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牛の「万病のもと」いかに防ぐか  夏場の飼養管理対策

 「牛飼いは虫飼い」ともいわれる。ここでいう「虫」とは牛の第1胃(ルーメン)内に共生している無数の微生物を指すのだが、まさにこの言葉通り、家畜として牛を飼う上でもっとも重要なのはルーメン内の微生物の働きを正常に保つことにほかならない。
 特に夏の高気温・高湿度はルーメン機能を維持する上での大敵だ。ここ数年は夏の猛暑によって全国で1000頭以上の牛が死亡した年もあり、夏場の適切な飼養管理は現場の抱える大きな課題となっている。
 ここでは、その夏場の飼養管理のポイントと、さらにルーメン機能を正常に保つために役立つ資材として、出光興産が新発売する機能性飼料について紹介する。

◆ルーメン異常は「職業病」

 ルーメンの大きさは牛の4つの胃の8割を占める。一度飲み込んだ食料を反芻するための胃だが、その際、微生物の作用により食べ物を発酵し、栄養素のカタチに変える機能を持つ。
 ルーメン内のpHは正常ではおよそ6.5前後に保たれているが、このバランスが崩れpHが低下し、胃の中が酸性となり消化不良を起こす「ルーメンアシドーシス」になると、乳牛であれば生乳の生産量は減り、肉牛であれば増体に影響が出るほか、胃内にガスが溜まる鼓脹症や第4胃が移動し閉塞などの症状を起こす第4胃変位など重篤な病気を引き起こす原因ともなり、「万病のもと」といわれる。
 しかし、家畜として飼われている牛は、自然状態では食べることのなかった濃厚飼料などを給餌され、常にルーメンが酷使されている状態なため、「ルーメン異常は、いわば『職業病』のようなもの」(JA全農畜産生産部)。従ってルーメン内のpHを正常に保つための牛群管理が畜産経営にとっての最重要課題となる。
 一度、ルーメンに異常が発生すると、強引にpHをあげるために重曹を給餌するなどの対策が必要で、回復までには早くても1週間から10日ほどかかってしまう。


◆屋根を白く塗り畜舎温度を下げる

畜舎内の通気をよくするために換気扇の取り付けや位置の変更が必須 特にルーメンの異常が多く発生するのは夏場だ。原因はヒートストレスで、その被害は近年拡大傾向にある。
 中央畜産会の調べでは、2008年の猛暑では全国で636頭(乳牛483頭、肉牛153頭)、異常気象と認定された10年には全国で1605頭(乳牛1344頭、肉牛261頭)の牛が死亡または廃用となった。
 ヒートストレス対策として中央畜産会やJA全農が呼びかけているのは、適切な牛舎管理と飼養管理である。
 牛舎管理では、換気扇を牛舎の片側に外向きに取り付ける「トンネル換気」などで畜舎の通風をよくするほか、直射日光を遮るための「緑のカーテン」などを勧めている。そのほか、畜舎の屋根に消毒用の石灰を水に溶かして吹き付け、屋根を白くすることで、太陽光を反射させ畜舎内の気温上昇を防ぐ手法などもある。
 宮崎県のとある畜産農家でこの石灰の吹き付けを実施したところ、飼養頭数約200頭、屋根面積800平方mの規模で、5人で作業し約3時間、1平方mあたりコストは33円と非常に安上がりな上、牛舎内の温度が約5℃も低下したなど効果は高い。
 飼養管理の面では、▽粗飼料と濃厚飼料の配分を変える▽常に新鮮で冷たい飲み水を用意し水に直接陽が当たらないようにする▽給餌量を減らし給餌回数を増やす▽比較的涼しい夜間に多く給与する、などの対策が有効だ。

(写真)
畜舎内の通気をよくするために換気扇の取り付けや位置の変更が必須


◆天然素材由来の機能性飼料「ルミナップ」

7月2日発売の「ルミナップP」のパッケージイラスト こうした夏場の暑熱対策に限らず、年間を通じた牛のルーメン機能の維持が重要だが、これを容易にする資材として出光興産が開発したのが「ルミナップ」シリーズだ。
 これはカシューナッツ殻油(からゆ)という天然由来の成分を利用した牛用混合飼料で、同社は昨年12月にルーメン機能が低下した牛に3日間スポット給与する「ルミナップTB」を発売したが、7月2日にはペレットタイプで日常的に飼料に混ぜてルーメン機能を正常に保つタイプの「ルミナップP」を新発売する。
 カシューナッツ殻油は、ルーメン内の細菌バランスを正常に保ち有害細菌の異常な増殖を抑えるほか、エネルギー源となるプロピオン酸を増やし、ルーメンの中で飼料が発酵する際に生じるメタンガスを抑制するなどさまざまな効果があることが学会で報告されている。ルーメン機能を常に安定維持させることで栄養分のロスが抑えられ、生産コストの低減にも役に立つ。
 ルーメン機能を維持するための添加物というと90年代頃までは抗生物質が一般的だったが、牛だけでなく人間にも悪影響があるとの指摘からEUをはじめ各国で使用禁止となっている。「ルミナップ」シリーズはこうした抗生物質に代わる製品であり、なおかつ天然由来なので安心で画期的な新製品だと言える。
 すでに「ルミナップTB」を使った畜産生産者からは、「弱って給餌量の減っていた牛に給与したら、餌を食べる量が元に戻って活力が回復した」と高い評価を得ている一方で、「ルーメン異常が起きているかどうかの判断は難しく、いつ給餌すればいいのかわからない」、「ルーメンが弱って食欲が落ちている牛に、さらに日常と違うエサを与えるのは難しい」などの意見を受けて、日常的に普段から与えられるタイプとして「ルミナップP」を新発売することとなった。
ペレットタイプの製品写真 製品サイズは直径5mm、長さ10mm(ともに平均)で、1日に牛1頭あたり30〜100gを給餌する。製品は10kg袋入り、または1kg袋入りで、販売は共立製薬を通じて全国のJA、酪農協、動物用医薬品販売店などで販売される予定だ。
 出光興産では「これまで市場になかった製品ということで、幅広く使ってもらいたい。今後も生産現場のニーズにあわせた商品開発を進めたい」(アグリバイオ事業部)と話している。

 

(写真)
上:7月2日発売の「ルミナップP」のパッケージイラスト
下:ペレットタイプの製品写真

 

(2012.07.02)