【講演要旨】
プロベナゾールは、その後に開発された抵抗性誘導剤の場合とは異なり、「抵抗性誘導型農薬」をめざして探索されたものではなかった。
通常のいもち病防除剤探索研究の中から防除効果の高い母核となる化合物を見出し、それを最適化してプロベナゾールを開発していった。
当時の同社の「通常」の探索研究は、抗菌活性の有無を調べるin vitro試験を経ることなく、最初からポット栽培のイネを用いるin vivo試験により防除効果の高い化合物を選抜する方法を採用していた。
これにより、防除効果発現に抗菌力を必要としない抵抗性誘導剤を創製することができた。ただ、真に抵抗性誘導剤創製に貢献したのは、プロベナゾールの母核となった化合物を見逃さなかった探索担当者の優れた観察力と柔軟な発想だった。
プロベナゾールの作用機構は、(1)過敏感細胞死を誘導させる、(2)抗菌物質の生合成を活発化させる、(3)リグニンの生合成を活発化させる、にまとめられる。
プロベナゾールは、イネいもち病菌を感染させたときに感染の局部でのみ誘導される。換言すると、プロベナゾールの役割は、病原菌の侵入に対してイネがいつでも迎え撃ちできる状態(プライミング状態)にするところにある。
ちなみに、現在、抵抗性誘導型の農薬として登録されているのは、プロベナゾールとチアジニルの2薬剤。他にイソチアニルが登録申請中。
3剤で処理したイネのマイクロアレイ解析を行うと、これらの薬剤処理により多数の遺伝子の発現が変動していることが観察された。このことは、作用点が情報伝達系の上流にあるほど多くの遺伝子を制御できる可能性を示唆している。
〈まとめ〉抵抗性誘導剤の作用機構研究の進展は、植物の機能を利用する新しい薬剤の創製や新しい防除方法の確立に結びつく可能性が高い。この分野の研究が、農業現場で活用されることを期待している。