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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』
農業と消費者を信頼で結ぶ事業を

――生産者に近い地方卸市場の特色活かして


堀内 嘉之 全農越谷青果(株)社長

 堀内嘉之社長は、全農が全株式を取得する以前からの累積赤字を昨年度すべて解消し、今年が新生・全農越谷青果の初年度だという。青果物流通における市場経由率は80%を割り、苦戦する地方卸売市場が多い中で、「手を拱いていてはダメ。生産者に近い地方卸売市場の特色を活かして積極的にトライする」同社の姿勢が生協や首都圏の量販店を中心とする取引先に評価された結果だといえる。そこで、最近の青果物流通の状況と今後の同社のめざすものを聞いた。

◆産地の大型化、量販店のシェア拡大で市場機能が縮小

堀内 嘉之氏
(ほりうち・よしゆき) 昭和20生まれ。大阪支所(園芸)、本所(園芸)、全中出向(営農生活課)、名古屋支所(園芸)、57年東京センター販促課長、63年札幌支所園芸課長、平成元年太田青果市場野菜部長、7年東京センター場長を経て11年全農越谷青果(株)代表取締役社長。

 ――最近、市場経由率が下がってきていますが、それはなぜですか。

 堀内 市場は、集荷・品揃え、分散、情報伝達、価格形成、産地への指導、信用付与などの機能をもっていますから、「モノ不足時代」には大きな役割を果たしましたし、物流・商流が未発達なときには非常に便利な存在だったわけです。
 しかし最近は、産地が大型化してきたことや量販店のシェアが拡大し大きな力を持つようになり、機能が縮小してきています。
 量販店からみれば、現在の市場は、信用機能とかデリバリーをローコストで行える施設といえるかもしれません。産地は、市場の価格形成機能に期待していたと思いますが、最近は、需給バランスに敏感に反応した形で必ずしも価格が連動しづらいケースが出てきています。つまり、量販店の小売戦略によって初めに売価が決まっているというケースです。
 さらに、輸入が増えてきています。輸入物はあらかじめ価格が決まっていますから、安定した価格で仕入れたい外食や食品加工業界にとっては便利な存在です。しかも青果物需要の半分以上は、外食や食品加工です。こうした変化によって、市場だけが流通の必須の機能ではないということなってきたのが、現状だと思いますね。

 ――最近は量販店でも地場もののコーナーを設けるなどの動きが強まっていますね。

◆地域密着型で集客力を高める量販店

 堀内 ある大手量販店は「エブリディ・ロープライス」ということで一定時期成功はしましたが、全国一律という面が強く出すぎて、地域密着型の競合他社に負けたわけです。
 地域地域に食文化があり、嗜好には微妙な差があります。そして、トータル的にパイが大きくならず競争だけが激しくなる時代には、「金太郎飴」的な発想はあまり効果がない。それよりも、地域密着型の商売をと考えると必然的に地場の青果物をもっと真剣に取り組もうということになります。旬のイメージが強く出ますし、地域の生活者は身近に感じますね。そこに安全・安心を付加し「作り手の顔が見える」というやり方を量販店も取り入れてきています。
 私どもでも、近隣のJAやここの地場の出荷組合と一緒になって、JA直売所のようなインショップを集客力のある食品スーパーで展開しています。千葉の店なら千葉の地元のものを売るわけですね。しかも、夏場などは毎日、朝どりで持っていくわけです。

 ――売上げもあがりますか。

 堀内 売上げというよりは、お店のイメージアップとお客様の楽しさを演出することで、来店客数も増え、青果物以外の商品を含めて買上げ点数が増えるという効果が大きいですね。

