表紙を飾るジーンズ姿の素敵なこと!『イョッ、輝子さん』である
吉武輝子氏と言えば知らぬ人のない硬派の論客。その人の著書を紹介するにはかなり緊張を要する。しかしこの本を手にとり、眺め、読んでみて驚いた。今までの私の吉武像とはまるで違う。従来のイメージからは考えられないことだが、私も文中にあるように「輝子さん」と呼びたくなる。 輝子さんは沢山の病気持ち。そして装いだけでなく心がお洒落。「金持ち」ならぬ「人持ち」が特技で猫にまでもてる。そんな輝子さんが人生百年時代を「心しっかり」「柔らかく依存しつつ」ひとりで生きるコツを披露してくれるのが本書である。
先ず何といっても読んで楽しい。好きで集めた食器を惜しげなく普段使いにし、それ等を愛しげに語る場面には、ちゃんとカラー写真が添えてある。ああ、これがお気に入りの伊万里、あれが九谷と分る。お宅内に設えられ彼女の癒し空間を飾る花々や絵画、身に着ける個性的なアクセサリー、絶対に手抜きをしないというパジャマやガウンたちもちゃんとカラーで載っているから、彼女がどんな事にどの様にこだわるのかが良く分る。
輝子さんが好きなのは凛然とした潔さ、嫌いなのは買ってきたお惣菜をプラスチック容器のままつつくような「いぎたなさ」。「ひとり暮らしの怖いところは、他人の視線がもたらす緊張感が希薄になること」「楽ちんだからと、パジャマ姿でうろうろしたり、スカートもスラックスもゴム入りを常用すると…」などを読んで、ギクッとする人も多いはず。何しろ彼女が今一番欲しいのがあのキムタクに伍してのベストジーニスト賞だと云うからびっくり。でもあの表紙を飾る写真からして、来年当りは実現するかも、などと本気で考えてしまう。
吉武世代の暮らしには世間への気配りや、他人との、家族との、家庭内同居人との間合いや気づかいが息づいていたはず。吉武さんはその技を自己の主張に沿って今日風に紡ぎあげた達人。その達人の鮮やかで見事な日々を垣間見られるのが嬉しい。最近多い「ひとり暮らし本」の中では颯爽たること群を抜くはずだ。 必携となった酸素ボンベを美しい布で飾り、それをお供に全国を駆ける。合唱団で歌い、平和のための朗読劇を続ける輝子さんから、人生を百倍楽しむヒントを貰った。
「お取り寄せ」達人の彼女が文中に散りばめたお勧め品。理由と電話番号が添えられているのも楽しい。私もあれを取り寄せてみようかしら。