「小規模生協が事業連として連帯、パルシステムとなった今も、事業の中心に貫いている」「産直」。そういううたい文句の書籍である。新書版でもない、やや大型のA4版。パルシステム(供給高1500億円規模)と関係生産者団体に学習用を期待されている。だから実にグットタイミングの発刊だ、即座にそう思う。「中国冷凍餃子」事件が日本生協連、全国の単位生協に、継続してこの輸入冷凍餃子を扱うのかの決断を迫っているからである。ではこの商品が何故産直に関係するのか。
ここには生協に限ってだが、当面する難題がある。本書にもコラムで取り上げられている「フェアトレード・国際産直」である。つまり産直は国産農産物を大事にすることから発した特殊な生協事業である。国産で済めば、なにも海外に原料を求める必要はあるまい。餃子は皮を含め、国産で商品製造が十分だからだ。また、大手スーパーはなんと「顔の見える関係」とまで謳い文句をいう世相だからである。
本書の章立てを紹介しておこう。やや実務部分が入り組んでいるが、判りやすい。
第1章 パルシステムが目指す「産直」とは
第2章 安全・安心・環境保全の取り組み
第3章 流通―組合員のお届けするパルシステムならではの仕組み・取り組み
第4章 パルシステムが目指すもの、今後の課題
ほぼ産直事業のすべてが尽くされている。学習テキストとして十分である。しかも、この総論に続くシリーズ『記録編』(08年4月刊行)、『物語編』(同 5月刊行)が予定されている。その熱意に敬意を表したい。それこそ、パルシステムに結集した前身である「首都圏コープ事業連合」時代の初心を忘れない企画だからだ。
その時代に全農に籍を置いて関わった経験から、ひとつの事例を挙げる。冒頭はしがきで紹介されている新潟県阿賀野川市ささかみ農協。この農協が日本農業賞・食の架け橋賞大賞を受賞したと触れているからである。1982年、この農協は合併前の小さな笹岡農協だった。新潟市に近く、1000名強の組合員が団結していた。都市市民と米の産直を展開する苦闘の最中に出会った。今は亡き五十嵐寛蔵組合長の決意は、小柄に似合わず、数少ない米産直の先進地農協組合長と同じ大きな志だった。その分だけ食管法体制下、悲痛なものだったからである。そこでなにが問題か。法と一体の米共同販売・共同計算方式に例外を作れるかどうかである。作れないなら決然としてヤミ米という批判に甘んじるか。そういう訳に行かないならどうするか。当時の笹岡農協の決断は、今日改めて全編完結するシリーズを通して、改めて評価したい。
もうひとつ。冒頭触れた「国際産直」問題である。つまり「国内で調達できない農産物」、「一般の海外品に比して安全性が高い」、「生産国の天然資源の枯渇や環境破壊を招くことがない」、「公正な貿易いわゆるフェアトレード」である。コラムにしては十分慎重に書き込まれている。ここには1990年から始まったフィリピンのネグロス島産「エコ・バナナ」の実践がある。実に稀有壮大。戦時中のパイナップル、バナナを想起する時代ではないが、国際戦略物資に近いのである。それを「国際産直」で理念化する生協独自の対応である。そのことを評価したうえで、なお「中国冷凍餃子」とはなにか、本格的な論議を期待したい。