 ――安心・安全ということでは、トレーサビリティへの関心が高くなっていますし、無登録農薬問題がありましたが・・・。

◆「全農安心システム」で他社との差異化をはかる

堀内 嘉之氏

 堀内 食品を扱っているお店は規模に関係なく、安心・安全やトレーサビリティに関心を持っていますし、消費者中心に発想していかなければいけない時代ですから、栽培暦を記帳し、それを情報開示することが青果物でも必要だと思います。
 無登録農薬問題は、安心・安全に直結した問題ですから、親しく付き合っている農家には、無登録農薬の使用は絶対ダメだということと、適用作物を順守すること、そして残留農薬問題がありますから希釈倍率と使用時期をキチンと守って適正に使用することを徹底してくださいといっています。また、マイナー作物については、JAや普及員とよく相談をしてくださいといっています。
 さらに、作物別に農薬をまとめた本があるので、農家を訪れるときに、その農家が作っている作物のページを拡大コピーして渡しています。
 生産から販売まで一貫して全農が関与する「全農安心システム」は、栽培記録から検査まであらゆる要素を持っていますから、もっと広め、膨らましていきたいと考えています。これが他との差異化をはかる一つの方向だと思いますね。

◆元気な生産者を組織した「旬鮮ネットワーク」

 ――生産者を組織した「旬鮮ネットワーク」がありますね。

堀内 嘉之氏

 堀内 私どもは地方卸売市場ですから、中央と対等に競争することはできませんが、中小は中小なりに「中小ならではの機能」は何かを自己点検して、他にはないという機能を一つよりも二つ三つと持つことだと考えています。その一つが「高鮮度・高品質な野菜」で夕市がたつということです。
 そのために、近在の篤農家の方を組織したのが「旬鮮ネットワーク」で3年経ちます。この人たちは、専業農家で技術もあり、モノがよく、プライドがあります。人を雇っている企業的な農家もあります。そのため、JAの共販になじめず一匹狼的なところがあります。ここは全農資本であっても公的な市場ですから、彼らが夕市に出荷することを断ることはできません。そして、高鮮度・高品質へのニーズがありますから、前向きに取り組んでいるということです。
 この人たちは横の連携がありませんから、世の中の変化に応じた全農越谷青果としての情報提供や栽培方法などの提案をしています。

 ――年齢的にはどういう世代の人たちですか。

 堀内 働き盛りの30歳代、40歳代、50歳代前半と、若い人が多いですね。技術もあり、頼もしい人たちですよ。

 ――このネットワークは、これからさらに発展しますね。

 堀内 中央卸売市場は農家との距離がありますが、私たちは農家と近いわけです。そういう意味では、ここが彼らの集荷場所であり、かつ市がたつわけです。今後も情報交換を密にして、世の中の変化や量販店の動きを伝達して、セリだけではなく、外食や食品加工やインショップなど業種・業態別に積極的に取り組み、生産から販売までを共同の事業として行きたいと考えています。
 これからは、量販店の地域密着型と同じように、個々の規模や考え方に応じて、きめ細かな対応をしていかなければいけなくなり、投網論的に農家を束ねていくのは難しい時代になるかもしれませんね。

 ――市場も変わっていかなければいけないわけですね。

◆待って商いをする時代ではない。自ら情報つかみ積極的にトライ

堀内 嘉之氏

 堀内 待って商いをする時代ではないと思います。産地からきたものを右から左に流すだけでは付加価値がありませんから、従来とは違った機能に踏み込んでいかざるを得ないですね。

 ――どういう機能ですか。

 堀内 いま、病院給食センターから注文を受け、調達・ピッキングして納入しています。私どもの仕事は量販店が中心ですから、土日に集中して平日が比較的ヒマなんですね。この平日をフルに稼動させるために、従来と違う業種・業態と取引きすることが必要だからです。病院給食は、365日休みなしですし、鮮度管理、衛生管理できめ細かな対応が求められます。幸いにもいまはいい評価をいただいていますが、さらにそれをアップするための準備もしています。

 ――市場の合併が進んでいますが、これに対しては・・・。

 堀内 いま市場の合併やグループ化が進んできていますが、次にくるのは系列化だと思います。そうした中で、全農東京センターと有機的な連携をとって、東日本のウィングを担っていく任務があると考えています。そのことで全農園芸販売部直販グループの機能を磨き、国産農産物を守り日本の食文化を大事にする全農ならではの仕事をして、他社との差異化ができたらと思いますね。
 いずれにしても、手を拱いていてはダメですから、自分の手でニーズをつかみ、自分の足で情報をつかみ、生産者に近い地方卸売市場ならではの小回りを利かせた特色をだして、積極的にトライしていきたいと考えています。




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