。
秋 そういう野菜が手に入る環境だといいんですが、そうではない環境も多いですよね。石井さんは一人暮らしですが、一人も大変ではないですか。
石井 一人でも食事は命の源ですから、日に三度はキチンといただくようにしています。買い物をするときに、楽なのはスーパーですべてを買い揃えてしまうことですが、私はできるだけ野菜・果物は八百屋さんで買います。専門店が最近は少なくなっていますが、私が住んでいる東中野近辺はまだ、八百屋さんとか魚屋さんが残っています。八百屋さんも馴染みになるとキャベツや葉つきの大根を半分とかでも売ってくれます。
秋 野菜とか使い残しがでますよね。
石井 そうなんですね。捨てるのはもったいないので、スープにして食べたりしています。
◆自分の作った料理には賞味期限はない
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仲代奈緒さん(なかだい・なお)
東京都出身。91年に「きっと忘れない」でCDデビュー。以降、音楽活動、ミュージカルを中心とした舞台で活躍。主な出演作に「GODSPELL」「スクルージ」「森は生きている」「バット・バーイ・ミュージカル」「黄昏のメルヘン」がある。
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秋 ここ数年、食品の表示の偽装の問題が賞味(消費)期限の偽装のみならず、あきたこまち100%といって中国産の米を混ぜたり、コシヒカリに古米を混ぜたりと、お米の産地偽装も多かったんですが、こういう問題をどう思いますか。
土肥 ああ、またか、という感じですね。私は作る人が見えるものをできるだけ買うようにしています。確かに都会で生活していると生産者が見えるものは難しいと思いますが、「私が作りました」と顔写真をつけて表示されているものもあり、この人が作っているならという安心感がありますね。だから消費者も「ここなら安心」といえるように一歩踏み込んだら、売る側も偽装しにくくなるのではないかと思いますね。
仲代 賞味期限は昔は表示していないものが多かったと思います。その当時は、私の祖母もそうですが食品を自分の目で鼻で確かめて、これはまだ食べられるとか、これは危ないとか判断していましたね。そして例えば鏡餅なら、初めは焼いて食べますが、かたくなると水につけ、最後はそれを干して細かく砕いて揚げたりして食べました。カビが生えると包丁できれいにけずって。いまはカビが生えたら捨ててしまっていますよね。そう考えると、賞味期限を偽装することは悪いことですけど、本来は賞味期限内でも過ぎていても自分で確認すべきことではないでしょうか。
秋 目で見て分かる生ものではない加工食品の場合、目安となる賞味期限が必要ですが、確かに今の人は、そういう判断力が足りませんよね。
仲代 愛情をもって野菜をつくったり、牛や豚を育てていれば、偽ることは嫌だと思いますね。そして、食べる人もそのことを感謝する。それが自分のことだけを考えているから偽装するんで、根本に愛情が足りないんです。
自分の作った料理には賞味期限はありませんよね。
土肥 食べ残したら火を通すとかしますよね。
秋 ご飯も味が変わりそうになったら、一度洗ってお粥にするとか、そういう工夫がいまの都会の人には足りませんね。
石井 それは感じますね。妙に賞味期限にこだわる若い人がいますね。
土肥 友人の子供ですが、東京から帰ってくると冷蔵庫を開けて賞味期限が切れている食品を全部出してしまうそうです。
秋 賞味期限にそれほど敏感に反応するのは、情報への妄信ですね。自己責任で生きる自信がないからでしょうかね。
土肥 私たちの子どものころは食べ物は貴重でしたから、手を換え品を換えいろいろなパターンの調理をして食べさせてくれましたね。ひょっとしたら賞味期限が切れていた食材を調理していたかもしれませんが、とくに問題はありませんでしたね。
仲代 夜中の12時1分前と1分過ぎでなにがどう変わるんでしょうね(笑)。
◆消費者の国産を大事にする感覚を育てる
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秋 貞淑さん(ちゅ・じょんすく)
コラムニスト。韓国・ソウル出身。東京都在住。東京外国語大学大学院修士課程で日本古典文学専攻、東京大学大学院博士課程で言語情報科学専攻。コラム「源氏物語の和歌」(『人物で読む源氏物語』全20巻、勉誠出版)をはじめ、『源氏物語』及び日本古典文学関連の研究論文・コラム多数。
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秋 土肥さんはお米はどういう買い方をしているのですか。
土肥 共同購入で買っています。年間購入なので冷害などでお米がなくなったときも入ってきました。生産者が見え、作り方も分かっていますので、割高ではありますけど、安心料だと思っています。
秋 今は米価が下がっていますし、お米も余っていますが、いつまでもこの状況が続くとは限りませんからね。契約して購入するのは、安全と安心が得られていいですね。
石井 一人暮らしだとお米を消費する量がとても少量なんですね。しかもご飯をいただくのは夜だけという習慣になっているので、1週間に2カップを炊飯して、6食分に分けて食べています。買うのは近くのお米屋さんでその場で精米してもらって冷蔵庫の野菜ケースで保存しています。多少割高でも国産米を食べたいと思いますし、輸入米が入ってきていることはとても残念だと思います。
土肥 本当にそうですね。
