この欄に「ドルの一声」と題して第1回のコラムを書いてから、今号でちょうど丸10年、103回を数える。
今回の見出しは「ブッシュの一声」としたが、両者の内容は日本の「米国一辺倒」ぶりをあらわにしている点で大変似通っている。
貿易依存度の高さと、核の笠の下、日本は米国に対し頭が上がらない。
10年前の「ドルの一声」の際は、クリントン大統領の円高容認の「ツルの一声」で、円の対ドル相場が、1ドル115円台から一挙に110円台になり、さらに「もう一声」で106円台に急騰している。
急激な円高は対米輸出高が、全体の3割も占めている日本にとって、対米輸出がしにくくなり、景気動向に容易ならざる影響を及ぼしかねない。関係者は真っ青になった。
「ブッシュの一声」のほうは、いうまでもなくイラク攻撃に際して、ブッシュ大統領が小泉首相に突きつけた踏絵であった。
多くの国が反対したり、賛成に躊躇している中、中近東に浅からぬ因縁を持つ英国は別として、日本は真っ先に踏絵をふんで、米国に「うい奴だ」と思わせたのは、北朝鮮の脅威に晒されている特殊事情を抱えているからに他なるまい。
さて、この2つの「米国の一声」を挟んでの10年間は、まさにバブルの崩壊過程そのものであった。
90年前後のGDP(国内総生産)の年成長率は7%前後あったが、93年に入ると、一挙に1%台に落ち込み、一時的に回復を見せても、不況に傾斜した経済構造は変わらず、昨今は再三のマイナス成長に甘んじている。
ここに来て隣国中国から広がったSARS(重症急性呼吸器症候群)が追い討ちをかけ、さらに東京電力管内では、原子力発電所の停止に伴い6月以降の「電力危機」が迫っている。
国際評価でも、スイスの国際経営開発研究所が発表した03年の世界競争力ランキングによると、日本は主要先進国中、イタリアを除き最下位となっている。
こうしてみると、日本の現在は八方塞がりで、良いことは1つもないように思えてくる。
過去の歴史を振り返ってみると、日本は何度か絶望的な危機をうまく乗り越えてきている。そこで今回の場合も、多くの人は口先で懸念をとなえていても、心の隅では「そのうちなんとかなるさ」と思っている向きがある。
しかしながら坐したまま楽観視していると、本当に取り返しのつかない段階になってしまうに違いない。
それを避けて明るい未来を築くには、社会の各分野で、それぞれ従来以上の知恵と働きを発揮して、この危機的な現況を打開していくしかない。
農協分野についていえば、各種の事業を営んでいるが、なんといっても農業者が農協を作っているゆえんは、農産物の生産・販売を円滑に推進することにある。
ちょうど1年前に全中の山田専務は、農協陣営での諸事件に関連して「改めて食の安全と安心を地域からつくりあげる運動を農協が担いたい。その中で消費者と本当の連携を再構築したい」といわれた。
換言すると、良心的に良品を供給し、消費者と良好な関係を作っていくという「三良主義」の実践こそ、農協陣営が21世紀に存在価値を発揮できる唯一の道であろう。
本欄に寄稿してちょうど10年になるが、第25回農協人文化賞表彰関連の記事の載る今号をもって終わりといたします。
終わりに当たり、長い間目を通してくださった読者の皆様と、貴重な紙面を提供していただいた農協新聞に御礼を申し上げたい。 (MMCこと阿部信彦) (2003.6.13)