子豚が、キャベツ畑で昼寝をしたら、〃とんかつ〃になった夢を見た。という落語の話しを覚えている。
とんかつといえば〃キャベツ〃というように、つけ合わせの定番になったのは、明治時代、東京は銀座の洋食屋「煉瓦亭」を経営していた木田元次郎さんに始まるといわれている。
木田さんは、洋食がまだ珍しかったころ、とんかつの付け合わせに、白菜の漬物や、ジャガイモ等と色々工夫してみたが、結局、さっぱりとして、食べやすいキャベツが一番相性が良いということになったそうである。
キャベツは、とんかつの付け合わせだけでなく、漬物、ロールキャベツなど用途は広い。農産物粗生産額でも、農林水産省発表の生産農業所得統計によると、平成10年で第16位、1300億円と、ほうれん草や、りんごとほぼ肩を並べている。
キャベツといえば、とんかつのほかに、もう一つ、森繁久弥さんがCMに登場する胃腸薬〃キャベジン〃を思い浮かべるひとが多い。
キャベジンは、ビタミンUの別名であるが、キャベツの仲間であるアブラナ科の野菜に多く含まれており、胃の潰瘍(かいよう)の治癒(ちゆ)に著効がある。
ビタミンUのUは、ulcer(潰瘍)の頭文字からきており、その効果は胃酸の分泌を抑え、胃腸の粘膜を丈夫にし、細胞分裂やタンパク合成を促進する作用がある。
その他、ビタミンUには、肝臓の働きを活発にしたり、肝臓に脂肪が付着するのを防いだりする機能もある。
キャベツには、ビタミンU以外、ガン細胞になる一歩手前の傷付いた細胞の増殖を抑える「フェニルインチオシアネート」という成分も含まれている。
さらに、カロチン、カルシウム、良質な植物性タンパクや、食物繊維なども多量に入っており、便秘や整腸に効果的!
という次第で、食べ過ぎ、飲み過ぎの読者諸氏には、キャベツを毎日食べるようお薦めしたい。
以上の講釈のネタは、先般所用で福岡に行ったとき、中州でふと飛び込んだとんかつ屋に置いてあった「とんかつとキャベツ」と題したパンフレットからである。
その店の名は「知多家」であったが、農林水産省の前掲書によると、キャベツは、都道府県別で、愛知県の場合、全国の作付面積第1位、収穫量第2位、出荷量第1位となっており、まさに「キャベツ王国」である。知多屋さんも、きっと愛知県の知多半島の出身ではなかろうか。
受け売りを続けると、キャベツの原形は、「ケール」といって、古代地中海沿岸でよく栽培され、ギリシャ人も愛用したという。その後、ヨーロッパに広く伝わり改良されているが、日本には、江戸時代半ば、長崎の出身に住むオランダ人によって伝えられた。
当初は、観賞用の「葉牡丹」が主で、食用としての結球キャベツが本格的に入ってきたのは、明治以降である。
その呼び名も「玉菜」(たまな)、あるいは「甘藍」(かんらん)であって、英語のcabbageから「キャベツ」といわれるようになったのは、戦後の昭和20年代からのことである。
キャベツの祖先「ケール」、結球せずに、中心の葉を赤や白く色づくようにしたのが鑑賞用の「葉牡丹」。つぼみが肥厚したものが「ブロッコリー」、それが白化したものが「カリフラワー」である。
以上のケールの子孫たちのほか、大根、白菜、カブ、高菜など、全てアブラナ科(ナノハナ科)に属する野菜である。
戦前の小学唱歌に出てくる「菜の花畠に入り陽落ちて」の「菜の花畠」は、日本の農村の原風景であったことが思い出される。 (MMC)
|