石井 いま地元の野菜を地元で売る直売所などのシステムがありますね。何段階かの流通を経ないで売っているから安くて新鮮なものが買えるわけです。そういうシステムが国内全体でできればいいなと思いますね。
それからとてもおかしいと思うのは、真冬でもトマトがあったり、1年中同じ野菜が売られていることです。これは本当は不自然なことだと思います。八ヶ岳へ行ったときに農家で曲がったキュウリとか凸凹なトマトを買うと、その野菜本来の味がして美味しいですね。キュウリは真っ直ぐなものと思い込んでいる主婦の感覚がおかしいのではないかと、このごろしきりと思います。天然・自然の恵みにあふれた野菜を直接購入できるルートができないかなと思いますね。
秋 食料の自給率が4割をきったということは、単なる国内生産力の低下によることではなく、市場開放による価格競争なども大きく影響していると思いますので、家計の負担が少し増えても、その負担分は食材の無駄を省くなどで補い、消費者が国産を大事にする感覚を育てることが、国内農業の活性化に寄与できると思いますね。
石井 秋さんはどこでお米を買っているんですか。
秋 私はJAのホームページを見て、今度はここのJAのお米にしようとか楽しみながら買っています。
仲代 私はとてもお米が好きで、1日1度はご飯を食べたい人なんです。舞台の稽古などで忙しいとコンビニのおにぎりを買ったりするんですけれど、ある期間それが続くと突然嫌になって、自分で玄米を炊いておにぎりにして持っていきますね。精米したてが美味しいので精米機ももっているんですよ。だから玄米で買ってくるんです。実父が千葉の田舎に住んで自給自足をしていてお米も作っているんですね。そのお米を誕生日に毎年5kg送ってくれるんですが、愛情がこもっていますし美味しいので、1粒も残さずに食べるようになりましたね。土肥さんのように地元でお米が作られているのは羨ましいですね。
土肥 生産者が見えることが一番安心できることですね。そして地元で消費することは生産者にも励みになるのではないですか。
仲代 そういう中では偽装なんてできませんよね。
土肥 お米の味の違いが分かったときに「美味しいお米が食べられて幸せです」という手紙を書いて出したんです。そうしたら「とても励みになります」という返事がきました。
秋 消費者がもう少し積極的に発信するといいと思いますね。
◆多少割高でも納得できれば国産を買う
秋 土肥さんのように農村地域で住んでいると食費の値上がりとかはあまり感じないですか。
土肥 季節外れのものとか地元であまり消費されないものはスーパーで買いますから、値段が上がっていることは分かります。生産者が手間をかけて安心できるものなら多少高くても納得できますね。例えば、ほうれん草は100円ぐらいだと思っていますけれど、霜が降りる頃の甘くなったものなら、高くても納得できますね。
秋 つい最近、近所にあったパン屋さんが、小麦などが高くなってやっていけないといって店を閉めました。原油価格の高騰は、輸送費をはじめ食品加工費などにも影響があり、もう輸入食品だから安いとはいえなくなってきています。
土肥 輸入だから安いとはいま必ずしもいえなくなりましたね。
秋 値段だけではなく、海外からの食材がいつまでも今のように入ってくるという保障はないので、消費者の方も当事者意識をもって、国内農業の活性化を真剣に考えなければならないと思います。ちなみに、JAのホームページを見ると、開店休業状態のようなものも無きにしも非ずです。これからの時代のことも考えて、生産者と消費者との交流の場を設けるなど、JAのホームページもその活用法の工夫が必要ではないかと思いますね。
土肥 私たちが、こういうものなら少し高くても買いますよというメッセージを送れば、がんばってもらえますよね。
秋 スーパーに行くとキャベツやレタスなど、野菜の外側の葉を何枚も剥がして捨てるのをよく目にしますが、もう少し大事に食べてほしいと思いますね。
石井 若い人が面倒だというので、大根でも葉を落としたものと葉付が並べて売られていたりしますね。
仲代 葉が付いていれば新鮮かどうかがすぐに分かりますよね。だから葉が付いている方が安心できます。
土肥 野菜ではありませんが、味噌とかジャムが防腐剤とか入っていないはずなのに、かなり経ってもカビが生えないのがありますね。
秋 生きているなら変化があるはずですよね。
仲代 本当にカビが生えたものを最近は見ませんね。知人の手作りのクッキー屋さんは、お客さんに「カビが生えないうちに食べて下さい」と言ったら「カビの生えるようなものはいらない」と買わなかったと嘆いていました。
石井 自分で作って忘れていてカビが生えたのはありますけれどね。
秋 正体の分からない添加物が体に蓄積されるのは怖いですが、人間の体にはある程度の自浄能力はありますから、少しのカビは大丈夫かもしれませんね。なお、韓国では、食べ物は薬であるという、いわゆる医食同源の考えが今も根強く残っていて、例えば、風邪気味だったら緑豆のお粥を食べて熱を下げたり、胃もたれのときにはエゴマのお粥を食べて胃を宥めたりしますね。話は逸れますが、野菜や果物などが、旬と関係なく1年中出回ってしまいますと、俳句の季語など、どうなってしまうのでしょうね。
仲代 分からなくなりますね。秋さんがいわれた薬膳のようなものも、夏なら体を冷やすものだし、冬なら体を温めるとか、その時期にあった食材を使いますよね。だから薬にもなるのだと思いますね。
(「座談会 消費者の視点で考える今日の食と農 その2」へ)
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