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コラム
大宇宙・小宇宙

93年前の入試

 2月は入試シーズン。受験生たちは喜びの涙を、あるいは無念の涙を流したに違いない。 受験生たちの闘いの模様を伝えるために、朝日新聞は2月22日付の朝刊で、都立高校入試の国語、理科、社会、英語ならびに数学の問題と解答を特集している。
 むかしの話しになるが、筆者の手元に、明治42年(1909年)の海軍兵学校の入試の原本がある。海兵は戦前の海軍士官の養成校で、旧制中学4、5年生が受験できた。
 現在の学制6・3・3・4と異なり、戦前のそれは、6・5(4)・3・3であったので、旧制中学の4年といえば、新制高校1年に相当する。
 ただし、海兵の入試は前年の7、8月に実施されていたので、実質的には、いまの高校受験と変わらない年齢である。
 明治42年といえば、徳川の鎖国時代が終わり、西欧の近代文明を受け入れて、半世紀もたっていないのであるが、驚くことに、海兵入試問題を見ると、今年の都立高校のそれよりも、ずっと大変に思える。
 試験は、15科目、10日間、延べ30時間余にわたるもので、「代数、英文和訳、平面三角、算術及英文法ノ五科目ニテ試験継続者ヲ定ム」とあり、生き残った者のみ後半戦に臨んだ。その6日間は連日4〜5時間の死闘が続き、よほどの精神力と体力の持ち主でないと、途中でギブアップしたに違いない。
 残る10科目というと、図画、地理地文、化学、幾何、国語・漢文、物理、和文英訳、作文、それに歴史であり、今年の都立校入試の5教科と比べると雲泥の差だ。
 試みに、英文や数式の複雑なものを除き、比較的簡単なものの一部を紹介してみよう。
(代数)log12.5ヲ求ム。但しlog2=0.30103トス
(用器画)直径二寸高サ二寸五分ノ直円柱ノ軸ガ水平画面ニ垂直ナル時、投影画ヲ求ム
(算術)長サ五呎(フィート)、厚サ三呎ノ直六面体ノ銅塊アリ、之ヲ一辺二寸五分ノ立方形ニ改鋳セバ幾個ヲ得ベキカ 一フィート=1.006尺
(地理地文)次ノ語ニ就キテ説明スベシ:貿易風、親潮、緯度、夏至
(化学)四九○グラムの塩素酸加里ヨリ何グラムノ酸素ヲ得ベキカ 但原子量ハ O=16、Cl=35.5、K=39トス
(幾何)円ノ中心ヲ求メズシテ其円周上ノ一定点ヲ過グル切線ヲ引ケ
(国語・漢文)次ノ条項ヲ解釈スベシ:断金ノ交、羊質虎皮、胸中有閑日月
(物理)レンズノ焦点距離トハ何ゾヤ。望遠鏡ノ理ヲ図解シ説明セヨ
(和文英訳)此節デハ野球ノ試合ヤ端舟競漕ヲヤラナイ学校ハ滅多ニナイ
(歴史)十字軍ノ動機及ビ其影響如何
(作文)武士道(四百字以上)
 合格者は150名、秀才中の秀才が選ばれたにしても、感心するのは、当時、いまのように参考書も事典の類も十分でなく、英才教育をできる塾なども、その数は極めて貧弱であった。 
 一方、以上のような問題に対応可能な中等教育が、すでに全国的に一般化していたことである。
 あらためて、「明治の偉大さ」に触れる思いがする。    (MMC)


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