1月1日付の朝日新聞に、「旧暦、新世紀に復活」と題した記事を見かけた。
記事によると、昨年ある雑貨店で「今年は夏に閏月が加わる。長い夏になるはずだ」と予想して、夏物の販売期間を延長したら、見事に予想が的中した。また、関西のしにせの料亭では、食材を本当の旬の時期に仕入れようと、旧暦のカレンダーを活用している。
バブル期に落ち込んだ旧暦カレンダーが、景気の落ち込みとともに、とみに復活しているともいう。
旧暦でいくと、新暦の1月1日は11月18日でしかなく、本当の正月は2月12日である。現に横浜の中華街は、この日が「お正月」として賑わう。特集の表題「スローでいこう」の主旨にあっている。
一太陽年を基準とした太陽暦は、遠くエジプトに起源を持つが、現行のは1582年に始まる「グレゴリオ暦」である。
それが日本に導入されたのは1872年(明治5年)11月9日の改暦の詔書によるもので、新暦の採用に伴い、明治5年12月3日を6年1月1日とするものであった。
太陰太陽暦から太陽暦に切り換わって130年あまり経過しており、神宮暦や農事暦などに載っている旧暦は、一部の人が利用しているに過ぎなくなっているが、冒頭のように、突如として朝日新聞に「復活!」と出ていた。
太陰太陽暦と称する旧暦は、太陰である「月」の朔→望→朔の29・53日の周期を基準に、1年12カ月が30日と29日が交互にくることで組み立てられている。その結果1年は354日で一太陽年の365日より11日ほど短い。
そこで、19年間に7回ほど30日の閏月をはさみ、季節とのズレを修正している。
ところで、月の朔望は、社会生活や生物の営みに与えている影響が、想像以上に大きい。そのいくつかを挙げてみると、
(1)ダイエットの実行は、満月から欠けていくときのほうが効果が高い。逆に月の満ちていくときは、生命力がみなぎり、ダイエットの時期には適さない。
(2)アオウミガメ、クサフグ、サンゴなどは、6月の満月の夜に一斉に産卵する。
(3)むかしは、満月の夜、反対に朔の闇夜にも祭りが多かった。情報伝達手段が乏しかった時代は、月の満ち欠けで祭日を知らせた。
(4)満月は半月の12倍もの明るさがあるといい、気分を異常に高揚させる。英語のlunatic(狂気)も、ラテン語のluna(月)からきた。
(5)満月、朔の大潮の時期は、仕事の能率が20%もあがるという。逆にその中間の時期は海が静かで、採草などに適している。
(6)満月に向かう時期は、安産になりやすい。
(7)満月のときには病気にかかると治りにくい。
月の出は、49分ずつ遅くなり、新月は日の出とともに昇るが、15日後の満月は日の入りとほぼ同じころ、東の空に姿を現し、お月見には格好の時間となる。
むかしのひとが、十五夜に続いて、十六夜(いざよい)、立待月、居待月、寝待月、更待月と称したのは、月の出が1日ごとに遅くなっていく情景をよく表している。
旧暦に記載の六曜(先勝、友引、先負、佛滅、大安、赤口)は、例えば4、10月1日は必ず佛滅で、5、11月1日は大安で始まりあとは前述の順序にしたがって繰り返されるので、旧暦で生活している人にとっては、極めて分かり易い。因みに、中秋の名月の8月15日は、例外なく佛滅なので、結婚式は少ない。
夜通し明るい電飾のもとで暮らし、月の満ち欠けも、星の輝きも忘れがちな現代人にとって、「旧暦復活」は、自然回帰への良い機会ではなかろうか。(MMC)