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コラム
大宇宙・小宇宙

境(さかい)は 諍(いさかい)のもと


 野生動物の多くが、原野や岩場あるいは川の中で、餌場や子育ての場を確保するため、自分のテリトリー(縄張り)を持ち、侵入してきた仲間を追い払う。
 人間社会もテリトリーをめぐり、個人間、市町村間あるいは国家間などの紛争が絶えない。
 親しかった隣人どうし、境界線の争いで絶交状態になった話をよく聞くし、水源地や山林の所属に基因する村境の騒動も数多くある。
 国土地理院発行の「全国都道府県市町村別面積調」を見ると、県間の境界未定のため、半分以上の都道府県の面積が確定できない。
 例えば、青森・秋田両県にまたがる十和田湖の水面、干拓で新たに生じた土地、富士山頂のようにむかしからの争いで未解決の場所等々、諸種の理由で境界が未定のままとなっている。
 単一県内での市町村レベルでの境界未定地域は、さらに数え切れないほどある。とくに東京湾内のお台場周辺の新たに生れた土地については、湾に面した各区が、自区に帰属すべきだと主張して止まない。
 これが国家間の境界争いになると、戦争の火種ともなる。「国境は国家という生態の一部で皮膚のようなもの」といわれているが、外部からの刺戟に対し、極めて敏感に反応する。
 ヨーロッパのように河川を国境としている場合、河道が大洪水などで変ることがあり、その都度、当事国間で国境を再確定するという面倒な問題が生じる。さらにライン河のように大型船が航行するところでは、航行の便益上、河道の一番の深みを選ぶという手間が伴う。
 平和裡に終ればよいが、いまも世界各地で領有をめぐっての殺りくが絶えない。カシミヤ織りの発祥の地で「南アジアのスイス」と呼ばれたカシミール地帯も長らく紛争の渦中にある。
 パキスタン側がインドに属しているジヤム・カシミール州を、住民の大半がイスラム教徒であるとして、その引渡しを求めているのに対し、インド側は大国のメンツにかけてそれを拒否している。
 この夏にも地中海の小島の帰属で、スペインとモロッコが軍隊を出動させて争った。
 なかでもイスラエル・パレスチナ紛争は世界の耳目をもっとも集めている。ユダヤ教徒にとってモーセの十戒を刻んだ石板を納めた神殿跡の「嘆きの壁」、そしてイスラム教徒にとってはマホメット昇天の場に立つ「岩のドーム」が所在するこの地は、両者にとって譲り難い「聖地」である。
 日本も北方領土や竹島、尖閣諸島は、周辺の国々と紛争中であり、水没の危機にあった沖の鳥島は、200カイリ経済水域の権益を守るため大々的に護岸工事を施した。
 地図上の国境や表記は、自国の立場を端的に示している。日本の地図では、北方四島は日本固有の領土として表示されているが、ロシアの地図は根室海峡に国境線を描き続けている。
 一昨年韓国で発行された地図を見たが、大韓民国の国境は、鴨緑江(アムノック川)で中国と接しており、北鮮の文字も、南北間の境界線(いわゆる38度線)も見当らない。
 西側の海も「日本海」ではなく「東海」であり、「竹島」は「独島」の名で韓国領となっている。
 小は渓流に棲むあゆの縄張り争いから、大は国家間の領有権紛争まで、まことに境(さかい)は、諍(いさかい)のもととなっている。 (MMC)


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